今年に入って金正恩委員長が打ち出した方針の中で、とかく評判の悪いのは「非社会主義現象の取り締まり」だ。

社会主義とは、密輸、賭博、売買春、違法薬物の密売や乱用、ヤミ金融、宗教を含む迷信などに加え、韓国など外国のドラマ・映画・音楽の視聴など、当局が考える社会主義にそぐわない行為を指す。

役人たちにとって、こんなビッグチャンスはない。最高指導者の言葉と取り締まり権限をタテにワイロをせびり取れるからだ。両江道(リャンガンド)の情報筋は、年末を前にして彼らが活動を活発化させていると伝えた。

取り締まりはこのような形で行われる。彼らは市場を急襲し「中国からの密輸品で麻薬成分が入っているかもしれない」などの理由で商品を没収する。商人からは「庶民にとって大切な薬なのになぜ奪うのか」と激しく抗議され、周りの商人まで加勢するなど騒ぎになったが、品物を返すことはなかった。

品物をすべて奪われた商人は、コネを使って取り戻そうとしたがうまく行かなかった。ところが、カネとタバコをワイロとして差し出したらすぐに返してくれたという。ハナからワイロ目的だったことがわかる。

彼らは恵山市内のみならず、近隣の農村にまで遠征して同様の行為を繰り返している。村の小さな売店で中国製の食品を見つけると「衛生検疫所の検査を受けていない」といちゃもんをつけて没収する。家の一部を改造して店を構えている人に対しても「なぜ税金を払って市場で商売しないのか」と嫌がらせをするという。

これらすべてがカネとタバコを掴ませることで、あっという間に解決してしまうのだ。

今年1月ごろから始まった非社会主義現象への取り締まりについて、その範囲が恣意的で広すぎることから、国民から強い反発の声が上がっていた。それを受けて金正恩委員長が今年7月、「人民を敵に回すな。大衆を党から引き離す行為は絶対に許さない。違反した幹部は出党(労働党からの除名)、撤職(更迭)も覚悟せよ」と強く警告した。

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一部で取り締まりの緩和が伝えられたが、最高指導者の指示と言えども、時間が経つにつれ有耶無耶になるのが北朝鮮の常だ。それに加えて、年末を控えたこの時期に取り締まりが厳しくなったのにはワケがある。

「恵山市の非社会主義グルパ(取り締まり班)の取締官は、上役からセメントの供出を求められた。密輸業者や中国キャリアの携帯電話を使っている人を捕まえて、罰金(という名のワイロ)をせしめた」(情報筋)

つまり、上役から要求された供出品を、庶民をいたぶり巻き上げたカネで買っているということだ。おそらくセメントは、金正恩氏が力を入れている道内の三池淵(サムジヨン)郡の開発プロジェクトの現場に送られたのだろう。現場の幹部が「デザインが気に食わない」と工事のやり直しを命じたので、資材が必要となったのだ。もちろん、年越し用のカネが必要という取締官個人の事情もあるのだろう。

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だが、末端の取締官がしっぺ返しを食うこともある。定期的にワイロを受け取り安定した暮らしを営むためには、取り締まられる側との「持ちつ持たれつ」の共存関係を保つ微妙なさじ加減が必要なのだが、それを無視してやりすぎると、悲惨な結果が待ち受けている。

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三池淵(サムジヨン)郡を視察した金正恩氏(2018年10月30日付朝鮮中央通信)