猛暑の影響が懸念されている2020年東京五輪マラソン(女子8月2日、男子同9日)を巡り、組織委員会は、暑さの影響を極力避けるため、スタート時間を午前5時半か6時にする方針です。招致段階の計画では午前7時半だったスタート時間を、この夏の猛暑を受けて7時にしましたが、さらに繰り上げるというものです。終了時間が早くなることで多少は暑さが和らぎそうですが、一方で、早朝からフルマラソンを走ることで選手の体への負担にならないのでしょうか。

体内時計の調整が必要

 まず、モントリオール、ロサンゼルス両五輪にマラソン日本代表として出場するなど、選手・指導者双方でレース経験が豊富な宗茂さんに聞きました。

Q.朝にスタートするフルマラソンの大会の場合、トップレベルのランナーは何時ごろ起床し、朝食を取るのが一般的なのでしょうか。

宗さん「大体、スタートの4時間前です。朝食は4時間から3時間半前くらいに、炭水化物を中心として結構取ります。ご飯や麺類、パンを食べる人もいます」

Q.2020年東京五輪のスタートは午前5時半か午前6時になりそうです。

宗さん「1991年に東京であった世界陸上は、朝6時スタートでした。それくらいなら、いいのではないかと思います。ゴールは8時10分すぎになります。6時スタートなら、午前2時に起きて準備することになります」

Q.早朝のスタートに体調を合わせるため、調整する期間は必要なのでしょうか。

宗さん「調整する人もいますが、調整しない人もいます。人それぞれです」

 次に、医療の観点から、選手の体への影響について、医師の市原由美江さんに聞きました。

Q.午前1時半や2時に起きることは体にどのような影響を与えるでしょうか。

市原さん「普段、朝起きて夜に寝る生活をしている人が、いつもなら寝ているはずの時間に起きると、寝不足による眠気や倦怠(けんたい)感、脱力感、集中力低下など数々の不調が起きます。日中は活動状態に、夜には休息状態になって眠くなるよう体内時計が調節しているものが、狂ってしまうからです」

Q.食事は午前2時か2時半ごろになるとみられます。体にどのような影響を与えるでしょうか。

市原さん「深夜の食事の影響は、その後に寝るか、起きて活動するかで変わります。食事の後に寝てしまうと、食べた物を消化吸収しながら眠るので睡眠の質が低下しますが、食事の後、一日の始まりとして活動するのであれば大きな影響はないでしょう」

Q.普段、午前6時に起床している人が1時半や2時に起床するとすれば、体を慣らす期間は必要なのでしょうか。

市原さん「マラソンのようなハードな運動を、自分の力を最大限に生かして行いたいのであれば、普段の生活リズムと異なる時間帯に起きて一日のリズムを作ることが必要です。朝起きて夜寝るという本来の生活リズムは、体内時計によって調節されています。

例えば、日勤の人が夜勤に体内時計を合わせるためには、最低3週間必要だというデータがあります。体内時計の調整には、かなり時間がかかるため、余裕をもって1カ月以上前から体内時計を調整するために生活リズムを変化させることが必要でしょう」

Q.早朝からフルマラソンのような激しい運動をすることは、体にどのような影響を与えるでしょうか。

市原さん「前述のように、体内時計を調整した後であれば、早朝に行う運動は普段の時間帯の運動による体への負担とさほど変わらないと思います」

Q.今回は避けられそうですが、午前7時スタートだと、30度を超える暑さの中で走ることになる恐れがありました。この場合の体への影響は。

市原さん「夏の高温の環境下でマラソンを行うことは、熱中症のリスクが高いため、お勧めできません」

 組織委は、年内の決定を目指しています。

オトナンサー編集部

マラソンは午前5時半スタートの可能性も