大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第45回「西郷立つ」12月2日(日)放送 演出:大嶋慧介

西郷どん 完結編 (NHK大河ドラマ・ガイド) NHK出版

続・お風呂シーンは視聴率アップを助けるのか
いよいよあと2回(これをいれて3回)を残すばかりとなった「西郷どん」。
44回に続き、西郷さんのお風呂シーンがあった。今回は、菊次郎(今井悠貴)といっしょ。しかしながら、視聴率は11.5%と44話よりも下がった。
お風呂効果なし。ただ、この数年、大河よりも高視聴率を誇っていた日曜劇場も、「下町ロケット2」第八話は同じく11.5%だった。
気になる「今日から俺は!!」は9.4%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)。
8時台、9時台、10時30分台……とテレビを見ている人はそれほど変わらない印象である。

さて、問題のお風呂シーンだが、これから話が重苦しくなる一方で唯一の西郷の安らぎシーンにふさわしいと考え抜かれたシチュエーションであるのだろう。また、スタジオに苦心して作ったセットだから何度か使用したいという事情もあるだろう。室内に温水プールを作るようなもので、いろいろ大変だと思う。
なんといっても、鈴木亮平のみごとな肉体の変化をせっかくだからちゃんと披露したいという気持ちもあるのではないか。
着物の上からでも十分、変化はわかるが、あんこを入れているかもしれないという疑惑を、裸になれば晴らせる。そして、お風呂シーンによって、筋肉をしっかりつけての増量であることがわかった。
太りすぎて健康を損なっている部分もあったらしき西郷さんが、やたらと鍛え上げられ健康そうではあったが。
いやもうそんなことは言うまい。鈴木亮平はほんとうによくやったと思う(何目線)。

私学校に密偵が
さて、西郷が薩摩に作った私学校は好評で、2000人もの若者が集まった。
いつでもどこでも、若者は明るい未来を夢見ている。自分の中にうごめく可能性の出しどころを探しているのだ。
その感情や力の進む方向によっては悲劇が生まれてしまったりもする。
西郷と大久保だって、最初は一丸となって、いい国作ろうとしていたのだ。
そして、私学校に、大久保に仕える川路(泉澤祐希)が差し向けた密偵がいた。
中原尚雄(田上晃吉)だ。

明治9年、廃刀令が発せられ、私学校たちの学生たちはショックを受けるが、あんなにも刀を大事にしていた
桐野(大野拓朗)が率先して、耐えて、刀を差し出す。

だが、各地で士族による反乱が起こる。

そのうち、密偵が潜んでいることがバレて、中原が拷問を受ける。
捕まったとき自殺しようとして、でも情報を引き出すために死なせないとか、刀の柄で手の甲を強く突くとか
いやに描写がハード。モールス信号で秘密の交信がされているところとかも、カタカタいう音が不穏感を煽っていた。

ボウズヲシサツセヨ」
西郷は、大久保が自分を暗殺しようとしていることを知る。本当は、大久保は「立たんでくれ」と祈っていた。立ち上がらなければ抑える必要はないという考え方なのだ。大久保が気持ちを押し殺している表情を瑛太が巧いこと演じている。
「シサツ」って「刺殺」じゃなくて「視察」の意味だったらどうだったんだろう。

かなりヘヴィな話なので、見ていて辛い。
西郷は東京まで政府と話し合いをしに行くことを決意する。決して戦ではなく話し合いだということで。

出かける前、雪が降ってきた。
西郷は糸(黒木華)と会話する。
新しい国を見せてくれると言われたがまだ見せてもらってない。今度の出立はその新しい国を作るためなのかと、問いかける糸。
何も答えられない西郷。
残される者(糸)の気持ちがひしひしと伝わってくる。
瑛太も黒木華鈴木亮平も、みんな瑞々しさの出せるいい俳優なんだよなあ〜。

明治19年2月17日鹿児島に50年ぶりの大雪が降った日。
西郷は、菊次郎や熊吉(塚地武雅)を伴って、東京に向かう。
こういう天候は史実だろうけれど、なんとも劇的である。
相変わらず、雪降らしの技術は、NHKのスタッフ、すばらしい。
前にも書いたが、雪の場面ばかりにしたらいい。情緒が出るから。雪と桜ってベタだがほんとうに万能である。これを効果的に使っているのが、ドラマ10「昭和元禄落語心中」だ。

西郷家の女たちが、並んで支度しているところもしっとりしていて素敵だった。「女たちの明治維新」とかいうドラマにしちゃっても良かったんじゃないかしら。
島から菊次郎に続いてやってきた菊草(八木優希 「ひよっこ」の乙女たちのひとり)の歌声も癒やしであった。

次回、いよいよ西南戦争! あと2回!
(木俣冬)