2018年11月30日、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社とピクシブ株式会社による「3Dクリエイター座談会 Unity Japan ✕ ピクシブ」が開催されました。
座談会ではピクシブが展開するネットサービスショップ「BOOTH」や3Dキャラクター作成ツール「VRoid Studio」の開発責任者、および現役で活動するクリエイターらが登壇。3DCGやマネタイズ、クリエイターの今後など、話題は多岐に及びました。本記事ではこの座談会の様子をレポートします。
(左から、常名隆司氏、京野光平氏、NABY氏、清水智雄氏、重松裕三氏、鴨見カモミちゃん。バーチャルアーティストも登壇し会場を沸かせた)
登壇者は、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのコミュニティサポートデザイナーである京野光平(ntny)氏、ピクシブ株式会社の「VRoid Studio」開発責任者の清水智雄氏、同社の「BOOTH」開発責任者の重松裕三氏、VRM対応オンラインコミュニケーションゲーム「Vワールド」など個人ゲーム開発者のNABY氏、そして、バーチャル登壇者として鴨見カモミ氏の5名。司会はユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのUnity Asset Store日本担当者の常名隆司氏が務めました。
「Unity Asset Store」は勉強目的やVTuber必須アイテムの購入に
- 常名:
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カモミさんはどのくらいAsset Storeで買っていますか?
- 鴨見カモミ(以下、カモミ):
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両手で数えるほどですが、バーチャルの人に大人気な「Final IK」や「Dynamic Bone」などを中心にAsset Storeを利用しています。
- 常名:
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最初に購入したのは「Final IK」?
- 鴨見:
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イエス!「Final IK」!ねこますさん(バーチャルのじゃロリ狐娘元YouTuberおじさん)のブログか何かで、“バーチャルYouTuberの必須アセットは「Final IK」”という話を見たんです。
- 常名:
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鴨見さんの場合、ご自身の3Dモデルが完成する前から調べて「あっ、これは買わなきゃ」という感じだったんですか?
(※オーラ……鴨見カモミ用語。現実の物体などをバーチャルにあるものとして表現する際によく使われる)
- 清水智雄氏(以下、清水):
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カモミさんはVIVEトラッカーもめっちゃ持ってますよね。
(※VIVEトラッカー:HTC VIVE向けアクセサリー。物体に装着して使用し、位置をトラッキングすることができる。VTuberにおいては手首や足に装着することで体の動きを表現するために使われる)
(圧倒的なトラッカーオーラである)
(会場では再び撮影タイムに。カモミちゃんのファンイベント的な様相を呈してきた)
- 常名:
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鴨見さん自身が操っている側なわけで。
「BOOTH」はクリエイターのモチベーションを上げる
- 常名:
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それまでは何をされていたんですか?
- 京野光平氏(以下、京野):
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常名さんもチャレンジしたことありますよね。
(「BOOTH」にて販売されている3Dモデルの一例。このほかにも武器やアクセサリなどの小物も多数出品されている)
- 常名:
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会場に来てるみなさんはその苦しみを知っていると思うので……逆に何で「BOOTH」にスルッと出したんですか?
(京野氏が「BOOTH」に出品している3Dモデル。商品ページはこちら)
- 重松:
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確か3.6%ですね。
- 京野:
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3.6%ですよ!
- 重松:
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説明しますと、「BOOTH」にはブースト機能というのがありまして、商品を購入する際に上乗せて購入ができる機能です。結構多くの方がブーストをする傾向があって、3D系だと購入者の10%以上の方がブーストしているんじゃないかなと。
- 常名:
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NABYさんも「BOOTH」に出品されてましたっけ?
(NABY氏が「BOOTH」に出品している「Vワールド」。商品ページはこちら)
- 常名:
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「BOOTH」に出してみてどうでした?
- 常名:
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鴨見さんも「BOOTH」に出品されてますよね?
(カモミちゃんが「BOOTH」に出品している本。商品ページはこちら)
創作活動の支えとなりえる「pixivFANBOX」
- 常名:
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それと鴨見さんは「pixivFANBOX(FANBOX)」もやっていますよね。
(ちなみにカモミちゃんの「pixivFANBOX」最高プランは月額10,000円の「ハイパー石油王かもみんプラン」だが、なんと会場にはこのプランを選択している石油王の姿が。石油王はカモミちゃんを最前列で見るためにイベントに参加したとのことで、会場は拍手に包まれた)
- 清水:
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鴨見さん、実際かなり「FANBOX」に助けられていますよね。
- 常名:
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「FANBOX」はどういった意図で作られたんですか?
今後3Dクリエイターシーンは盛り上がっていく

pixivによる無料の3Dキャラ作成ツール「VRoid Studio」一般提供が開始 | Mogura VR
MoguraVR
(「BOOTH」では、「VRoid Studio」で作成した3Dキャラモデルを販売することが可能。最近では、ソーシャルVRアプリ「VRChat」などで利用するユーザーが多いことから、VR向けファイル形式の「VRM」での書き出しも行われているとのこと)
- 清水:
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VTuber的な文脈で3Dに触れたユーザーと、「VRChat」で3Dに触れたユーザーが同じくらいのタイミング。実は「VRoid」のプロジェクトは2017年の10月くらいに「ピクシブも3Dやらないとな」と考え始めていたんですけど、最終的に普及するには2.3年かかると思っていて。ゆっくり研究開発していくつもりでした。
……そうしたら2017年の12月にねこますさんが現れて、いわゆる民主化が始まってびっくりしました。輝夜月ちゃんなども登場して、年末までにはVTuberのトップ層が揃ってしまって。そこから3Dに関わる人が一気に増えたタイミングだと思います。その辺ユニティさんはどう見ているか気になってますが、いかがですか?
- 常名:
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2017年11月のセールの時にAsset Storeで「Final IK」と「Dynamic Bone」が大量に売れたんですけど、その時はVR開発が盛り上がっているんだろうな、と思っていました。その頃にAsset Storeでスクリーンショットコンテストを開催したのですが、そこに一般応募者で電脳少女シロちゃんが来て驚いたんです。ああ、こうした流れで「Final IK」や「Dynamic Bone」を買う人が増えるんだろうな……と思いました。が、それでも買われている分量が明らかに多い。おかしいと思っていたら「VRChat」の存在を知り、調べたところ使えるアセットリストに含まれていました。これだけ買ってくれている人はみんな「VRChat」にいるんだな、とようやく気づいたんですね。
VR内で購入できる「VR即売会」も計画中
- 重松:
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VR内で行われる即売会は「バーチャルマーケット」や「VEXPO」などがありますけど、「BOOTH」でも同じようなことをやれるんじゃないかなと妄想しています。可能であればVR上で支払いまで行ければ体験として1番良いと思うんですけどね。「買ったよ」って相手に伝えて、それでコミュニケーションを取れるのが即売会の魅力でもあるので「その体験をバーチャルで実現したい」という夢ぐらいの段階で考えています。
歩いてお客さんがいる感じを出したり、混んでいる状況を見せたりできたら面白いですね。それこそ、本人の目の前でブーストもできたら喜びもその場で感じられます。他にも3人くらいまで分身できるようになっていて、順番待ちを自分で分担して、順番が回って来たら自動的に転送されて……みたいな。夢が広がりますね。
- 京野:
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面白いですね、VRは販売する際にレジ等も用意しなくて良いという部分がありますが、むしろ混んでいるのをわざわざ再現して「並んでる方が買ってる感がある」って人もいるわけで。便利さは必要ですけど、敢えて不便さを作っていくという流れは今後加速していくと思いますね。
- 清水:
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即売会に関してはお金のやりとりがありますが、従来のクリエイティブ活動はそれでお金をもらえる訳ではないので、強いモチベーションが無いと作品を作れないんですよね。
でも、締め切りっていうゴールが設定されると、そこへ向かって走ることができる。そういったゴールができたり、目的を達成した喜びを得られたりするのが、従来のコミケや即売会だと思います。一方で現実ではたくさん開催すること自体もそうですし、買う側が「買いに行くまで」の物理的・金銭的な問題もあります。VR即売会が普通に開催できるような世界になれば、色々な即売会の中から自分が参加したいイベントに向けてクリエイティブな活動をどんどんやってていける……みたいな流れができれば良いと思います。
- 重松・清水:
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ぜひ、やりたいですね。そういう機会があると参加しやすし、始めやすいと思います。
登壇者らの考える「これからのクリエイター」
- 常名:
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では最後に登壇者の皆さんから、「これからのクリエイターさんたちはどんな風になっていくか」、一言ずつ話していただいてよろしいでしょうか。
- 京野:
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最近は自動翻訳を使ってやり取りができる「Skeb」など、海外にも向けたサイトが発足させられるなど、よりグローバルになっていくと思っています。また、「VRChat」でも海外の方に話しかけられて英語が話せなくても、笑顔で頷いているだけでもコミュニケーションが取れて楽しくなれますし。
少し話は変わりますが、「VEXPO」の主催の方から、「海外ではアバターを買うだけではなく売ることについてもこれといった感覚が無い」らしく、日本と海外ではモデルとかアバターの販売や扱いに関する認識が全然違う、という話を聞きました。VR即売会のイベントをやっていくことで、海外の方たちも入ってきてそうした物を売買するのが当たり前になっていくと思っていて。それを促進させたいと思っています。
- 清水:
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「VRoid」を作ったきっかけにもなるんですけど、10年前に比べて絵描きさんの数って多分とんでもない数の増え方をしていると思うんですね。もちろん趣味でやられている方もいますし、仕事でやっている方もいます。今は色んな表現方法が増えてきていて、「VRoid」をきっかけに3Dを始めることもできますし、鴨見さんみたいに「Blender」を勉強して3Dを作成したり、映像を作ったりなどできるようになってきています。僕らピクシブには絵描きさんが多いのですが、そういう人たちに向けて新しい表現方法や色んな楽しみ方があることを知ってもらって、しかも表現に対して対価を得る、ということが当たり前になってきたというか。
10年前はいわゆる「嫌儲主義」などがあり、昔から描いている人は「趣味で描いている物でお金をもらっちゃいけない」とか思っている人もいるんじゃないかと思うので、「時代は変わったよ、クリエイティブで食べていけるような世の中になりつつあるよ」と認識してもらい、どんどんクリエイティブな活動をやっていてほしいなって思っています。
- 重松:
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モチベーションとして、可能な限りなクリエイターさんにはクリエイティブなところ以外で困ってほしくないと考えています。「BOOTH」は委託や手続きなどの面倒くささを解決したいという思いで作りました。そして、そもそも物を作るのは大変という理由で、グッズを簡単に作れるサービス「pixivFACTORY」を作りました。クリエイターさんが創作活動だけに専念できるような環境を整えていきたいと思っていますし、僕らしかできないこともあると思っているんで、今後も続けていきたいですね。
また、最近は海外の方も「BOOTH」で販売できるようになりました。先程の話にもありましたけど、流通がどんどんグローバルに進んでいくと思います。そういう交流を通してクリエイターの活動を活発にしていきたい、そして僕らは障壁を取り除いて活動を支援していきたいというのが正直な気持ちです。
(懇親会を前にして自分も美味しいものが食べたくなったのか、ドーナツがたくさん。カモミちゃんは「チャレンジできることにはなんでも挑戦していきたい」「バーチャルマーケットとかVR即売会にも出たいですね!」と、終始元気よく答えてくれました)
※座談会の様子は、ピクシブのYouTubeチャンネルでも視聴可能です。
※2018/12/07 12:45 記事内容を一部修正しました
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