(山田敏弘・国際ジャーナリスト)

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 米国の中国企業に対する攻勢が強まっているようだ。

 12月5日、中国通信機器大手、華為技術ファーウェイ)の最高財務責任者(CFO)で副会長でもある孟晩舟(Meng Wanzhou)を逮捕したとカナダ司法省が発表した。孟晩舟CFOへの容疑は、米国のイランに対する経済制裁に違反したというもので、彼女は米国への身柄が引き渡される可能性が高い。

 孟晩舟CFOは、1日にカナダ国内の空港で拘束されていたが、カナダのグローブ&メール紙が最初にスクープとして報じた。

 このニュースはタイミング的に驚きだったとする向きもある。というのも、逮捕の数日前には、アルゼンチンで開催されていたG20で、ドナルド・トランプ大統領習近平国家主席が会談し、激化する貿易戦争で米政府の対中制裁関税の引き上げを延期すると合意したばかりだったからだ。

 だが一方で、この事件は、起こるべくして起きたと言わざるを得ない。というのも、ファーウェイイランなどに米国製品を輸出しているという制裁違反容疑は、遅くとも2016年には捜査対象になっており、複数の米メディアは今年4月にその捜査について言及していた。

ファーウェイCEOは人民解放軍のエンジニア部門出身

 そもそも、このファーウェイをはじめとする中国企業と米政府の争いは、制裁違反が取りざたされるよりも以前から続けられてきた。

 1987年に孟晩舟CFOの父親である任正非(Ren Zhengfei)によって創業されたファーウェイは、2000年以降、米国市場にも進出している。ただ任正非が人民解放軍のエンジニア部門で副局長を務めた経歴があり、身内に共産党幹部がいたこともあって、米国政府からはずっと警戒されていた。米企業から知的財産を盗んだとして訴訟問題になったこともあり、米NSA国家安全保障局)は当時から任正非を監視下に置いていたことが判明している。

 そんな経緯から、2012年には米連邦議会が、ファーウェイと別の中国通信機器メーカーである「ZTE」は、中国政府との関係が深く、米国政府の安全保障への脅威だと指摘した。

 その数年後、米国の政府系サイバーセキュリティ関係者はこんな話を筆者にしたことがある。「中国政府と人民解放軍、そして中国の民間企業はつながっている。政府の政策に沿って他国の政府や企業を人民解放軍サイバー部隊などがハッキングし、盗んだ知的財産などの情報は中国の民間企業に渡される」

 複数の関係者らの話を総合すると、「グーグル検索エンジンソースコード(プログラムの設計図)が盗まれ、中国の大手検索エンジンサービスはそれを元にして作られた」という話もあるくらいだ。

 この話は、意外でもなんでもない。中国では、政府に命じられれば企業であっても治安当局に協力する義務があると法律で定められている。ファーウェイが政府に協力するのは当たり前なのである。そんなことから、米政府は2014年に政府機関でのファーウェイの使用禁止措置を決めた。

 とにかく、米国とファーウェイにはそんな因縁があった。そして最近、第5世代移動通信システムである「5G」が取りざたされるようになり、さらに米国を煩わせることになった。5Gとは現在の4Gの100倍とも言われる超高速のシステムだ。5Gの時代になると、世の中のありとあらゆるものがネットワークで接続され、まさにSF映画のような世界が到来することになる。

豪、NZ、英もファーウェイ締め出しへ

 実は現在、世界的に5Gに向けたインフラ機器の多くは、安価な中国製品が支配しつつある。政府とつながっているとされる中国企業が、これから世界の主流になる5Gのインフラ機器を支配すれば、何が起きるのかは想像に難くない。

 米国はそれを阻止すべく、ファーウェイ禁止運動を強化しているのだ。今年8月に米国防権限法によりあらためて米政府機関などでファーウェイの使用を禁じたのもその一環だ。

 今回の逮捕は、米国から強まっていたファーウェイを排除すべきだとの強い圧力に、カナダ当局が沿った形になる。米国は5Gの時代が到来する前に、同盟国からファーウェイを締め出す――。イランの経済制裁ももちろん問題視しているだろうが、それ以上の思惑が米国にはあるのだ。

 米政府は、各地に現役や元政府関係者などを送り込んで、いかにファーウェイなど中国通信機器メーカーが安全保障の脅威であるかを広く伝えようともしてきた。そんな集まりに筆者も参加したこともあるが、5G時代に向けた米国の懸念はかなり深刻だと感じた。

 ここ最近では、オーストラリアニュージーランドファーウェイの電子機器を5Gのインフラから締め出す措置を決定している。英国の通信分野も締め出しの方向で調整が行われている。JBpressの読者の方々ならもうお気づきだろうが、これらの国々は、米国と諜報活動を共有する協定を結んでいる「ファイブ・アイズ(米国・英国・カナダオーストラリアニュージーランド)」のメンバーである。

日本が問われる「ファーウェイ排除か否か」

 米国と情報を共有するなら、米国が重要視するセキュリティの方針には従わなければならない。米国としてみれば、これら同盟国とはインテリジェンスなど情報を共有するし、軍事部門などを含む協力関係もある。ネットワーク化が進んだ世界で、同盟国がインフラ機器などを通して敵国に「侵入」されれば、米国にも被害が及ぶ可能性は高い。そうした懸念などを根拠に、同盟国に排除の圧力を強めてきた。

 そして今、米国の圧力はファイブ・アイズ以外の同盟国にも向けられている。今年に入って、米国は日本やドイツなどとも中国に絡む情報を共有することになった。ということは、米国はドイツや日本には相応のデータ保全を求めることになる。つまり、ファーウェイなどの排除である。

 例えばドイツは、すでにファーウェイを排除するかどうか検討されているという話が漏れ伝わっている。そこで問題になるのは、こうした流れに日本がどう対応するのかということだ。

 すでに日本でもスマホなどファーウェイ製品は人気が高く、消費者の支持を得ている。そんなファーウェイを突き放すことはできないだろう。

 日本では2019年から5G時代が始まることになっており、日本の今後の経済成長を牽引すると期待されている。そんな期待と、米国の圧力の間で、日本政府はどう対応していくのか。

(アップデート:12月7日付の読売新聞によれば、「日本政府もファーウェイ中興通訊ZTE)の製品を事実上、排除する方針」で、「中国を過度に刺激しないよう2社を名指ししない方向」と報じられている)

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