米陸軍防空作戦司令部が日本に駐留

 米陸軍は、2018年10月31日に第38防空砲兵旅団を現役復帰させ、日米両政府の合意のもとに、同年11月16日から115人からなる同司令部を相模総合補給敞(神奈川県)に駐留させた。

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 第38防空砲兵旅団司令部は、「PAC-3」を装備し米軍嘉手納飛行場(沖縄県)に展開する米陸軍第1防空連隊第1大隊、米軍の弾道ミサイル防衛用「TPY-2レーダ(いわゆるXバンドレーダ)」を運用する車力通信所(青森県)の第10 弾道ミサイル防衛(BMD)中隊と経ヶ岬通信所(京都府)の第14 BMD中隊並びにグアムに配備されている終末高高度防衛ミサイル(THAAD)中隊を隷下に入れ、衛星を経由したネットワークで指揮を開始した模様である。

 本来は兵站を担う相模総合補給敞に同司令部を駐留させたのは、在日米陸軍司令部(USARJ)があるキャンプ座間(神奈川県)にスペースの余裕がないというのが主な理由である。

 今般、第38防空砲兵旅団司令部の指揮下に入った部隊は、これまでいずれもハワイインド太平洋軍司令部(INDOPACOM)の隷下にあった部隊である。

 米国の弾道ミサイル防衛システム(BMDS)は、国防省ミサイル防衛局(MDA)が一元的に指揮統制することになっている。

 そのもとに、INDOPACOMが管轄するインド太平洋全域の弾道ミサイル防衛を担任する太平洋空軍司令部(PACAF、ハワイ)があり、その隷下の第94陸軍防空ミサイル防衛司令部(AAMDC、ハワイ)から「指揮統制・戦闘管理通信」(C2BMC)ネットワークを介して第38防空砲兵旅団司令部が指揮を受ける形になる。

 このたびの駐留は、かねて日米間で合意している日本の弾道ミサイル防衛(BMD)能力の強化に寄与するものであり、同時に、日本周辺の戦域レベルにおけるBMD能力も強化される。

 さらに、第38防空砲兵旅団が米陸軍の部隊であることに意味があり、いわゆる「トリップ・ワイヤー」として米国の日本防衛のコミットメントを確保するとともに、拡大抑止の効果を一段と高めることが期待される。

 日本は、BMDに欠かせない早期警戒衛星からの情報を米軍に頼っている。

 そのこともあり、今後は、グアムを含めた日本駐留の米BMD部隊を束ねる防空作戦司令部が日本国内にできたことで、BMDでの日米一体化をさらに進めることが課題である。

BMDでの日米一体化における課題

 「日米防衛協力のための指針」(2015年4月27日)、いわゆる日米ガイドラインは、「基本的な前提及び考え方」において、下記のように定めている。

 日本及び米国により行われる全ての行動及び活動は、各々の憲法及びその時々において適用のある国内法令並びに国家安全保障政策の基本的な方針に従って行われる。日本の行動及び活動は、専守防衛、非核三原則等の日本の基本的な方針に従って行われる。(下線筆者)

 それを前提として、同盟内の調整の強化が強調され、「実効的な二国間協力のため、平時から緊急事態まで、日米両政府が緊密な協議並びに政策面及び運用面の的確な調整を行うことが必要となる」としている。

 さらに、「情報共有を強化し、切れ目のない、実効的な、全ての関係機関を含む政府全体にわたる同盟内の調整を確保するため、・・・日米両政府は、新たな、平時から利用可能な同盟調整メカニズムを設置し、運用面の調整を強化し、共同計画の策定を強化する」と述べている。

 そのうえで、日米両政府は、同メカニズムを活用し、「自衛隊及び米軍により実施される活動に関連した政策面及び運用面の調整を強化する」と取り決めている。

 そして、自衛隊と米軍との間の運用面の調整については、下記のとおり記述されている。

 柔軟かつ即応性のある指揮・統制のための強化された二国間の運用面の調整は、日米両国にとって決定的に重要な中核的能力である。

 この文脈において、日米両政府は、自衛隊と米軍との間の協力を強化するため、運用面の調整機能が併置されることが引き続き重要であることを認識する。

 自衛隊及び米軍は、緊密な情報共有を確保し、平時から緊急事態までの調整を円滑にし及び国際的な活動を支援するため、要員の交換を行う。自衛隊及び米軍は、緊密に協力し及び調整しつつ、各々の指揮系統を通じて行動する。(下線は筆者)

 つまり、日米ガイドラインにおいては、自衛隊および米軍が行う日米共同作戦は、両国の憲法などに従い、各々の指揮系統を通じて行動し、緊密な「調整」をもって協力することを基本としている。

 問題は、北朝鮮から10~15分程で日本に到達し、地上到達時の速度が秒速数キロとなる、寸秒を争う弾道ミサイルの脅威に対して、日米が各々の指揮系統を通じて行動し、「調整」をもって協力することによって、共同対処の目的を十分に達成できるかどうかである。

 日米ガイドラインは、「切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な日米共同の対応」などを目的としているが、現行の日米共同作戦における指揮関係では、その目的を果たすことができない大きな課題が内在している、と率直に認めざるを得ないのではないだろうか。

いかにBMDでの日米一体化を図るか

「日米共同運用調整所」(仮称)の常設

 まず、わが国は、陸海空統合の完結したBMDシステムを独自に構築し、自衛隊の全BMD部隊を一元的に指揮統制する組織(司令部)を創設することである。

 そのうえで、日米両国は「同盟調整メカニズム」の必要性に鑑み、特にBMD共同対処を実効性あるものにするため、運用の面から両指揮機能を併置した「日米共同運用調整所」(仮称)を常設し、共同の情報収集、警戒監視および偵察(ISR)活動を継続し、弾道ミサイル発射などに即応できる一体的体制を確立することが必要である。

 その具体化のための参考となるのは、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)のあり方である。

 NORADは、北アメリカの航空宇宙領域の防衛の目的で作られた米国とカナダが共同で運営する軍事組織であり、他国からの核ミサイルや戦略爆撃機による攻撃に備え、24時間体制で監視に当っている。

 また、NORADにおける米国とカナダの協力は、NATO(北大西洋条約機構)の枠組みの中での活動として位置づけられ、NATO域内における全般的な安全保障の一つの重要な要素ともなっている。

 NORADの総指揮監督は米国大統領カナダ首相が共同で行い、司令官は米大統領およびカナダ首相によって任命される。

 司令官は、米統合参謀本部議長を経て米国政府に、カナダ国防参謀総長を経てカナダ政府に対して責任を負う。

 司令官は米国人が、副司令官はカナダ人が務め、司令官は米北方軍(責任区域:米本土、アラスカカナダメキシコとその周辺海域)の司令官でもある。

 そして、この司令官と副司令官は、米コロラド州コロラドスプリングスにあるシャイアンマウンテンスの洞窟司令部で指揮を執っている。

 この作戦センターは、米陸海空軍および海兵隊ならびにカナダ軍、合わせて200人余の専門家で構成される統合かつ共同の組織であり、その点で世界に類を見ない特色を有している。

 カナダは、米国内のNORADに約300人強の軍人を勤務させるとともに、資金および資器材を提供している。

 カナダ軍人は、例えば戦闘機の待機任務、北米警戒システム(北米大陸の北端に沿って設けられた一連のレーダ基地)の維持運用、あるいは北米における戦闘機運用を支援する前方作戦施設における勤務などのNORADの関連活動に従事している。

 カナダ政府は、このように米国との共同活動に参画することにより、同国の空域を監視・防衛するための能力と国家主権を主張する権限を確保している。

 また、両国最高レベルの国防会議である「カナダ・米国防委員会」と防衛計画の作成および軍事情報の交換に関する会議である「カナダ・米防衛協力委員会」を定期的に開催している。

 さらに、9・11の後に作られた自然災害やテロを含むカナダおよび米国の脅威に対し、共同して対処するための非常事態計画を調整する「共同計画グループ」が設置されており、密接な外交・国防に関する協議が行われている。

 このように米国はもちろんであるが、カナダにとっても、自国の防衛に関して最終決断の権限を有しつつ、それぞれの国益に最も適合する形での共同対処を可能とする枠組みが構築されている。

 一方、米国の核戦略と一体化した核戦力を保有する英国は、統合軍務使節団(Joint Services Mission)として米国防総省(ペンタゴン)へ将校団を常駐させ、平素から極めて緊密な連携を保持している。

 このように、わが国も防衛省と米国防総省およびインド太平洋軍司令部(INDOPACOM)との間に常駐将校団を相互派遣するとともに、米加共同運営のNORADを参考として、第38防空砲兵旅団の日本駐留を機に「日米共同運用調整所」(仮称)を日本国内に開設し共同運営するなど、日米共同対処のためのメカニズムを常設しておくことが是非とも必要である。

日米間の指揮関係における実効性・柔軟性の確保

 日米ガイドラインでは、日米間の指揮関係について、日米が各々の指揮系統を通じて行動し、「調整」をもって協力することになっている。

 しかし、特にBMDの共同対処においては、その実効性・即応性が危ぶまれるなどの重大な問題の解決が喫緊の課題となっていることは、すでに指摘したところである。

 米国と共同して北大西洋地域(諸国)の独立と安全を確保するため、集団的防衛を目的として設立されたNATOは、その指揮関係について、下記のとおり7種類に分類し、多様な作戦形態への対応を可能にしている。

①「指揮」(Command)
②「作戦指揮」(OPCOM:Operational Command)
③「作戦統制」(OPCON:Operational Control)

④「戦術指揮」(TACOM:Tactical Command )
⑤「戦術統制」(TACON:Tactical Control)
⑥「調整権」(Coordinating Authority)
⑦「統合指示統制権」(Integrated Directing and Control Authority)

(上記項目の定義については、“NATO Glossary of Terms and Definitions”参照)

 近年、従来からの活動領域である陸海空に加え、宇宙空間サイバー空間、電磁空間といった新たな活動領域、すなわちマルチ・ドメインの複雑多岐にわたる空間において柔軟かつ実効的に作戦を遂行することが、安全保障上の重要な課題となっている。

 そのうち、BMDに関連したものとしては、米国の統合防空ミサイル防衛(IAMD)構想がある。

 現在の経空脅威には、弾道ミサイル巡航ミサイル、有人・無人航空機、短射程のロケット弾や野戦砲弾・迫撃砲弾による攻撃などがある。

 このような脅威が量的にも質的にも増大し、それらの複合的かつ同時多発的脅威を一体的に抑止し、あるいは対処する作戦運用上の必要性が高まっている。

 そのため、米国は、IAMD構想のもと、あらゆる航空・ミサイル等の脅威に対して、攻撃作戦、積極防衛、消極防衛を指揮統制(C2)システムによって一体化させる方策を追求し、同盟国などにも同じシステムの導入を求めるようになっている。

 このように、日米両国の主権や指揮権の基本を侵さない範囲で、行動の緊密な一体化を目的として多様な作戦形態を採り得るようにし、特にBM攻撃などの事態に即応できるようにしなければならない。

 そのためには、NATOを参考に、日米ガイドラインで「各々の指揮系統を通じて行動する」と定めた「指揮」に関して実効性・柔軟性を高める方向で再定義を行うか、「調整」の範囲に「作戦指揮」から「統合指示統制権」の概念を含めるなどして、共同作戦上の相互運用性やネットワーク化を強化する工夫が必要である。

おわりに

 日米両国が、平時から緊急事態までのいかなる状況においても日本の平和と安全を確保する体制を構築することは、日本の防衛のみならず、アジア太平洋地域およびこれを越えた地域の安定および平和と繁栄に寄与する。

 この際、INF条約によって、米国の中国および北朝鮮に対する核の地域抑止が空洞化・無効化している現状に鑑みれば、日米共同によるBMDの実効性の確保は喫緊の課題である。

 一刻も早く、切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な日米共同のBM対応能力を向上させ、両国間の安全保障と防衛協力を強化することが望まれる。

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