さな子どもがいる人なら、一度は児童書売り場でヨシタケシンスケの絵本を見たことがあると思う。ポップで愛らしい絵柄とキュートなユーモア。全国の絵本書店員の投票で選ぶ「MOE絵本屋さん大賞」では過去に4回も第1位を獲得している。すごい人なのだ。

6歳の娘がいる我が家にもヨシタケシンスケの絵本は何冊もある。2013年に発売されたシリーズ1作目の『りんごかもしれない』は娘があまりに好きすぎて、いつの間にか暗誦できるようになっていたほどだ。

11月に発売された『それしかないわけないでしょう』も書店で見た瞬間にすぐ買った。小学1年生に絵本はどうかな? とチラッと思ったが、中身をパラパラとめくって買うと決めた。内容が素晴らしかったからだ。本書はなんと発売6日間で10万部を売ったという。

「子供は世界で一番飽きっぽい生き物」
主人公は幼稚園児ぐらいの女の子。ある雨の日、小学生のお兄ちゃんが深刻な顔で話しかけてきた。

「…ねえねえ、しってる? みらいはたいへんなんだぜ」
「へ?」

お兄ちゃんが言うには、未来は人が増えすぎて食べ物がなくなったり、病気が流行ったり、戦争が起こったりして、大変なことになるらしい。わたしが大人になる頃には未来は真っ暗! ショックを受けた女の子がおばあちゃんに相談すると……。

「だーいじょうぶよ! みらいがどうなるかなんて、だれにもわからないんだから!」

と笑顔で言ってくれた。

「おとなはすぐに『みらいはきっとこうなる』とか『だからこうするしかない』とかいうの。でも、たいていあたらないのよ」

そういえば、お父さんは今日晴れるって言ってたのに雨だった。訳知り顔の大人の予測なんてあてにならないのだ。自分に都合のいいように言っているだけなのかもしれない。おばあちゃんは言葉を続ける。

「あと、おとなはよく『コレとコレ、どっちにする?』とかいうけれど、どっちもなんかちがうなーっておもったときは、あたらしいものをじぶんでみつけちゃえばいいのよ!」

これが『それしかないわけないでしょう』というタイトルにつながっている。ね、すごくいいでしょ? 世の中も未来も、どこかの誰かが決めた選択肢がすべてじゃない。誰だって、もっといいもの、もっとしっくりくるもの、もっと楽しいものを自分で探すことができる。

この絵本のいいところはここから。気分がすっかり晴れた女の子は、次々と楽しい未来を自由な発想で考えはじめる。たくさんの愉快な未来を話した後、女の子が「みらっていいでしょう?」と握りこぶしをつくって言うと、寝たきりのおばあちゃんが握りこぶしで「みらいっていいわね!」と応えるところは読んでいていつも泣けてしまう。

ヨシタケシンスケは自作について「子供は世界で一番飽きっぽい生き物。最後までページをめくってもらえるように心がけて描いています」と語っている(文春オンライン 2月11日)。その言葉のとおり、展開は意外性に満ちているし、遊び心とスピード感と勢いで満ちているから、やっぱり子どもは夢中になる。

あと、大人が読んでもおもしろい。ぜんぜん子どもだまし感がないし、おしつけがましいメッセージもない。毎日に閉塞感を感じている人は、ぜひ手にとってみるといいんじゃないかと思う。

自分で考えることの楽しさ、オルタナティブの素敵さ、なにより子どもたちの未来の明るさを豪速球で投げ込む『それしかないわけないでしょう』。6歳娘はやっぱり夢中で読んでおりました。
(大山くまお