・天の川の超大質量ブラックホールと、その周りのガスや塵の動きをシミュレートした動画が公開される
・以前作られたシミュレーションよりも、実際のブラックホールの性質に近くなっており、ダイナミックに動いている
・来年には世界中の電波望遠鏡を使った超大質量ブラックホールの観測が計画されており、実物を見られるかも
私たちの天の川銀河の中央には、25,640光年にある超大質量ブラックホール「いて座A」があります。いて座Aの巨大な重力によって私達の銀河はつなぎ止められていると言っても過言ではありません。ですが、実はこのブラックホールは未だに直接観測されたことはないのです。
実際、ブラックホールを見ることは不可能です。というのもブラックホールは光をも吸収してしまうからです。しかし、この数十年天文学者や天体物理学者たちは、いて座Aの周囲の宇宙を熱心に観測しています。周囲の宇宙にはブラックホールの存在を示す現象が観測されるからです。今回、研究チームはそのデータを使って、立体の仮想現実シミュレーションを作りました。研究を率いたのはロドバウド大学の映像天文物理学者ジョーディ・ディブラーです。研究成果は“Computational Astrophysics and Cosmology”で発表され、動画はYoutubeで見ることが出来ます。
https://comp-astrophys-cosmol.springeropen.com/articles/10.1186/s40668-018-0023-7
中心で激しく回転しているオレンジの物質は、ブラックスフィアです。ブラックホールはとても密度が高く、光子さえも脱出速度に達することが出来ないほどの重力を持った天体です。そのため真っ黒なわけですが、その周りには塵やガスが集まります。ブラックホールに落ち込んで戻ってこれなくなる物質もありますが、ブラックホールの生み出した磁力線に捕らえられて、両極から相対論ジェットとして吹き出すものもあります。
近年発表されたブラックホールのシミュレーション動画として有名なものといったら、映画『インターステラー』の中で使われた、“Gargantua”によるものでしょう。見た目はとてもきれいで、良くできていますが、科学的な正確性では今回の動画には及びません。ディブラーによる動画は、『インターステラー』のものに比べると地味です。どちらかというと、以前の研究で作られたものにどちらかと言うと似ています。
しかし、以前のものとは決定的な違いが3つ。
- 以前のシミュレーションでは、ブラックホールが静止しているものと仮定した、シュバルツシルト解によって計算されていました。今回のシミュレーションでは、ブラックホールに角速度が加えられ、回転しているものとして、カー解によって計算されています。
- 以前のシミュレーションでは平板だった降着円盤が、今回のシミュレーションではドーナツ状になっています。
- 磁場の影響をシミュレーションに加えています。
いて座Aは回転するカー・ブラックホールと考えられているため、以前のシミュレーションよりも現実に近づいたと言います。とはいえ、そこまで大きな違いは生んでいないのも事実です。ドーナツ型のシミュレーションも以前やられたことはあります。ただ、今回の動画がすごいのは、対象が動いているということです。ブラックホールの周りを取り巻く物質が渦を巻きながらダイナミック動く様子が、理論通りに正確に再現されているわけです。
来年に計画されている、「イベント・ホライズン・テレスコープ計画」では、地上の電波望遠鏡を総動員して作った仮想の超巨大望遠鏡を「いて座A」超大質量ブラックホールに向けて、その姿を見ようとしています。今回のシミュレーション動画は、その姿を先取りしていると言えるかもしれません。しかし、違っている可能性もあります。というのも、シミュレーションが間違っているからではなく、地球からの視点と、シミュレーションの視点が異なっているからです。
解析の期間も含めて数年後には、リアルなブラックホールの姿を拝めるでしょう。今回のシミュレーションのようなダイナミックな姿を見せてくれるのか、とても楽しみです。
via: Science Alert/ translated & text by SENPAI
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