TBSの日曜劇場「下町ロケット」(夜9時〜)。先週放送の第8話は、その裏で放送された「M-1グランプリ2018」(テレビ朝日)に食われたのか、関東地区の視聴率は11.5%と前週よりやや落ちた(対するM-1は同地区で18.8%を記録)。しかしドラマのなかでは、M-1に負けない熱いバトルが繰り広げられていた。対決したのは、帝国重工のM-1ならぬ「アルファ1」と、ダイダロス、ギアゴースト、キーシンの中小企業連合による「ダーウィン」。いずれも目下、双方が開発に力を注ぐ無人農業トラクターである。

着実に進む重田・伊丹の復讐
前回、第7話の終盤で、帝国重工がアルファ1のプロジェクトを発表するのにぶつけて、ダーウィンプロジェクトがテレビであきらかにされ、がぜん世間の注目を集める。このプロジェクトは、アルファ1の総責任者である的場(神田正輝)への恨みから、ダイダロスの重田(古舘伊知郎)とギアゴーストの伊丹(尾上菊之助)が復讐のため、キーシンの戸川(甲本雅裕)も巻き込んで極秘で計画を進めてきたものだった。

突如現れた伏兵に、的場は財前(吉川晃司)に怒りをぶつけ、帝国重工と提携してアルファ1の開発を進める北海道農業大学の野木(森崎博之)──彼は戸川に開発データを盗まれていた──も、そして野木に協力する佃製作所社長の佃航平(阿部寛)も動揺する。

しかし重田たちにとって、プロジェクトの発表は的場への復讐の序章にすぎなかった。さらに続けて、週刊誌で、重田がかつて父親と経営していた会社が的場の下請け切りのため倒産していたことが暴露される。そしてダーウィンプロジェクトは、そんな過去の因縁を背景に、下町の中小企業が組んで大企業に挑むものだと、ここぞとばかりに喧伝された。世間はまんまとこの物語にだまされ、帝国重工には非難が集中する。ちなみにここで出てきた週刊誌は「週刊ポスト」。「下町ロケット」の原作と同じく小学館発行だからだろう、3年前の第1シリーズに続く実名での登場となった。

帝国重工の企業イメージが著しくダウンする事態に、的場は次期社長の座を目前にしながら、会長の沖田(品川徹)から一旦お預けを言い渡され、社長の藤間(杉良太郎)の任期が延長された。

的場は事態を打開するため、腹心の奥沢(福澤朗)と図って、アルファ1を小型・中型トラクターから大型のものへと変更する。もともとプロジェクトを提案した財前の計画書では、日本の農業事情を考えると小型・中型こそふさわしいと明記されていたのだが、的場たちはそれをこっそり書き換えてしまったのだ。

佃父子、バルブシステム開発で競い合うことに
さて、ここまで佃はハシゴを外されっぱなしであった。当初、財前・野木とともに日本の農業を救うべく立ち上げたプロジェクトは、的場に横取りされ、佃は開発から外されてしまう。

一方で、これまで佃製作所がトラクター用のエンジンを提供してきた農機具メーカーのヤマタニもまたダーウィンプロジェクトに協力していたことが判明する。佃は帝国重工にトラクター開発で協力するにあたり、ヤマタニにはあらかじめ断りを入れて仁義を切ったにもかかわらず、まんまと裏切られていたのだ。

さらに追い打ちをかけるように、佃製作所が帝国重工のロケットエンジンに提供するバルブシステムにも暗雲が立ち込める。帝国重工はバルブシステムを独自開発へ切り替えを検討していると、担当の水原(木下ほうか)から告げられたのだ。すでに帝国重工社内ではバルブシステムの開発が開始され、佃の一人娘の利菜(土屋太鳳)も携わっていた。

しかしこれが佃たちに伝えられたことで、利菜はやっと父と正々堂々争うことができると、むしろ胸のつかえが取れたようだ。水原も、佃製作所のバルブシステムの性能が帝国重工のそれを上回るのであれば、いままでどおり請け負うと約束してくれた。

恐怖! 止まらない無人トラクター
重田と伊丹らが復讐を着実に進め、対する的場も汚名返上のチャンスを探るなか、岡山での一大農業イベント「アグリジャパン」でダーウィンアルファ1と直接対決させる機会がめぐってくる。山場となるこのシーンでは、日曜劇場池井戸潤原作・福澤克雄監督作品ではおなじみの大勢のエキストラを動員しての地方ロケが敢行され、本シリーズでもひときわ力の入ったものとなった。

アルファ1プロジェクトから外されたあとも、野木に実験用のトラクターを提供する形で独自に開発を進めていた佃も、営業部の津野(中本賢)と唐木田(谷田歩)、山崎(安田顕)ら技術開発部の面々に加え、田舎に戻って農業を営む元経理部長の殿村(立川談春)も誘って岡山に繰り出す。

帝国重工側からも的場と奥沢が、提携する野木とともに対決の場にのぞむ。そこへ財前が、藤間をともなって会場に現れた。海外視察中のはずの藤間のまさかの登場に、的場たちは焦りを隠せない(このときの的場たちを見つめる杉良太郎流し目には鋭いものがあった)。

こうして、それぞれの思惑が交錯するなかトラクターの対決が始まった。まず登場したダーウィンが小型だけあって小回りも利き、作業もムラなくこなす様子に、観客は身を乗り出したり、どよめいたりといちいち反応がいい(筆者も以前、同じく日曜劇場の「ルーズヴェルト・ゲーム」でエキストラ経験があるが、こんなふうにみんなそろって動いたり声を出すのは本当に楽しいものです)。これに対し、アルファ1はでかい図体のためカーブを切るのもスレスレな上、作業も雑と、馬力の強さ以外はまったくいいとこなしだった。

そこへ来て重大な事態が発生する。最後の自動停止機能を確認する関門で、アルファ1は停止用のセンサーが働かず、人間の代わりに置かれたかかしをなぎ倒し、そのまま走行し続けたのだ(かかしとはいえ、ボロボロになりながら引きずられる様子はちょっとショッキングだった)。そして会場の外にまで突き進もうとしたところで横転し、会場は騒然となる。社長の目の前での大失態に、的場たちは蒼ざめた。もとはといえば小型にする計画だったトラクターを彼らが強引に変更したのが原因だけに、責任はあまりに大きい。

久々に佃製作所のあの男がいい味を出す
無人トラクター対決の会場には、かつて伊丹とギアゴーストを立ち上げながら袂を分かった島津(イモトアヤコ)も来ていた。これというのも、伊丹が事前に彼女に誘いの手紙を書いたからだが、受け取った手紙を破り捨てることなく、ちゃんと読んだ上、しかもスケジュールが空いていたからとわざわざ岡山まで足を延ばす島ちゃん、人が良すぎるだろ! と思ったのだけれども、エンジニアとしてはもともと自分のつくったトランスミッションがどう使われているのか気になるだろうし、伊丹にどこかまだ未練が捨てきれないのかもしれない。

第8話ではまた、ここしばらく目立った活躍のなかった佃製作所・技術開発部のあの男、軽部(徳重聡)が久々にいい味を出していた。野木を手伝う佃に付いて、立花(竹内涼真)、加納(朝倉アキ)と北海道まで来てくれたのはいいが、ここでもあいかわらず時間かっきりに仕事を打ち切るマイペースぶりを見せる。かと思えば、会社の昼休み、加納がおにぎりをつくってきたと同僚に振る舞おうとしたところ、すばやくつまみ食いする図々しさ。本当に得がたいキャラである。

ともあれ、アルファ1の敗北は、帝国重工にとってはもちろん大きなダメージながら、的場の失策と考えると財前にとっては起死回生のチャンスといえる。それは佃も同様だ。方々からハシゴを外された佃製作所としてみれば、ここでいま一度、どうにかプロジェクトに食い込んでいくしかないだろう。

対するダーウィンプロジェクトの面々も、的場への復讐を一通り果たしたとあって、今後、モチベーションを維持していけるのかどうか。いまのところ表向きには庶民の味方っぽく振る舞っているけれど、それもいつまでも持たないだろう。今後、佃たちの手で彼らの化けの皮がはがされていくことを期待したい。がんばれ、ぼくたち、わたしたちの佃製作所! 続く第9話は今週も夜9時から。
(近藤正高)

※「下町ロケット」はTVerで最新回、Paraviにて全話を配信中
【原作】池井戸潤『下町ロケット ヤタガラス』(小学館)
【脚本】丑尾健太郎
【音楽】服部隆之
【劇中歌】LIBERAリベラ)「ヘッドライト・テールライト
【ナレーション】松平定知
【プロデューサー】伊與田英徳、峠田浩
【演出】福澤克雄、田中健
【製作著作】TBS

イラスト/まつもとりえこ