ゲーマーどうしで話をしていると、「アイテムを大量に手に入れたから、もう無双状態でさ」なんて、「無敵」という言葉の代わりに「無双」という言葉が使われる場に出くわすことがあります。
 言うまでもなく、これはコーエーテクモゲームズの真・三國無双シリーズに由来する言葉でしょう。
 昨今はゲーマースラングの域を超え、この「無双」の使いかたは一般的な場でも耳にすることがあり、ゲームが変えた日本語のひとつとして、今後定着していくものなのかもしれません。

 

 今回はこの「無双」、そして置き換わられた「無敵」、そしてゲームとしては「無敵」とほぼ同義の不死身についての考察です。それらの違いは何か。
 いつからいまの形で使われることになったのか。今回も電ファミでお馴染みのタイニーPが調査しました。

 

 タイニーPは、昭和のパソコンPC-6601に、ボーカロイドのように初音ミクやPerfumeの楽曲を唄わせたり「やる夫と学ぶホビーパソコンの歴史」と称し、その歴史を丁寧に考察したりなど、日本のホビーパソコンや黎明期のゲームの歴史について詳しく、ニコニコ界隈で活躍している人物。
 前回の「クソゲー」に引き続き、ゲームにまつわるさまざまな言葉の起源や使われかたの変遷を、潤沢な知識と膨大な資料を横断する徹底的な調査によって明らかにしています。(編集部)

文/タイニーP


「無双」という言葉の新しい使いかたを一般に広めたのは……テレビで有名なあの人?

 今回のテーマ「無双」、そして「無敵」不死身だ。ビデオゲームライトノベル、漫画、アニメなどの界隈で、この十数年のあいだに、「無双する」「無双状態」「○○(人名・団体名)無双」といった表現が広がってきたのは、皆さんもご存知のとおり。
 そのおおもとと考えられるのが、2001年9月にプレイステーション2向けに発売された、コーエー真・三國無双2の大ヒットだ。

(画像は真・三國無双2|GAMECITY | コーエーテクモゲームスより)

 前作の真・三國無双を考慮した場合でも、2000年代に入ってからの表現ということになり、ゲーム用語の中では、あまり古いものではない。その意味を改めてざっとまとめると、以下のようなものだろう。

(a)ビデオゲームにおいて、プレイヤーが操る一騎当千キャラクターが、敵勢力の多数の兵を蹴散らすように戦場を駆け回ること。また、そのような形式のゲーム

 

(b)上記から転じて、特定の人物や集団がその強大な能力を縦横無尽に発揮し、他の勢力を圧倒する、あるいはやりたい放題に状況を支配すること。

 しかしこ「無双」のゲーム用語由来の表現は、世間で広く使われている古典的な「無双」とは意味や使いかたにズレがある。古典的な「無双」は、「する」や「状態」を付けては使われてこなかった。
 また「天下無双」や国士無双などの「○○無双」は、基本的に「○○(ある範囲)の中で」・「○○(何らかの特徴・特性)においては」ほかに並ぶものがないほど優れているという使われかたをしている。つまり「○○」が直接、強さを発揮している人物や集団を指しているわけではない。

 たとえば「イケメン無双」という表現を想定してみよう。「その人物がイケメンの中でもとくに優れている」という無条件の賞賛の意味なら、古典的な用法だ。

(Photo by Carsten Schanter / EyeEm|Getty Images)

 一方、「あるイケメンの人物(またはイケメンの集団)が万能の強さを発揮して、やりたい放題にしている」という、賞賛にもそうでない意味にも使えるのが、ゲーム用語から派生した用法ということになる。

 このようなズレが目立つためか、ゲーム用語由来の「無双」は、大手新聞ではまだあまり頻繁には見かけない。
 それでもつい先日、2018年10月18日付の読売新聞テレビ欄(関東地区)で、テレビ朝日の人気ドラマ『相棒 season17』の初回放映を報じたコラムに「無双状態の右京」という一節が出てくるなど、じわじわと広がりつつはあるようだ。

 なお、大手マスコミゲーム用語由来の「無双」の認知が広まった要因のひとつは、ジャーナリスト池上彰氏を指した「池上無双」らしい。

 とくに2012年12月池上彰総選挙ライブが、ギャラクシー賞の同年度テレビ部門優秀賞を受賞するなど高く評価されたことで、この表現が報道業界に知れ渡ったとみられる。

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(画像はTXN選挙SP 池上彰の参院選ライブ | テレビ東京より)

 実際、毎日新聞2014年12月12日付夕刊で、2日後に予定されていた衆院選特番に関する記事が「舌鋒鋭い「池上無双」に期待」という見出しになっており、本文でインターネット上の一部では「池上無双」とも評されるほど」と説明している。
 いずれにしても、ゲーム用語由来の「無双」が今後大手新聞にどこまで広がっていくのかは、少々気になるところだ。

「無敵」に近いのは「無双」? 「不死身」?

 ところで、先に挙げた「天下無双」と字面も意味もよく似た言葉として思い浮かぶのが「天下無敵」だ。だとすると、たとえば「国士無敵」のような表現はなされないにしても、「無双」と「無敵」とはわりと近い意味の言葉といえそうだ。
 だが一方で、ゲーム用語として捉えた場合、「無双」と「無敵」が近い意味だと言われると、1990年代やそれ以前からのビデオゲームマニアの人たちは少々首をかしげてしまうのではないか。

 ゲーム用語の「無敵」に近い言葉として真っ先に挙がるのは、むしろ不死身だろう。この食い違いは、筆者もゲームに長く親しんできただけにうっかり見過ごしてきたところだが、改めて考えてみると実に奇妙だ。ここからは、その実態について考えてみよう。

 まずは国語辞典でそれぞれがどのように説明されているかを見てみると、『大辞泉』第二版では以下のようになっている。

無双:
(1)二つとないこと。並ぶものがないほどすぐれていること。無二。ぶそう。「-の大力」「天下-」(中略)[類語]無二・無比・無類

 

無敵:
(1)非常に強くて敵対するものがないこと。対抗できるものがないこと。また、そのさま。「-な(の)猛将」「天下-」(中略)[類語]無双・無比・無類

 

不死身・不仁身:
(1)不死であること。どんな病気・苦痛・傷・打撃にも耐えうるからだであること。また、そのからだやそのさま。「-な(の)勇士」(2)どんな困難にもくじけないこと。また、その人やさま。「-な(の)精神」

 このように、「無双」と「無敵」は類語として挙げられている言葉に共通性があるのに対し、「不死身」は意味の説明自体がかなり違うことがわかる。つまり、やはり「無双」と「無敵」は意味が近い言葉で、「不死身」はそうとは言えない。

 では、ゲーム用語の辞典類ではどうなのか。西島孝徳氏の『新明解ナム語辞典』ファミコン通信責任編集ゲーム用語事典』、また『広技苑』2005年春版特別付録『最新ゲーム用語事典』など、筆者の手元にある資料を見た限りでは、どれも「無敵」の項目はあっても「無双」と「不死身」はなかった。

 「無双」がないのはゲーム用語の中では新しい言葉なので当然だが、「不死身」がないのは少々意外な結果だ。
 詳しくは後で述べるが、遅くとも1980年代中ごろには、「無敵」と「不死身」がかなり意味の近い言葉としてビデオゲームの世界で使われていたことには疑いがない。
 とはいえ「完全に同じか」といえばやはりそうではないので、先に挙げた資料の記述を参考にしつつ、「無敵」と「不死身」の共通点と相違点に着目した説明を以下に示すことにしよう。

無敵:
 (a)ビデオゲームにおいて、キャラクターが攻撃を受けても、損害を受けたり倒されたりミスになったりしないこと。なお、穴に落ちるなど、攻撃以外の事象には適用されない場合も含む。
 (b)ビデオゲームにおいて、プレイヤー側のキャラクターが、(a)に加えて、敵キャラクターに触れるだけで損害を与えたり倒したりできること。

 

不死身
 (a)「無敵」の(a)と同じ。
 (b)ビデオゲームにおいて、キャラクターが何度倒されても、ペナルティーなしで元どおりに復活すること。

 なぜこのように、「無双」・「無敵」・「不死身」の相互の関係が、ゲーム用語として見た場合とそうでない場合で違っているのだろうか。ゲーム用語の「無双」・「無敵」・「不死身」は、いずれも登場キャラクターたちのあいだに成立する、“倒す・倒される”という闘争的な関係を前提にしているというところでは共通している。
 しかし「無敵」と「不死身」については、単なる比喩ではなく、ゲームルールに直接関係する、キャラクターの特性や状態を表す言葉になったところに特徴がある。主人公は面の開始から5秒間は不死身」のように、ゲームルールを説明する汎用的な表現として使えるわけだ。

マリオシリーズの無敵アイテム、「スーパースター
(画像はアイテム | マリオカート8 デラックス | Nintendo Switch | 任天堂より)

 一方「無双」は、そのような使いかたは難しい。たとえば必殺技の名称に「無双」が含まれている場合に、その技を使っている状態を「無双(状態)」と呼ぶことはできるかもしれない。
 しかしそれはあくまでそのゲーム固有の使いかたであるに過ぎず、ゲーム作品ごとの枠を取り払って考える場合には、ゲーム全体のスタイルや描かれている状況といった、より俯瞰的な事柄に使われる言葉だと言えるだろう。

 実際、『真・三國無双シリーズにおける「無双」という言葉の使われかたを調べてみると、少なくとも初期において、たとえば「無双乱舞」は、プレイヤーキャラクターが無敵になる特殊攻撃のことだった【※】

プレイステーション4版『真・三國無双8』での「無双乱舞」
(画像はPS4® 真・三國無双8 Webマニュアルより)

※「無双乱舞」はそもそも、『真・三國無双』のさらに前作となる、対戦格闘ゲームの『三國無双』で使われていた。このジャンルでは、SNK1992年に発売した『龍虎の拳』の「龍虎乱舞」がきっかけで、キャラクターが短時間無敵になり多数の攻撃を一方的に相手に叩きつける必殺技を、「乱舞」と呼ぶことが定着していた。

 一方「無双モード」は、複数のゲームモードのうち、物語を順に進行させるものを指していた。つまり「無双」の公式な意味は、必ずしも一定ではなく、あくまで作品を特徴づけるためのキーワードに過ぎなかったということだ。

 とはいえ、千人単位の軍勢が交錯する戦いを、プレイヤーが操る武将の強力な攻撃と戦略とで勝利に導くという『真・三國無双』のアクションゲームとしてのスケールの大きさと爽快さが、当時、新鮮な驚きをもって迎えられたのは間違いない。
 そして『真・三國無双2』のヒットを経て、「無双」そのものが類似のゲームスタイルを総称する言葉になり、また、そこで描かれる状況に近いものを例える表現にも転じたわけだ。

「無敵」・「不死身」のルーツは「名古屋撃ち」?

 続いて、「無敵」と「不死身」についてもう少し詳しく見ていくことにしよう。
 日本のビデオゲームにおいて、現在で言う「無敵」や「不死身」に近い状態が最初に話題になったのは、1979年前半に社会現象となったタイトースペースインベーダーだ。

(画像はSPACE INVADERS|スペースインベーダーの歴史より)

 このゲームで、敵のインベーダーは1列あたり縦に5匹ずつ、11列の隊列を組んでジグザグに降下するわけだが、各列に残っているインベーダーの中でもっとも低い位置にあるものが、ミサイルなどを真下に投下して、プレイヤーが操るビーム砲に攻撃を仕掛けてくる。
 そして『スペースインベーダー』のもっとも特徴的なルールは、インベーダーが1匹でもビーム砲と同じ高さに降りてくると、「侵略された」ことになり、ビーム砲が何台残っていようとゲームオーバーになるというものだ。
 ところがその「侵略」の直前、ビーム砲の先端とインベーダーの最下部が接する高さになると、インベーダーのミサイルなどの攻撃は、ビーム砲に当たらずにその下にすり抜けてしまう。そこで、あらかじめインベーダーの隊列を左右に分断し、その隙間にビーム砲を置くことで安全を確保して隊列の降下を待つ。そして、侵略直前の高さまで降りてきたものを集中して狙い撃ちにする。これが現在、名古屋撃ち」として知られる攻略法だ。

 なぜこのようなことが起きるのか? じつは、インベーダーが投下するミサイルなどのグラフィックが最初に表示されるのは、インベーダーの下側に少し隙間を空けた位置になっている【※】

(画像はSPACE INVADERS|スペースインベーダーの歴史より)

 ところが、これらのミサイル類がビーム砲に当たったかどうかは、ミサイルの下の端でしか判断していない。そうすると、ビーム砲とインベーダーがぴったり接する状態では、最初にミサイルが表示される位置ですでに、下の端がビーム砲のさらに下にあり、このためにミサイルビーム砲をすり抜けてしまうのだ。
 『スペースインベーダー』を開発した西角友宏氏にとってはまったく想定外だった「名古屋撃ち」だが、結果的には、プレイヤーにとって最大のピンチが最大の攻撃のチャンスになるという、じつにドラマチックな要素が生まれた。そしてこの要素は、この後さまざまなビデオゲームで応用されていくことになる。

※『Beep! メガドライブ1992年5月号に掲載された渋谷洋一氏の『BINARY ANALYSIS』では、「インベーダーの出す弾は、初めはインベーダーの真下から出るようにプログラムされていたが、それがたれ流しのウンコみたいに見えるので、インベーダーから1キャラクター分下の位置から弾を出すことになったという」と述べられているが、渋谷氏が誰からこの話を聞いたのかは記されていない。

 さて、この「名古屋撃ち」の誕生時点では、ビーム砲のその状態を指して「無敵」と呼ぶことはなかったようだ。日本でのビデオゲーム攻略本の草分けであるヘラルド出版の『インベーダー攻略法』でも、「なぜかビーム砲はやられてしまわない」としか書かれていない。

『インベーダー攻略法』表紙

 また週刊誌などでの『インベーダー』関連の記事を見ても、セーフティーゾーン「真空地帯」という表現が見られる程度で、こちらは、のちにビデオゲーム用語として定着する「安地(安全地帯)」の初期の形だと言える。

 そんな中で、現在の「不死身」に近い表現を使ったのが、すがやみつる氏による元祖ゲーム漫画ゲームセンターあらしだ。

(画像はゲームセンターあらし(1) (てんとう虫コミックス) | すがやみつる | 少年マンガ | Kindleストア | Amazonより)

 1979年4月発行のコロコロコミック特別増刊号に掲載された読切2回目【※】において、名古屋撃ちと同じテクニック「陣地に侵略される直前に連続して撃つ必殺・不死鳥フェニックス)!」というセリフで説明されている。

※単行本では「必殺!つるぎの舞い」として収録されている。

 ただ、同誌の1979年8月号に掲載された3回目では、ごく当たり前に「名古屋撃ち」が使われ、「必殺・不死鳥」は1回きりの登場となった。2回目を描いていた時点では、すがや氏の耳に「名古屋撃ち」という言葉はまだ届いていなかったのかもしれない。

ゲーム用語になっていく「無敵」と「不死身」

 さてこのあと、1980年の夏には、先に触れた「最大のピンチが最大の攻撃のチャンス」という要素を見事に活かして世界的な大ヒットを飛ばしたアーケードゲームナムコから登場している。
 と言えばおわかりの方も多いだろう。そう、パックマンだ。

(画像はWHAT IS PAC-MAN | パックマン ウェブ PAC-MAN WEBより)

 『パックマン』の「パワーエサ」は、現在で言う「一時的に無敵になるアイテムの一種だと考えることもできる。しかし、ナムコ自身のチラシなどはもちろんのこと、当時パソコン雑誌にプログラムリストを掲載するなどの形で発表された類似作品でも、多くがパワーアップという言葉を使っていた。
 「パワーエサ」という名称の影響もあったのだろうが、「無敵」や「不死身」が直接使われた例を見つけることはできなかった。

 一方、『パックマン』とほぼ同時期に登場したアーケードゲームで、『インベーダー』やギャラクシアンの系譜上のもののひとつに、任天堂スペースファイアバード』がある。この作品では、プレイヤーが操る宇宙船が1機につき1回だけ、ボタンを押すことで少しのあいだ、敵の火の鳥に体当たりで攻撃できるという仕組みがある。

スペースファイアバード』筐体
(画像はSpace Firebird – Videogame by Nintendoより。(C) 1995-2018 by WebMagic Ventures, LLC, The International Arcade Museum (R), Museum of the Game (R). All rights reserved.)

 チラシには、「脱出(WARPボタンを押すと宇宙船は上昇し、不死身となります。敵の弾丸を抜け、火の鳥に体当たりできます。」と説明されている【※】。どうやらこれが、「不死身」という言葉が公式に使われたビデオゲームの草分けということになりそうだ。

※チラシには「1面に1回だけ使用可」と書いてあるのだが、実際には宇宙船1機につき1回だけ。

 そもそも、ピンチのときにボタンなどの操作でワープして逃げるという仕組みは、1960年代にアメリカマサチューセッツ工科大学で学生たちが開発していたコンピューターゲームスペースウォー!』や、米アタリ1979年に発売したアーケードゲーム『アステロイド』などでも取り入れられていたものだ。

スペースウォー!』レプリカ。操作説明を見ると、縦方向のレバーの奥側に「ワープ」と記載されている。SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム企画展“あそぶ!ゲームSTAGE.1 デジタルゲームの夜明け”にて撮影。

 『スペースファイアバード』では、これを単に逃げるだけではなく、攻撃のチャンスにも変える仕組みにしたというわけだ。火の鳥が題材なので、アニメ科学忍者隊ガッチャマンの「科学忍法火の鳥」の影響もあったのではないかと考えられる。

 そしてほぼ1年後の1981年の夏には、新日本企画(のちのSNK)のアーケードゲームヴァンガードが発売された。これは現在で言うスクロール型のシューティングゲームだが、ひとつの面の中でも画面のスクロールする方向が強制的に次々に変わるという、当時としてはユニークな仕組みのものだった。

(画像はSNK 40th ANNIVERSARY COLLECTION – Alpha Mission & Vanguard (Nintendo Switch) – YouTubeより)

 さらに、ところどころに設置されている「エネルギーボックス」にプレイヤーが操る宇宙船が触れると、少しのあいだ敵に体当たりできるという、『パックマン』にやや近い仕組みが採用されている。

 筐体に添付されたルールの説明書きでは、この仕組みについてエネルギーボックスを通過すると、宇宙船はパワーアップして無敵になり、敵に体当たり出来ます」と紹介している。これは、『パックマン』のパワーアップに相当する状態を「無敵」と表現した、かなり早い例だと考えられる。
 このすぐ後に登場した任天堂ドンキーコングでも、チラシにハンマーを持てば無敵となります」という説明が出ており【※】、このあたりを起点に、日本のビデオゲームの世界で「無敵」という言葉が広がりを見せていくことになる。

アーケード版『ドンキーコング

※ただし『ドンキーコング』では、敵キャラクターハンマーを当てそこなって、プレイヤーの操るキャラクターと直接接触するとミスになるので、現在のゲーム用語でいう「無敵」とは少々ズレがある。

 一方ナムコゲームでは、『パックマン』の続編として1982年の秋に登場したスーパーパックマンで、公式に「無敵」という言葉が使われているのが確認できる。ただしここでは、「無敵」はパワーエサによるパワーアップを指すものではない。

 パックマンが、新たに設置された緑色の「スーパーパワーエサ」を食べると一時的に巨大化スピードアップし、そのあいだはモンスターを通り抜けられるという仕組みが導入されており、この状態のことが「無敵」と説明されている。つまり、先に示した「無敵」の説明のうち、“ミスにならない”(a)のほうということになる。

 なおこれと同時期にセガが発表したスーパーロコモーティブ』では、プレイヤーが操る機関車が、チェンジボタンを押すことにより、燃料の消費が増える代わりに一時的に「スーパーロコモーティブ」に変身する。

(画像はSuper Locomotive – Videogame by Segaより。(C) 1995-2018 by WebMagic Ventures, LLC, The International Arcade Museum (R), Museum of the Game (R). All rights reserved.)

 このあいだは敵に体当たりして倒せるようになっており、これがルールの説明書きでは「無敵」と記載されている。これは先の説明のうち“敵を倒すことができる”(b)の用例であり、つまりこのころ、すでに「無敵」の意味がふたとおりに分かれてきていたと言える。

「無敵」・「不死身」とファミコンブーム

 ただ、これらの「不死身」や「無敵」という単語が、ビデオゲームキャラクターの状態を示す言葉として子どもたちに受け入れられるには、少々時間が必要だったようだ。
 『ヴァンガード』や『ドンキーコング』がゲームセンターに登場した1981年、玩具業界では、液晶画面を使った小型電子ゲームが大きなブームを呼んでおり、とくに任天堂ゲーム&ウオッチの人気が高かった。

(画像はゲーム&ウオッチ – Wikipediaより。GFDL, Link

 その中で1981年の2月に登場したヘルメットに関して、“電池のフタをずらすと、プレイヤーが操る作業員が落下物に当たってもミスにならなくなった”という投稿が、同年の夏に発売された『別冊コロコロコミック第3号で紹介された。

小学館『別冊コロコロコミック1981年第3号より引用

 しかしこの記事では、「人間が工具に当たっても死ななくなった」と説明されているだけだった。意味としては「不死身」そのものだが、まだその言葉は出てこなかったということになる。

 次号の『別冊コロコロコミック』では、この『ヘルメット』を特定のタイミングと操作でスタートすることにより、作業員がふたり現れるという「分身技」【※】も紹介された。このとき、先に出てきたほうは落下物に当たってもミスにならず、それでいてボーナス得点はふたり分獲得できるというものだ。

小学館『別冊コロコロコミック1981年第4号より引用

 しかしこちらの記事でも、「後ろの作業員は、工具に当たると死ぬが、前の人間は当たっても死なない」という説明はあるものの、やはり「不死身」や「無敵」という言葉は直接は使われていなかった。

※『ゲームセンターあらし』では「必殺ゴースト人間」という名称で紹介された。なお、『ヘルメット』の中でも出荷時期が新しいものでは、この操作は機能しないとされる。

 このように、「不死身」や「無敵」が子どもたちにはすぐに浸透しなかった理由は、いまひとつはっきりしない。
 『マジンガーZをはじめとする巨大ロボットもの・ヒーローもののアニメや特撮番組の歌詞や副題に、「無敵」や「不死身」という言葉が使われることはあったし、連勝を続けるスポーツ選手を「無敵」と、また度重なるケガや病気から復帰してくる有名人を「不死身」と称することも少なからずあった。

 したがってこれらは、子どもたちにまったくなじみのない表現ではなかったはずだ。ただ、これらはもちろん比喩だから、ゲームルールと直接的に結びつけるのには慣れていなかったということかもしれない。

 ともあれ、子どもたちのあいだでゲーム用語としての「無敵」・「不死身」が広まったのは、やはりファミコンの登場以降だろう。ファミコン用の『ドンキーコング』の説明書では、アーケード版に準じる形で「無敵のハンマーという表現が使われた。
 また1984年末にナムコが発売したファミコンマッピーの説明書では、“ご先祖様”が「ニャームコたちのご先祖。(中略)無敵の一番恐いキャラクターと紹介されている。

 そして、これらの言葉を子どもたちに強烈に印象づけたゲームといえば、なんといってもファミコンゼビウスだ。

【田中圭一連載:ゼビウス編】ゲーム界に多大な影響をもたらした作品の創造者・遠藤雅伸は、友の死を契機に研究者となった。すべては、日本のゲームのために──【若ゲのいたり】

 ある操作、いわゆる「隠しコマンド」によりゲーム難易度などの設定を変更できるようになり、その中に、プレイヤーが操る戦闘機ソルバルウ」をつねに無敵にする設定も含まれていた。

 この衝撃的な隠しコマンドは、ソフトの発売から半年以上経った1985年6月に書店に並んだ、パソコンゲーム雑誌コンプティークで報じられたが、その記事では「なんと無敵になってしまうのだ」不死身ソルバルウなどと述べられている。

角川書店コンプティーク1985年7・8月号より引用

 さらに同年の8月になると、週刊少年ジャンプが新たに開始したファミコン神拳奥義』でも不死身ソルバルウ不死身拳」として紹介され、子どもたちのあいだに決定的に広まることになった。なにしろこのころの『ジャンプ』は公称400万部以上発行していたわけで、『コンプティーク』と比べてその影響力は絶大だった。

 もっともこれを使うと、腕前に関係なくファミコン本体の電源を切るまで延々とプレイができてしまう。このため、先の『コンプティーク』の記事には、「ただしこれは練習用 ズルしちゃダメだぞ!!」とも記されている。

 また裏技ブームの火付け役となった『コロコロコミック』では、「4900円もする「ゼビウス」のゲームが、全然つまらないものになってしまう」として、この“技”を非公開にすることを誌面で報告した。この時点では、雑誌の編集部にもどう取り扱うべきか迷う向きがあったことが窺える。

小学館コロコロコミック1985年9月号より引用

 しかしこの手の裏技が、「せっかくソフトを買ったけれども、難しすぎて先に進めない」という子どもたちへの福音になったことも確かだ。1985年夏に創刊したばかりの徳間書店ファミリーコンピュータマガジンの場合、『ゼビウス』の隠しコマンドは、他誌で既出の情報であることからか、読者からの投稿を受け付けないと明記したこともある。
 その一方で、スターフォースなどの同様の隠しコマンドはしっかり紹介している。このように結局は、“無敵技”が裏技の花形のひとつになっていったのだった。

「無双」なんだけど「無敵」じゃない?

 ところで、このファミコン用の『ゼビウス』や『スターフォース』の裏技による無敵は、まさにプレイヤーを“やりたい放題”の状態に置くものであり、ゲーム用語としての「無双」の極致とも言えるはずだ。
 しかし一方で、先に触れた『コロコロコミック』の「全然つまらないものになってしまう」という指摘が的外れかといえば、そんなことはない。
 無敵にしてみて、いままでたどり着いたことがない場面を見るところまでは楽しみが持続したとしても、ひととおりの場面や敵の攻撃パターンを見てしまうと、たちまち味気なくなってしまう。そんな経験に思い当たる向きも少なくないだろう。

 ということは、無双もののゲームといえども、「本当にプレイヤーが最初から最後まで絶対的に強く、負ける要素がひとかけらもない」という極端な状態が求められているのではないわけだ。
 プレイヤーが求めているのは、もちろん“勝つ快感”なのだが、「ミスを重ねれば負けるかもしれない」という緊張感、「美しく勝ちたい」というような欲求、そのためにリスクを冒すべきかという葛藤などをうまく刺激してこそ、その快感を効果的に盛り上げることができる。
 そしてこのような心理的効果が、先に紹介した「名古屋撃ち」にも通じていることは、ここまでお読みいただいた皆さんにはお解りいただけるだろう。

 この観点からは、先日任天堂ニンテンドースイッチ向けに配信を始めたゼルダの伝説 お金持ちバージョンもなかなか興味深い。

『ゼルダの伝説 お金持ちバージョン』が『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』にサプライズ追加!お金とアイテムの力を借りてガノンを倒すイージーバージョン

 その狙いは、スタート時の持ち物や金銭、ライフを充実させることで、「難しい、面倒」と思われがちな序盤を楽にこなせるようにし、中核となる面白さを早く味わってもらおうというものだ。
 これはいまのプレイヤーたちがゲームに求めていることと往年の名作とのあいだにあるギャップを、ゲーム自体を大きく変えずに解消しようとする手法と言えるが、その中に今回、「リンクを無敵にする」ことは含まれなかったわけだ。

 『ゼルダの伝説』には、地下迷宮の踏破などの謎解きの要素があるので、リンクを常時無敵にしたところで、面白さが完全になくなってしまうとは考えにくい。しかし少なくとも現時点では、任天堂にとってそれは“やりすぎ”だということなのだろう。
 もっとも、「任天堂ゲームに必要だと考えていること」と「プレイヤーたちがゲームに求めていること」との関係が今後変わることがないとは言い切れそうにない。果たして、ゼルダの伝説 無敵バージョンが出る日は来るのだろうか?

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コラム:「名古屋撃ち」は名古屋発祥なのか?

 

 今回、『スペースインベーダー』の「名古屋撃ち」を紹介したが、この呼び名の由来として、名古屋が発祥だから」と説明されることが少なくない。たとえば1991年に発行されたゲーメスト増刊の『ザ・ベストゲームでも「その情報は誰から発信されたのかは分からないが、名古屋地区から出されていたのは間違いなく」とある。
 しかし同書も含め、その根拠まで明示した資料はこれといってないのが現状のようだ。ここでは、当時の雑誌記事から、その説明にどの程度信憑性があるのかを考えてみたい。

 

 一般の書店で売られる雑誌を中心に数多くの雑誌記事を収集・分類した『大宅壮一文庫雑誌記事索引総目録』を参考に、インベーダーブームを紹介した記事を見てみると、「名古屋撃ち」に言及したものの中でかなり早いのが『週刊明星』1979年3月18日号の記事だ。
 ここでは最初に「必殺イカ残し」という名称を挙げ、そのあとに「これは各地でも知られていて“名古屋うち”“大阪うち”などとローカル色豊かな名が付けられている」と紹介されている。さらに『平凡パンチ4月2日号では「ナゴヤ撃ち。((略)寝技、神戸撃ちともいう)」『週刊ポスト4月6日号ではモグラ戦法」と述べられており、複数回挙がっているのは「名古屋撃ち」だけとはいえ、ほかにもさまざまな呼び名があったことがわかる。

 

 そして有名週刊誌の中で、「名古屋撃ち」という名称を前面に押し出した記事のさきがけが、『週刊朝日』の同年4月20日『デキゴトロジーだ。ここでは見出しに「引き寄せて必殺!名古屋撃ち」と掲げ、「7000点以上の得点をあげるためには、「フェイス・トゥ・フェイス」あるいは「もぐら撃ち」あるいは「名古屋撃ち」または「原宿撃ち」と呼ばれる攻撃法を使い、インベーダー群を何画面も全滅させることが必要である」と述べられている。

朝日新聞社『週刊朝日』1979年4月20日号より引用

 これは同誌に3号連続で掲載されたインベーダー攻略企画の最後を飾ったもので、号を追うごとに次第に高度なテクニックを紹介するという手法から、話題性はかなりあったと考えられる。名古屋撃ち」という名称の定着において、決定打になったと見ていいだろう。

 

 もちろん、この『週刊朝日』の記事の前から「名古屋撃ち」が呼び名の中でかなりの有力株であったことは、他誌の記述からも窺い知れる。しかし本当に名古屋発祥なのだとしたら、どうしてここまで多くの呼び名が生じたのかという疑問が生じてしまう。
 当時のメディア環境を踏まえると、雑誌記事になる前には口伝え、あるいはマスコミを介するとしても深夜ラジオで広まるのがせいぜいで、その条件ではむしろ語呂がよいかどうかという点のほうがよほど重要そうだ。
 ここまで挙がった名称の中でも、名古屋撃ち」や「もぐら撃ち」・「神戸撃ち」のような5拍(5モーラ)は言いやすい。仮に発祥が大阪や原宿だったとしても、その地名が入った名称は、広まるうえでは不利だったわけだ。

 

 このように、「名古屋撃ち」に呼び名が収束していくまでの過程を考えると、「名古屋発祥だから名古屋撃ち」【※】という説明はあまりに話を単純化しすぎていると言わざるを得ない。また名古屋という名称に何か意味があったという説も、他の地名がいくつも挙がっていた以上は特段の信憑性はない。
 少なくとも現在のところ、「名古屋撃ち」の呼び名は由来不詳としておいたほうがよさそうだ。

※なお『週刊サンケイ』1979年6月14日号では「ナゴヤという人があみ出したという撃ち方」と説明されているが、これも根拠はとくに示されていない。

謝辞:
本稿の作成にあたり、以下の方々より情報の提供をいただいた。(順不同、敬称略)

 

おにたま(OBSLive/基板大好き) Twitter@onionsoftware Webhttps://onitama.tv/obsweb/
松原圭吾(攻略本研究家) Twitter@zerocreate Webhttp://vgsearch.info/
Root(流線堂) Twitter@rsd_rot Webhttp://ryusendo.rdy.jp/

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著者
コンピューター文化史研究家。2013年より約2年間、ブログにて「やる夫と学ぶホビーパソコンの歴史」を連載。ナムコの往年のゲームの開発資料を保存する活動が何度かニュースになりましたが、先日これに関わるイベントに参加してきました。当時どんな言葉が使われていたのか、一度じっくり確認したくてウズウズしています。