「毎日9時から22時まで缶詰めにされ、プログラミングを勉強。間違うとバツとして社訓を唱和させられました」(23歳・男性)という声も......
「毎日9時から22時まで缶詰めにされ、プログラミングを勉強。間違うとバツとして社訓を唱和させられました」(23歳・男性)という声も......

経団連が正式決定した「就活ルール廃止」。これを機に企業の採用スタイルが多様化し、ますますインターンが盛んになるかもしれない。

が、しかし! すでにインターンを行なっている企業のなかには、学生たちから搾取しまくる"超ブラック"な事例が増えていた......。学生たちをむしばむ「酷使系インターン」の実態とは?

■「就活ルール廃止」でさらにひどくなる?

10月、新卒学生の就職活動の日程を定める「採用選考に関する指針」を、2021年春入社以降の新卒者が対象の就職・採用活動から廃止することを経団連が正式に発表し、大きな話題となった。

これまでのルールでは「大学3年生の3月に会社説明会。大学4年生の6月に採用選考が解禁」という流れになっていたが、経団連に加盟していない企業が選考を前倒しにしているなどの影響で、「時代遅れ」と指摘されていた。

だが、今回の発表を受け、大学側は就活の早期化や長期化を懸念。これに対して、政府は即座に反応し、「就活ルール廃止」に待ったをかけたが、形骸化はやむなしだろう。

今後はますます企業の採用スタイルも、これまでのような面接中心の短期間での選考から、「インターン」などでの就労体験を通じた、長期にわたる選考にシフトしていくと考えられている。学生をリアルなビジネスの場で働かせ、将来性があるかなどを見極めていくのだ。

だが一方で、インターンの中には学生を酷使&搾取するブラックなものも紛れているという。となると今後、その毒牙の餌食になる学生が増える可能性も......。

この記事では、昨今のインターン事情の変化と、意欲に満ちた学生たちをむしばむ「ブラック・インターン」の実態を紹介していく。

■今や学生の8割が参加するインターン

具体的なエピソードの前に昨今のインターン事情を紹介しておきたい。

まず今の学生にとって、インターンへ参加することは「ごく当たり前のこと」になっている。

例えば、株式会社マイナビが大学生・大学院生4466名を対象に今年3月に行なった調査では、インターンに参加したことがある学生は、前年の65・2%から78・7%に増加と、8割近い学生がインターンに参加しているという結果になった。

そもそも昨今のインターンは大きく2種類に分類される。

ひとつは学生を"お客さん"として受け入れる、おもてなし系のインターン。インターン本来の職場体験の意味合いが強いことが特徴で、主に大手企業が1、2日の短い期間で実施しているものが該当する。

もうひとつは、"ガチの兵隊"として学生に社員と同じ仕事をさせる、酷使系のインターン。期間は数ヵ月から1年以上と長期に及び、主にベンチャー企業や中小企業が採用している。そして、ブラック・インターンの温床となっているのがこちらのタイプなのだ。

■業務内容は社員と同じ。なのに交通費だけ......

では実際、どんなブラック・インターンがあるのだろうか? 高級弁当を企業や家庭向けに販売する、食品系ベンチャー企業のインターンに参加していた22歳の女性はこう証言する。

「『商品企画・営業』の触れ込みに惹(ひ)かれてインターンを始めたんですが、実際の業務はテレアポと、アポを得たところへの訪問営業がメインでした。募集要項が嘘にならないようにするためか、たまに会議に参加できたんですが、議事録を取る係で発言権はありませんでした。

またインターンなのでバイト代もなく、報酬はインセンティブ。しかも、10日出勤で3万、7日出勤で2万、5日出勤で1万という驚異の安さでした。8時間労働なので、余裕で最低時給割り込んでますよね......」

この女性の場合、テレアポ&訪問営業という、営業の中でもけっこうしんどい業務をやらされている。そのため、労働者と見なすこともでき、正当な報酬を受け取る権利があるはずだが、学生の無知、立場の弱さにつけ込んで不当な給与体系になっていたようだ。

さらに、「企画」「マーケティング」「コンサルティング」などの、学生が憧れやすい文言で誘い込むケースはほかにも見られた。

「飲食店のプロデュースを手がける会社の『マーケティング職』のインターンに行ったら、『定員がいっぱいになったから、先にちょっと現場経験積んでみない?』と言われ、系列グループが運営しているらしい、某繁華街にあるメイド喫茶で働かされたことがあります。

だまされやすい自分は『そういうものか』と働いてたんですが、1ヵ月たっても『マーケティング職』のインターンには呼ばれず、さすがにおかしいと気づいて逃げ出しました。ちなみに無給のインターンでしたね。普通にバイトしたほうがよかったです......」(21歳・女性)

こういった"甘いささやき"はブラック企業の常套手段だが、どうやらインターンの採用でも横行しているようだ。

また、前出の女性ふたりのように、インターンという名目で、報酬面で不当な搾取を受ける学生も少なくない。

「ECサイトを受託制作しているスタートアップ企業でインターンしていたことがあります。わかりやすく言うと、今、ガッキー主演でやっているドラマ『獣になれない私たち』の会社みたいな(笑)。大学生なのに『アシスタントディレクター』の名刺を与えられ、社員と同じ仕事をしていました。

幸か不幸か、顧客企業のおじさんたちはネットに疎い人が多くて、田舎の両親にアマゾンの使い方を教えるみたいなノリで、大学生の自分でも説明できちゃって。でも『ノウハウを学べる』ことが対価で、支給は交通費だけでした。確かに社会経験は積めたけど、搾取感は否めないかな......」(23歳・男性)

普通に正社員を雇えば最低20万円程度の人件費がかかる業務内容でも、インターンなら交通費だけで済む。企業からすれば非常にお得だ。

社員のような働き方をさせ、利益を生み出させるワケではないものの、普通に働く以上に、肉体的・精神的に学生を追いつめる企業も存在する。

「『最終プレゼンで評価された上位20%は内定獲得』と聞き、某ソフトウエアメーカーのインターンに参加。しかし、蓋(ふた)を開けてみると研修なし&支給された本1冊を読んでひたすらプログラミング&毎日9時から22時まで毎日缶詰め......というひどい内容でした。

質問しても回答はほぼ返ってこないのに、間違うとメンターにボコボコにされ、バツとして社訓を唱和。当然のように毎日人が消え、最終的に200人いた学生が半数になりました」(23歳・男性)

ちなみに、この企業はジャスダック上場企業で、グループ会社を含めた従業員数は約7000名。メイド喫茶の場合は「マーケティング」という言葉で学生を釣っていたが、このレベルの大企業になると、「内定」の二文字だけで学生を呼び込めるわけだ。

■やりがい搾取は一派企業以上? NPOのヤバイ実態

さて、ここまでブラック・インターンの実態についてお伝えしてきたが、何も搾取があるのは一般企業だけではない。より意識の高い学生が集まりやすい、NPOのインターンでも同じような問題が起きていた。

「地方創生を掲げて活動しているNPO法人でインターンを経験しましたが、そこは代表が定期的にセミナーを開いていて、意識の高い学生を呼び寄せていました。そして『生半可な気持ちで地方創生はできない!』と言われて半強制的に大学を休学させられたのを皮切りに、無給で長時間労働が開始。

代表は自称アイデアマンで、『ご当地グルメを新しく作ろう!』『地元の魅力を伝えるメディアを作ろう!』みたいな、聞こえのいい企画を自治体に提案するんですが、それを実際に動かすのは僕ら学生インターンでした。もちろん、学生にそんな高度なプロジェクトがこなせるわけもなく、オーバーワークで疲弊していき、1年もすればほとんど全員が離脱。

でも、また学生向けセミナーをやるから代わりの学生はすぐに集まるんです。で、そのときには、僕らが笑顔で写ってる集合写真が使われるという......。NPOはブラック企業以上にやりがい搾取が横行していると思います」(23歳・男性)

向上心が高く自己犠牲を厭(いと)わない学生ほど、ブラック・インターンとの相性もよくなってしまうようだ。

■「無給型」より「報酬型」が危険?

東証1部上場企業から社員数10人以下のベンチャー企業まで、合計8社でインターンを経験した、ある社会人2年目の男性は、「インターンに関しては、報酬がある企業のほうが危ないこともある」と指摘する。

大企業の無給インターンは日数も短く、負担も軽いから、"タダ働き"でもトータルで見ればホワイト。逆に、へたに『インセンティブ制』みたいな会社のほうが、学業に影響の出る可能性がある。さもなくても今の学生は昔より授業が忙しい。インターンのために留年なんてことになったら、よっぽど高くつく」(24歳・男性)

一方で、自ら進んで「無給」を受け入れた学生も!

「人材派遣会社で無給の長期インターンをやっていました。そこはインターンに社員と同じような仕事を任せることで有名で、メール対応からQ&Aの更新、ブログ記事執筆、自社イベントの企画運営......など、あらゆる業務を交通費支給だけでやってたんですけど、なんでそんなに一生懸命頑張ってたかというと理由がふたつあって。

ひとつは学生のうちからしっかり働いて企業選びに役立てたかったから。もうひとつは大企業特有の、お客をもてなすような短期インターンに意義を見いだせなかったから。インターン中は割り切るために『これはバイトじゃない、サークルなんだ』と自分に言い聞かせてましたね。そして、その経験のおかげで年収の高い大手企業から内定をもらえたので、元は十分取れました」(22歳・男性)

最後の学生のように、ブラックなインターンだと理解した上で乗り切り、自らの糧(かて)にする猛者はそう多くないだろう。

だが、「目先のお金ではなく、先を見据える」というのは、社会人にとって重要な資質だ。ブラック企業が当たり前な昨今では、就活生のうちから、長期的な視野で物事を見極める能力も求められているのかもしれない。

取材・文/テクモトテク イラスト/渡辺貴博

「毎日9時から22時まで缶詰めにされ、プログラミングを勉強。間違うとバツとして社訓を唱和させられました」(23歳・男性)という声も……