田代まさし

8日、東京・新大久保の日本福音ルーテル東京教会で、元タレントの田代まさし氏、前千葉県知事の堂本暁子氏らによる講演会が開かれた。

この企画は、新宿に拠点を置く3つの市民ファンド(認定NPO法人 高木仁三郎市民科学基金・公益社団法人 難民起業サポートファンド・認定NPO法人 まちぽっと)が主催したもの。

 

■「田代流」で薬物からの回復を語る

「『薬物依存からの回復』と寄り添い、歩く」と題された講演には、まずは田代氏が登場。この教会は、新大久保で育った田代氏が幼稚園に通った場所でもある。冒頭から「ひろし風のネタ」を披露し、

「沖縄には『ドラッグマーシー』というドラッグストアがあります。いちいちその写真を僕に送りつけるのを止めてください」

 

などと観客を笑わせた。田代氏は今、薬物依存からの回復と社会復帰をサポートする民間組織『日本ダルク』のメンバーとして依存者サポート活動を行っており、講演を依頼されることも数多い。

堅苦しく話すのではなく、芸能界で鍛えた笑いや落ちを盛り込む「田代流」を貫く。「回復を語るんでも、いろんなスタイルがあっていい。全員を納得させようと思ってない」という。

 

■薬物依存は「病気」

田代まさし

薬物依存からの回復は「平坦な道ではない」と田代氏。薬物依存は「病気」だが、世間からは「意志が弱いだけ」と言われ、病気であることが伝わりづらいという。

「最初の1回目、こんなに止められない病気になると思って使うヤツはいない。『やめられる』と思って始める。俺も若い頃シンナーを吸ってたけど止められたので、覚醒剤も止められると思っていた」

 

しかし、出所して4年が経つ今でも、「正直な話、まだ薬をやりたい気持ちもある」と告白。

ダルクと関わる前は、正直に言うことができず、『もう二度とやりません』と言っていた。今は、『一生止められるかはわからないが、今日一日薬物をやらない努力は怠らない』と伝えている」

 

薬物依存の恐ろしさと、隠さずに向き合うことができるようになった田代氏。スイッチが入ってしまう瞬間はたくさんあるといい、「『無断駐車お断り』という看板を見ると、『注射は無断でやらないと捕まるだろ』と思ったり…」と、会場を沸かせた。

■「更生」ではなく「回復」を

田代まさし

薬物依存が「病気」だとしたら、本当に必要なのは「回復」。しかしながら、世間の人は「更生」を求めるという。

「薬物で誰かが捕まると、普段出演できないはずのテレビ局からコメントを求められる。撮影スタッフに『更生ではなく回復で』と伝えても、放送では『更生』となっている。『これだけ言ってもダメなんだ』と」

 

今回の講演のテーマ「寄り添う」は、ダルクのやり方でもある。

「世間は『排除しよう』とするだけ。出所した直後は、仕事もない。小さなマンションを借りようとしたときも、大家のおばあさんが『私はいいんだけど、主人がね…』とか。

 

薬をやっているときは、誰も止め方を教えてくれなかった。やってるときは止めようとする人と出会わないから。でもダルクで、『止めようとしている人がこんなにたくさんいるんだ』と感動した」

 

と語る田代氏。ダルクは、全国に約90施設。1000人以上が入所や通いで参加しているが、薬物依存者全体からするとまだごくわずかな割合にとどまっている。

 

■刑務所からの手紙に返信も

田代まさし

「ダメなヤツだとみんなに言われ、自分でもそう思っているが、ダルクに入って役目ができた」という。各地での講演の他にも、薬物で服役している人からダルクに「マーシーさん、本当に薬を止めたい」と手紙が届くのだ。

返事は直筆で書くようにしている。また、田代氏の講演を聞いて実際にダルクを訪れた人もいる。

「間違いを正そうとしてるんじゃなくて、仲間たちの手助けをしている。『俺はこういうふうに乗り越えたよ』という経験を伝えたい。役目ができると、『ちゃんとしなきゃ』と思う。目標にされているからには、それなりに頑張らなきゃ」

 

ドラマで話題となった「シャブシャブ子」にも言及し、「よく言われる『虫が体を這いずり回る』といった禁断症状はない。俺の場合はただ寝ちゃうだけ」とリアルな体験談を明かした。

 

■前千葉県知事の堂本暁子氏も講演

堂本暁子

田代氏に続いて、前千葉県知事で参院議員を2期務めた堂本暁子氏が登壇。昨年夏、元厚生労働事務次官の村木厚子氏らとともに、ロサンゼルスにある薬物依存者の治療共同体を視察した報告などを行った。

米国では、薬物犯は刑務所での拘禁刑か治療共同体などでの回復プログラムかを選択することが可能だ。共同体は、元依存者ら「当事者」を中心に運営されている。

「日本では、毎年1万人が薬物で逮捕されている中、1000人は運良くダルクと関わることができている」と、国内でも治療共同体の必要性を強く訴えた。

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(取材・文/しらべぇ編集部・タカハシマコト

田代まさし氏、薬物依存と回復について笑いあふれる講演 「シャブ山シャブ子はない」と明かす