好きなアーティストのライブに行った時、楽しみの一つは会場で売られているLIVEグッズを購入することです。ツアーごとにオリジナリティーがあり、ライブへ行けば必ず買うという人もいることでしょう。 長い間PANのLIVEグッズの制作を手掛けているデザイナーのサノヨシユキさんは、PANらしさを出すためにどんな工夫をしているのでしょうか?

ツアーやフェスのコンセプトをヒアリングして制作を始める

――LIVEグッズの制作を行う流れと期間について教えてください。
 
LIVEグッズはそのアーティストのCD発売やライブツアー・フェス出演のタイミングで依頼をいただくことが多いです。

まずはどのようなデザインを求めているのかヒアリングしますが、アーティスト側からこうしたいという意見がある場合と、ほとんどおまかせという場合があります。PANはグッズに関してはおまかせのことが多いので、デザインの方向性を絞るため、鉛筆で描いたざっくりしたデザインラフ(下書き)を複数案提出してから、実際のグッズ制作用のデザイン作成へ進行します。制作期間はだいたい3週間から1カ月くらいです。

バンドとファンの思いを第一に考えてデザインをしている

――グッズデザインを制作する上でこだわっているところは何ですか? 

今回は『ムムムム』限定BOXセットに同梱されるTシャツのデザインを担当したのですが、
BOXに同梱されている映画『想像だけで素晴らしいんだ -GO TO THE FUTURE-』に沿ったデザインにしたいとオーダーを受けたので、映画で最も盛り上がるライブシーンをそのままTシャツにしたいと考えました。

こだわったことは、ライブ感が感じられて、なおかつバンドメンバー全員がしっかり入っているシーンをアレンジしてオリジナルの画を作ることでした。映画のライブシーンはかなり横長の画なので、Tシャツのデザインに使いにくく、何度も映画のライブシーン映像をキャプチャしました。

少し昔の洋楽バンドTシャツの感じを出したくて、デザインや文字の組み方、印刷の感じもあえて写真が荒くなるようにしています。そうはいっても現代のTシャツらしさもきちんと出したかったので、胸元にワンポイントとして映画のロゴを入れて、この部分だけ色を変えています。


――グッズをデザインする上で大変だったこと、苦労したことを教えて下さい。 

最初はアルバム『ムムムム』を意識したデザインでラフを作っていたのですが、映画の内容にしたものを求められたため、最初の案は全てボツになってしまいました。ここは私自身のヒアリングが足りなかったせいです。

PANのグッズはこれまでに数十種以上作ってきているので、バンドやファンが求めているものもだいたい掴めていたつもりでヒアリングが甘かったと痛感しました。改めて、一つのデザインに対して常にこだわらねばと再認識しました。

あとこれは今回に限らないのですが、基本的にグッズは印刷の特性上使える色数が限られているのでいかに少ない色数で華やかに見せるか毎回考えます。


――グッズをデザインする上で気を付けていることはありますか? 

常にバンドとファンのことを第一に思ってデザインをすることです。客観的な目線を持ちつつ、ファンがグッズを持つことで「そのバンドが好きだ」と伝わり、喜んで手にしてもらえるものを追求しています。

あとは普段でも使いやすいデザインを意識して、PANを全く知らない人にもグッズを見て興味を持ってもらえるようにと考えています。ずいぶん昔にデザインしたグッズを現在も着ている人を見かけたときは「デザインを気に入ってずっと着てくれているんだ」と思い、うれしいですね。他にもライブの常連さんを見かけたり最新のグッズを使ってくれている人を見かけた時も「今回も気に入って買ってもらえた」と思えてすごくうれしいです。そんなファンの反応を直接見たりできることがこの仕事の面白いところです。

PANらしいぶっ飛んだグッズを作ってみたい

――今後デザインや制作してみたいグッズはありますか? 

PANはこれまでにCDジャケットやグッズに関して変わったチャレンジをしてきたバンドです。ずっとついてきたファンでさえ驚くような、かつこれまでのバンドが全くやったことがないようなグッズを作ってみたいですね。例えばPANオリジナルのパンが焼ける「ホームベーカリー」とかですね。コストが高すぎて実現できないでしょうが、これぐらいぶっ飛んだものを作ってもPANならアリだと思います。

他には、PANメンバーによる「オリジナル小説」です。曲から映画ができたのだから小説もアリでしょう。そしてそれを映画化することです。少し現実的なものだと、どこかが既にやっているグッズですが「スカジャン」も良いかもしれません。これに関しては私が欲しいだけなんですけど、依頼がきたらすごくかっこいいものを作る自信があります。


――グッズをデザインする工程の中で、一般的に知られていないことはありますか? 

グッズのアイデアは、バンドのライブに来ているお客さんを見て考えたりします。ファンの人たちが着ている服や小物を観察して、今求めているデザインを想像します。もちろんファッション誌なども見て流行をチェックしたりもします。

Tシャツのデザインをする時は、必ず「黒Tシャツ」を作ることを想定してデザインしています。黒Tシャツは女性がライブでどれだけ汗をかいても下着が透けないので良く売れますので、ほぼ間違いなくライブバンドのグッズには黒Tシャツが入ります。

あとはTシャツなどのデザインには「ファンなら気が付くような細かいデザインや遊び」を忍ばせるのですが、発売後にそれに気付く人をSNSで見つけては一人で喜んでいます。



私たちが手にするLIVEグッズは、バンドとファンの思いを第一に考えて作ってくれるデザイナーの存在があるからこそ成り立つのだということが分かりました。これからLIVEグッズを買うのがさらに楽しくなりそうですね。

11月9日大阪・梅田QUATTROを皮切りに、PANの『ムムムム』リリースツアーが始まります。ぜひLIVEグッズにも注目したいですね。


Profile
HABIT DESIGN / アートディレクター・デザイナー サノヨシユキ


<リリース情報>
7th FULL ALBUM『ムムムム』

2018年11月7日(水)発売
(通常盤:CD+特別トレー)
価格:2,400円+TAX
(限定盤:CD+DVD)
価格:3,000円+TAX
CD収録曲:10曲
M1:初日ファイナル精神
M2:もうすでにここにあるのだ
M3:我ニBET
M4:幸せが鳴る夜に
M5:アブラナガスナ
M6:鼻咲おじさん
M7:今日炭酸爆発
M8:何色レンジャー
M9:シャッフル
M10:ザ・マジックアワー

DVDタイトル:我二BETツアー~ヘイジツーマンで汗BETBET~ 八王子 RDS2nd 8stにて
【完全限定生産盤DVD収録内容】
収録曲:
1 フリーダム
2 天国ミュージック
3 Z好調
4 ギョウザ食べチャイナ
5 我ニBET
6 直感ベイベー
7 成せば成る
8 ラジオ体操 第百
9 扉
10 スイカの種
11 ジャパニーズソウル
12 ムサンソ
13 「0」