11月25日放送の第7話が視聴率10.6%と初の2桁を記録した「今日から俺は!!」(日本テレビ系)。翌日の仕事や学校が頭をよぎる日曜午後10時30分スタートの連ドラであり、同25日の午後9時から放送された「下町ロケット」(TBS系)の視聴率が12.0%とわずかな差であることからも、申し分のない結果と言えるでしょう。

 視聴率だけでなく、ネット関連の数字も絶好調。公式ツイッターのフォロワー数が秋ドラマ断トツトップの約23万人で、YouTubeでのオープニング動画もわずか10日で90万再生を突破し、Huluで配信している「未公開シーン復活版」も国内ドラマ過去最高の視聴数で推移しているそうです。

 クチコミを見ても小学生から中高年まで幅広い層の人々が、「単純に面白い」「何も考えずに笑える」などの絶賛ばかり。ドラマとして面白いのは見ればわかりますが、今回は、画面の裏側にある「今日から俺は!!」がすごくて深い3つの理由を解説します。

高視聴率とHulu視聴数をダブルゲット

 すごくて深い1つ目の理由は、「無茶振りからのアドリブ」という演出で、高視聴率とHulu視聴数をダブルゲットしていること。

今日から俺は!!」は、俳優が台本通りに演じるシーンばかりではなく、「自分で考えて演じてほしい」というアバウトなト書きが混在。しかも「数パターンを求められる」という無茶振りに俳優たちが必死に応えることで爆笑シーンを生み出し、視聴者の心をつかんでいます。

 中でもアドリブで笑いを誘っているのは、賀来賢人さん、佐藤二朗さん、ムロツヨシさん、吉田鋼太郎さん、橋本環奈さん、シソンヌの2人。現場の共演者やスタッフが「笑いをこらえるのに必死」というほどのアドリブを見せ、使用カットのほかHuluでの未公開カットに貢献しています。

 見逃せないのは、「広告料につながる高視聴率と、Hulu会員の会費を得ている」というビジネスの側面。「放送される使用カットに加え、放送されないはずの未公開カットでもお金を稼ぐという画期的なシステムを作り上げた」のです。

 このようなアドリブ芝居を入れると、ストーリー性が失われてコントのようになりがちですが、「今日から俺は!!」がすごいのはあくまでドラマとして成立しているところ。佐藤二朗さんが「台本通りにやるのが俳優本来の仕事」「基本的に笑わせようとしていません」と語っているように、俳優たちは自分の役柄をしっかり演じるためにアドリブ芝居をしているのです。

脚本・演出を手掛ける福田雄一の熱さ

 そんな俳優たちのアドリブを引き出しているのは、脚本・演出を手掛ける福田雄一さん。

 福田さんの脚本・演出は、橋本環奈さんが「無茶振りに関しては天下一」と話すような「アドリブを繰り返し求める」だけではありません。「セリフをかんでも、つまづいてコケてもNGにしない」「台本のくだりが終わっても、すぐにカットをかけない」「セリフやアクションなどの間は俳優に任せてみる」「小道具やオープニングのディテールにも徹底してこだわる」などの超個性的な制作スタンスで知られています。

 さらに特筆すべきは、福田さんのマンパワーと熱さ。現在プライムタイム(午後7~11時)の連ドラは「脚本も演出も2~3人で分担する」のが既定路線ですが、福田さんは「全話の脚本と大半の演出を手掛ける」という離れ業を見せています。つまり、「福田さん1人で3~5人分の仕事をこなしている」ということ。すごくて深い2つ目の理由は、福田雄一さんそのものです。

 そんな「福田さんの作品に参加したい」という俳優は多く、とりわけ若手にとって“福田組”は憧れの対象。「今日から俺は!!」に週替わりゲストとして出演した小栗旬さん、柳楽優弥さん、中村倫也さん、山田孝之さんらの顔ぶれが、福田さんのカリスマ性を物語っています。

 今作でも、賀来賢人さん、伊藤健太郎さん、太賀さん、矢本悠馬さん、鈴木伸之さん、磯村勇斗さんら、多くの若手俳優が出演。笑いと熱さあふれる福田さんならではの撮影現場を経験し、さらなる飛躍を遂げようとしています。

古いモチーフなのに「新しい」「面白い」

今日から俺は!!」が異例のヒットと言われているのは、原作が19881990年に連載されていたツッパリ漫画であり、ドラマ版の舞台も80年代であるなど、「なぜ今これを?」「この原作と設定で大丈夫?」という疑念を抱かせていたから。累計発行部数4000万部の人気漫画とはいえ、約30年前の作品であり、しかも、ツッパリと80年代という舞台設定が受け入れられるとは思われていなかったのです。

 その意味で、すごくて深い3つ目の理由は、「古いモチーフを使っているにもかかわらず幅広い年齢層から支持を集めている」こと。古さは原作漫画だけでなく、制服やインテリアなどの小道具、主題歌の「男の勲章」にも表れていますが、それらがドンピシャ世代の30~40代のほか、小学生など子どもにも「新しい」「面白い」とウケているのです。

今日から俺は!!」を「ただのおバカ作品」「ふざけているだけで内容は浅い」とやゆする人もいますが、果たして本当にそうでしょうか。年代を問わない笑いは、すなわち、「普遍性がある」ということ。しかも、それは福田さんをはじめとするスタッフと俳優が、最初から狙って作り上げたものです。

 これまでも、福田さんは「アオイホノオ」(テレビ東京系)、「スーパーサラリーマン左江内氏」(日本テレビ系)、映画「HK 変態仮面」などで過去の漫画を映像化するなど信頼性抜群。「今日から俺は!!」でも、最後まで底抜けの明るさと良い意味でのおバカさを貫いてくれるでしょう。

コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志

アドリブ演技が話題の橋本環奈さん(Getty Images)