株価が暴落している時の狼狽売りは危険だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

株式投資は心に余裕を持って

10月に、株価が大幅に値下がりしました。先週も、株価が大幅に値下がりしました。狼狽売りをした方も多かったようです。特に初心者は、株価が上がると買いたくなり、下がると狼狽売りをするケースが多く、結局高値で買って安値で売りかねない、と言われています。

初めに強調しておきたいのは、株式投資はリスクがあるので、心に余裕を持てる範囲内で投資をしよう、ということです。株価が10%下がっただけで、「これ以上の損には耐えられないから、売却しよう」と考える投資家もいるようですが、それは投資額が大きすぎるのです。

「悪ければ3割下がるけれども、良ければ大きく値上がりするのが株価だ」と考えて投資をしましょう。「株価が3割下がっても大丈夫だから、狼狽売りはしない」という心の余裕が必要です。その範囲に投資額を抑える、ということですね。

一部のマスコミは5%下がっただけでも「暴落だ」と大騒ぎするかもしれませんが、それは騒いだ方が読者受けをするからです。10月の下落は10%超でしたから、多少は騒いでも良かったのかもしれませんが、先週はたかだか数%でしたから、投資家は暴落報道に惑わされることなく、平然としていたいものです。

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株価が下がった理由を考える

株価が大幅に値下がりするケースとして考えられるのは、(1)バブル崩壊のように今まで高すぎた株価が適正水準に戻りつつある、(2)戦争勃発といった状況の変化によって経済金融の見通しが悪化した、(3)市場の雰囲気が楽観から悲観に変化した、といった場合でしょう。

(1)と(2)の場合には、株価がどこまで下がるかわかりませんから、直ちに売る方が安心でしょう。一方で、(3)の場合には、株価が適正水準の近辺で上下しているだけですから、市場の悲観ムードが和らげば株価も戻るでしょう。狼狽売りは禁物です。では、現状はいずれでしょうか。

(1)の場合は、そもそもバブルであったのか否かの見極めが重要となります。今回は、バブルではないので、これには該当しないと筆者は考えていますし、多くの読者も同じ考えだと思います。

(2)に関しては、今回は大きなニュースがあるわけではないので、該当しないと筆者は考えています。米中貿易戦争、あるいは米中冷戦については、様々なニュースが次々流れてきますが、基本的には「米国は中国を本気で叩くつもりだ」ということだけ知っていれば、目新しいニュースはありません。

そうであれば、消去法で(3)だということになりそうです。それなら筆者は狼狽売りをせずに相場の戻りを待ちたいと思います。

市場の雰囲気だけで株価が大きく動く理由を知ろう

市場の雰囲気が楽観から悲観に変化すると、株価が大きく値下がりすることがあります。その理由を知れば、狼狽せずに落ち着いて株価の推移を眺めていられるようになるかもしれません。

まずは、「投資家たちは自分の意見より市場の雰囲気に従う」という「美人投票」です。投資家の中には楽観的な人も残っているわけですが、「自分は楽観的だが、他の市場参加者は悲観的になっていて、売り注文を出しそうだから、株価は下がるだろう。自分も売ろう」と考えて売り注文を出す、というわけです。

次に、「借金で株を買っている投資家が、株価下落で不安になった銀行から借金返済を求められたために、泣く泣く株を売る」という不本意な売りです。信用取引に失敗して「追加証拠金」を求められた個人投資家が、泣く泣く株を手放すのも、これに含まれます。

機関投資家の中には「損切り」のルールを定めている所も多いようです。これは、担当者が一定以上の損を出した時に、持っている株を全部売らせて休暇を取らせる、というルールです。損失が無限に膨らむリスクを避けるという意味合いの他に、損が膨らんでいる担当者は頭に血が上って判断を間違える可能性があるので、頭を冷やさせる、という意味合いもあるようです。これも不本意な売りですね。

市場の雰囲気が変わると美人投票的に株価が下落し、それを受けて損切り等の不本意な売りが出てきます。それを予想した投機家たちは、先回りして株式を空売りするかもしれません。

最後に出てくるのは、投資初心者の狼狽売りです。大した材料も無いのに株価が大幅に下げると、「自分の知らない何かが起きていて、この世の終わりが来るのかも」と疑心暗鬼になり、狼狽売りをしてしまうのです。

こうした売りが収まると、もう売りたい人は残っていませんから、投機家がカラ売り分を買い戻すと、株価は急速に値を戻す場合も多いようです。

株価が大した材料も無いのに大幅に値を下げるのは、こうした理由があるのですから、それを知った上で狼狽せずに落ち着いて株価の戻りを待ちましょう。

繰り返しになりますが、株価下落がバブル崩壊や戦争勃発などといった原因ではなく、市場の雰囲気の変化によるものであることは、しっかり確認する必要があります。そこは、くれぐれも気をつけましょう。

本稿は、以上です。ちなみに、現状がバブルか否かを見極める方法としては、拙稿『バブルは繰り返す:次に痛い目に遭わないための4条件とは?』を、米国が中国を本気で叩くつもりであることについては、拙稿『米国と中国は、ともに妥協できない全面対決へ』をご参照いただければ幸いです。

なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。本稿は筆者の見解をお伝えするもので、読者に投資アドバイスをするものではありませんので、投資はくれぐれも自己責任でお願いします。

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