吃音(きつおん)とは、話し言葉が「どもる」といわれる話し方の障害をいいます。 子どもに吃音が出る時期は3歳~5歳前後の幼児のころですが、大部分は学童期または成人するまでに症状が消えたり、軽くなったりします。 大人の吃音症は約4:1の割合で男性が多いのですが、幼児期では男女の差はありません。吃音は単なるあがり症や緊張ではなく、脳機能の活動に由来する障害とみられています。 今回は、子どもの吃音である発達性吃音の原因と治療法をご紹介します。



発達性吃音とは?

幼児期に発症する吃音を発達性吃音といいます。吃音なのか発達段階なのかわかりにくいかもしれません。単語のはじめの音が詰まったり、滑らかに上手に話すことができなかったりする状態です。 発達性吃音の原因はまだ特定されていませんが、一番治しやすいのも発達性吃音です。吃音になりやすい体質として遺伝的要素があることと、それに環境などの要因がからみあって起こると考えられています。 ちなみに、成人してからの疾患によって言語障害が生じ、どもることがあります。また心理的に大きなショックを受けてどもることは、心因性吃音といいます。これらを獲得性吃音といいます。 脳の中でどのようなことが起こり吃音になるのかは、だんだんに解明されつつあります。吃音は、舌が滑らかでないからとか口が動いていないからとか、器官の障害ではないかと思われがちですが、口でどもってしまうのではなく言葉を頭の中で音声にする脳の働きがうまくいかないことで起こります。頭の中では話しているつもりでもタイミングがあわず、詰まった感じになる状態なのです。そのため、顎や口や舌の使い方を変えて、話し方が一時的にスムーズになったとしても根本的な治療にはなりません。 吃音のある子どもは新しい場所や人が苦手で、他の人からの評価を気にする傾向があります。そのため吃音のある子どもには、安心していられる場所作りとして、環境に配慮する必要があります。



突然吃音の症状があらわれる場合がある?

吃音は、2語文以上の言葉を言い始める時期に起きやすいものです。発症してからだんだんに進行していきますが、症状が出たかと思うと出なくなったりする、という特徴があります。そのような波は月単位で出てくるので、大人が見落としてしまうことがあります。吃音症状の中に「ブロック」と呼ばれる言葉がつかえて出てこない症状がありますが、周囲の大人はこの症状が出てきて初めて「これは吃音なのでは」と気がつき、心配になって病院受診になるケースが多いようです。



吃音と発達障害との関係は?

吃音症は、自閉症スペクトラム、ADHDなどの発達障害や学習障害、読み書き障害などの精神疾患と一緒に現れることもあります。そのため遺伝と関連しているのではないかという説もありますが、はっきりしていません。 日本では吃音症を発達障害と捉えていて、2005年から吃音発達障害者支援法に吃音が含まれることになり、診断書があれば精神障害者福祉手帳が交付されます。



なかなか吃音が治らない場合の治療法

吃音が出てきても、50%は自然治癒するといわれています。しかし50%ということは、2人に1人は治療しなければ重症化してしまうということでもあります。 吃音の確実な治療法はありません。しかし治療に関しての情報は非常に多くあふれています。 日本音声言語医学会では、吃音検査法を確立するために、現在検査の項目を検討中です。



一般的な治療法

もし吃音かもしれないと感じたら、できるだけ早く言語聴覚士を訪ねてアドバイスを受けてください。 言語聴覚士から「発達中のものですから様子をみてください」と言われれば安心できますし、吃音症状だとわかれば、早期の治療にとりかかることができます。 吃音を減らす方法として、歌を歌う発声遊び、メトロノーム法によるリズム発話、マスキング、ささやき声などを提案されるかもしれません。しかし、効果がすぐに出たように思われてもそれは治療室の中だけのもので、治療室の外では発揮されないということもあります。 学齢期の子どもは、生活の大きな時間を占める学校のクラスで支援を行うことが効果的です。先生は話し始めた子どもには急かさず極力待って発言させるようにしてください。一生懸命練習したことを発表して最後に先生から評価をいただければ、このような経験は自信につながります。



環境調整など

吃音症状が出たら、環境調整法が有効だということが明らかになってきています。環境調整法とは、専門の先生に指導を受けながら家庭でも実践できるもので、吃音が進みにくく治りやすい環境を作るという意味です。吃音に対する否定的な感情を弱め、自然な発話を多く体験させる治療法です。この環境調整法での有効率は約60%で、効果があることが明らかになっています。 治療は早く始めれば始めるほど治癒率も上がります。吃音かもしれないと思ったら、できるだけ早く言語聴覚士に相談して、特に母親は一緒に訓練するつもりで取り組んでください。家庭でできる実践方法を紹介します。



親への支援

吃音が出ているときにいちいち注意などをすると、それがストレスとなります。言葉への反応ではなく、本人が何を言いたいのかその内容や気持ちなどに反応することが大事です。子どもが言いたいことを代わりに話してしまうようなことは避けましょう。 また次々に質問などせずに、短い文や簡単な言い回しで話をしましょう。 吃音のことをオープンにして、吃音の問題を子どもが気づいているときは、悪いことではないことを子どもに説明しましょう。そうでないと吃音が親を困らせていると一人で悩んだり苦しんだりする可能性があります。 言葉だけでなく、日常のしつけなども厳しくせず、会話の中で自由に本人の感情や意志が出せる状況を作りましょう。否定的な態度や不安そうな表情は子どもに伝わります。このようにして、自然な発話ができるように自発的に気持ちが出せるような環境を整えます。これは周囲の保護者、家族が理解して、皆で取り組む必要があります。すべての大人がしつけなどをゆるくし、皆の対応を同じようにして足並みを揃えましょう。 抱きしめたり、手を握ったり、子どもと向き合う時間を増やしてスキンシップを多くしたりしましょう。こうした姿勢は、子どもの情動の安定につながる重要なものです。無理にするのではなく、普通に大人ができれば子どもにも通じます。



再発した場合の対処法

吃音治療をして滑らかに話せるようになってきている途中で、バックラッシュという現象があり、吃音が再発してしまうことがあります。 これは、自分の意志で変わりたいと思っているのに脳が防衛反応として元に戻そうとするものです。防衛反応の少ない人は、バックラッシュも少ないのです。 バックラッシュが起きたとしても、過剰に反応しないことが大事です。今までやってきたことを否定したり、訓練をやめてしまったりすることがないようにしましょう。



吃音は何科で診察を受ければいい?

吃音にはいろいろな治療法があり、それによって受診する科も違います。 今までお話ししてきた言語聴覚士は耳鼻科に属しています。大きな病院の耳鼻科で言語聴覚士が在籍しているところを探してみましょう。小児専門の病院やクリニックなど、言語聴覚士がいる専門機関もあります。子どもの障害や困難に合わせて「幼児ことば教室」などを開催したりもしています。 吃音者のセルフヘルプグループとして、言友会というサークルで活動しているものもあります。この会で指導をする人はいわゆる吃音の専門家ではなく、教わっていた人が教える立場になり、挨拶などができるようになっていく会です。



吃音が原因でいじめを受けるケース

吃音があっていじめの経験をした人は、多くいるようです。吃音の話し方を「おかしい」「へん」「こっけい」なものとしていじめの対象とされてしまいます。 また「どもりは頭が悪い」「祖先のたたり」「どもりはうつる」などという偏見なども見受けられます。



いじめをとめる方法

幼稚園などでからかったり、真似したり、馬鹿にしたりするようなことが発生していたら、幼稚園や学校の先生は、そのような行為を注意し、やめさせるようにすべきです。 人前で話をするときには特別の配慮が必要となります。たとえば朗読などは、友達と二人でさせると違ってきます。どもっているときは、アドバイスや先取りをしたりせず、十分に待つようにしましょう。クラスの友達に浸透していけばいじめもなくなってきます。



執筆者:南部 洋子(なんぶ・ようこ) 助産師・看護師・タッチケアトレーナー。株式会社 とらうべ 社長。国立大学病院産婦人科での勤務を経て、とらうべ社設立。医療職が企業人として女性の一生に寄り添うことを旨とし、30年にわたって各種サービスを展開中。 監修者:株式会社 とらうべ 助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士などの医療職や専門家が在籍し、医師とも提携。医療や健康、妊娠・出産・育児や女性の身体についての記事執筆や、医療監修によって情報の信頼性を確認・検証するサービスを提供。
子どもの吃音症(どもり)の原因と治療方法