日本テレビ系「今日から俺は!!」日曜22:30〜)第7話。通称「廃ビル回」は、放送前から「実写化不可能と言われた禁断回」「原作伝説のエピソード解禁」……と公式自らが煽りまくっていた。これがすごく感慨深い。みんな一緒だったのだ。同じことを考えていたのだ。

というのも、原作今日から俺は!!」が連載されていた1990年代。少年だった筆者は、特に誰かと語り合うでもなく、この漫画を1週間の楽しみにしていた。今回扱われた「廃ビル回」を読んだときは、「とんでもなく面白い回だ!!!」と1人興奮していた。

当時はインターネットがまだ普及しておらず、当然、今のように気軽に投稿できるSNSや掲示板のようなものは一般的ではなかった。それなのに今話の煽りは、「伝説回」だの「禁断回」だの……。当時の読者及びこのドラマ制作の御人も、おのおの1人で「廃ビル回」を神回認定していたのだ。確かめ合ってもいないのに共通認識として神回だったのだ。この現象がなんだか異常に嬉しい。後に2ちゃんとかで祭り上げられていたのかも知らないけど。

そんなハードルが上がりまくった第7話。福田監督は原作を忠実に再現。ありがたい。賀来賢人も、今までで1番三橋だったし、太賀も超今井だった。

今井のターン
紅高に通う今井が、軟葉高校に侵入し、理子(清野菜名)の下駄箱にラブレターを忍ばす。これが気に入らない三橋はラブレターを盗み見、今井をからかうために書かれていた待ち合わせ場所に向かう。しかしそこには、血だらけで倒れる紅校生の姿が。駆けつけた伊藤(伊藤健太郎)は、三橋が殺ったと勘違い。理子も「どうしてもっと計画的にやらないのよ!」と涙を流す。そこに薔薇の花束を持った今井が現れる。当然のように三橋の犯行と思い込み、パトカーサイレンを聞いて「逃げろ三橋」と真剣な表情。一方の伊藤は「逃げるな三橋。やってねーんだったら逃げるな」と止めるも三橋は、「逃げる」を選択する。普段の横柄な態度から器の大きそうな三橋だが、こういうときはただの小物に成り下がる。人間らしい。

家にも理子の家にも警察の姿が。橋の下でゴザのようなものを身体に巻き付け夜風を凌ぎ途方に暮れていると、そこに死んだはずの紅校生が現れる。三橋は腰を抜かして「助けてくださーい!」と泣き叫ぶ。ここに今井と谷川(矢本悠馬)が登場。全ては2人が仕組んだ罠だった。初めて三橋を陥れることに成功した今井は、それはそれは大喜び。放心状態の三橋とインスタントカメラで記念撮影をするなど、全力で勝ち誇った。

翌日も三橋は今井にハメられたことで魂が抜け、無気力状態。嬉しくてたまらない今井は、「三橋に今井が勝った!」という内容のチラシを配るなどご機嫌な様子。しかし、そんな今井の顔には死相が出ていた。伊藤や理子から「殺される」「三橋から逃げろ」の忠告に、今井は少しずつ事の大きさを理解する。そして、主人公でありながら作中で最も卑怯で性悪の男・三橋が眼を覚まし、最悪の復讐劇が始まる。

永遠に三橋のターン
なんだろうこのワクワクは。今井がやったことは、度が過ぎるとはいえ、単なるイタズラだ。これに対して殴る蹴るのバイオレンスでは三橋の気は済まされない。あくまでイタズラで返さないと三橋は満ち足りない。どれだけイタズラの範疇で今井を傷つけることが出来るのか?このお題と、今井いわく「ねじねじ曲がった性格」の三橋は、相性が良すぎるのだ。

今井のイタズラが大掛かりだっただけに、三橋の「やっていい範囲」がメチャメチャに拡がっている。その心中は定かではないが、三橋は、「殺さなければいいや」ぐらいに思っていたのではないだろうか?

三橋は手始めにマンションから今井の頭上に植木鉢を落とす。ギリギリ避けたのか、避けさせたのか。その後も、近所の子供をコントロールし、今井を「うんこ大王」としての地位を確立させる、開久に中身の入った缶を投げつけては、今井に罪を着せる。弱った今井の前で、神経を逆撫でする歌とダンスを披露し、完全に今井を逆上させる。そして、追いかけてきた今井を廃ビルの一室に閉じ込める。

あえて同じ立場を装う三橋
全てが罠だったと気付いた今井は、隣の部屋の窓から覗き見る三橋に、「三橋くんさぁ、コレどうするつもり?」と君付けで機嫌を取りながら牽制。三橋は「嫌だなぁ、今井君。僕はやられたら100倍にして返す男だよ?」と同じく君付けで笑顔を見せる。これが上手いし、怖い。

下手に勝ち誇らずに余裕を見せることで、今井の不安を煽っているのだ。まだ満足しておらず、ここからが復讐の始まりだと暗に伝えているのだ。どれだけ謝っても意味は無いと、今井の心を折りにかかったのだった。

「じゃあ俺もう帰ります!」とその場を去る三橋に今井は泣き叫んで命乞いをする。すると三橋の部屋からドタバタと物音が聞こえてくる。「念のため、この階は全て中から開けられないようにしたんだった……」。今井は三橋のセリフを聞いてバカ笑い。自分が助かるわけでもないのに。

しかし、これも三橋の罠だった。本当は部屋から出られるにも関わらず、三橋は閉じ込められたフリをしていたのだ。全ては、1番近い位置で苦しむ今井を見る特等席を手に入れるため。同じ立場のフリをすることで、感情のコントロールも思いのままだ。餓える今井にバナナの皮やワラを与え、「革靴は牛だから食べられる」という情報を流す。これらも圧倒的に上の立場から与えるのではなく、あくまで仲間として寄り添うことで、喜んでそれらを食べる今井を目の当たりに出来るのだ。壁一枚隔てて、三橋は全力で笑い声を殺していた。

全てが完璧に計算された三橋の罠。三橋を信じ切る今井に、最後の最後で気絶するほどの裏切りを見せる。「助かるんだぁあ!!!三橋と一緒にぃいぃぃ!!!」という今井の心からの叫びが、終わってみるとあまりにも空しい。

後日、ワラを食べる写真をばら撒かれた今井は、「さて、次はどうやってあのアホを苦しめてやろうかな……」とつぶやく。谷川は、「一生付いていきます!」と誓う。このシーンで、三橋VS今井&谷川はただの弱い者イジメではなく、強者VS刃向かう雑魚という図式が成立する。三橋の策略も原作も脚本も演者も、バランス感覚が凄まじい。

今夜放送の第8話では、フルフェイスの危ない新入生が登場。コント仕立ての今回と違って、ツッパリ物らしいバイオレンスなストーリーになっている。それにしても今話の賀来賢人は、声も動きも人をおちょくる笑顔も、とんでもなく三橋貴志だった。

(沢野奈津夫)

今日から俺は!!
日曜:22:30〜23:25(55分) 日テレ系
キャスト:賀来賢人伊藤健太郎清野菜名橋本環奈、太賀、矢本悠馬、鈴木伸之、ムロツヨシなど
脚本:福田雄一
演出:福田雄一、鈴木勇馬
主題歌:今日俺バンド「男の勲章」

原作15巻