高度成長期に生産が終わり、いまではすっかり数を減らしたボンネットバス。観光用に運行しているケースは全国にありますが、岩手の山中で積雪期のみ、通常の路線バスとしても運行されています。

そもそも「ボンネットバス」とは

一般的なバス車両は、車体の後方部にエンジンを搭載し、後輪が駆動する「リアエンジン・リアドライブ」方式のもの。しかしかつては、エンジンを車体前部に配置する「フロントエンジン・リアドライブ」が主流でした。その大多数は乗用車のようにボンネットがあったことから、いまでは「ボンネットバス」と呼ばれています。

ボンネットバスはその構造上、貨客スペースがどうしても狭くなります。そのため高度成長期、輸送需要が急激に増えるなかで、より多くの貨客スペ―スが確保できるリアエンジン車に取って代わられ、ボンネットバスは姿を消していきました。

そして現在では、レトロで珍しいイメージから、観光の目玉車両として扱われることが多くなっています。たとえば、徳島県四国交通による祖谷渓の定期観光バス広島県鞆鉄道による福山市内や鞆の浦の定期観光バスなどで季節的に運行されています。そのほかにも、観光バスとして走っていたり、動く状態で保存されていたりしますが、通年で一般路線バスとして運用されるものはなくなってしまいました。

ただ、「積雪期のみ」という条件付きで、通常の路線バスとしてボンネットバスが使われる路線があります。それが、岩手県北自動車の松川温泉線です。

秘湯への路線、その「最後の山道」だけを走るボンネットバス

松川温泉線は、盛岡駅近くにある盛岡バスセンターと、秋田県境近くの松川温泉(八幡平市)のあいだを約2時間かけて結びます。途中までの区間便は1時間に1本以上のペースで運行されていますが、松川温泉までの全線を走る便は1日3往復。時刻表上は通し運行となっているものの、積雪期には途中の八幡平マウンテンホテルで車両の乗り換えがあり、そこから松川温泉までの区間でのみ、1968(昭和43)年式のボンネットバスが使われています。乗車時間はおよそ20分です。

八幡平マウンテンホテルまでは、一般的な路線バスで向かいます。街中の盛岡バスセンターから徐々に郊外へと景色が変わり、狭い道などを通りますが、ここまではよくある地方のバス路線といった趣。山を分け入り八幡平温泉郷に入ると、マウンテンホテルの前にボンネットバスが待機しています。

ここからの道は特に積雪も多く、急勾配やカーブもある難所。このボンネットバスは小型で小回りがきき、しかも四輪駆動のため、このような雪道に向いているのです。地上高が高いことも、積雪に強い特徴といえるでしょう。つまり、ボンネットバスは厳しい雪道への対策として運用されているのです。

2018年度におけるボンネットバスの運行は、12月1日(土)から始まりました。例年、3月ごろまで走ります。

ボンネットバスに乗ってたどり着く終点の松川温泉は、3軒の旅館が建つ秘湯。白濁した硫黄泉の湯で、いずれも露天風呂があり、ボンネットバス運行シーズンであれば雪見風呂も楽しめます。

※記事制作協力:風来堂

岩手山をバックに八幡平の雪道を走るボンネットバス(池田 亮撮影)。