製造販売業からソリューションプロバイダへ
その過程で実感した変革の必然性 

※本コンテンツは、2018年10月17日に開催されたJBpress主催「Digital & Innovation Forum 2018 ~ デジタル変革によるイノベーションの実現~」での講演内容を採録したものです。

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 ブリヂストンは前身の地下足袋事業、ゴム靴事業の成功を機に1931年に創業し、以来タイヤの製造販売をコア事業に据えて成長してきました。マイカーブーム、ファミリーカーブーム、ECOカーブームといった自動車市場の変遷とともに、求められるタイヤの品種、形状、品質、価格ニーズに対応しながら、グローバル化にも着手し、今ではグローバル市場において業界トップシェアを誇っています。

 しかし、激変していくモビリティ社会で継続的に価値提供をしていくために、ものづくりに加え、お客様の課題解決を担っていくソリューションプロバイダとして他社との差別化を成し遂げていくべきだと捉え、組織のあり方やバリューチェーンの改革、新たなビジネスモデル確立へ向けて大きく転換し始めています。

 2017年1月にはデジタル変革を目指した部門を立ち上げ、今に至っているわけですが、当初は「デジタル」というキーワードにばかり目が行き、なんでもデジタル化すればよいのだという方向へ行きかけてしまいました。その時の戒めもあって、今では「ビジネストランスフォーメーション」がわれわれの目標となっています。もちろん、この変革で鍵を握るのは多くのデジタル技術の活用ですが、目指すのはあくまでもビジネスの変革。本日もこの視点でお話をさせていただきます。

 事例として最初にお伝えするのは鉱山事業領域での変革です。タイヤ市場というと、どうしても乗用車をイメージする方が多いと思いますが、建設・鉱山の現場でも当社の製品が多数使われています。大型の工事用車両のタイヤをはじめ、掘削現場で使われるベルトコンベア等にも当社の製品や技術は用いられているのです。マイニングソリューションと命名したビジネストランスフォーメーションでは、まずタイヤの消耗状況や故障の実態を把握し、GPSやB-TAG(※)といった技術も用いて現場の問題抽出を行います。次にそれらのデータにわれわれの経験値も掛け合わせながら、データサイエンスによって改善提案を進めていきました。

(※)Bridgestone Intelligent Tagの略。ブリヂストンが独自に開発したセンサーなどを用いて、運行中の建設・鉱山車両用ラジアルタイヤ(ORR)の空気圧・温度を計測し、情報をリアルタイムで運転手や運行管理者に送信するシステム。

 適切なタイミングでのタイヤのローテーションや、リトレッドと呼ばれるタイヤの再利用を最適化していくだけでなく、多様なデジタル技術も導入したソリューションセンターを設けてプロセスの可視化なども実行していきました。他にも運送事業など業種の異なるお客様へのソリューション提供も行っていった結果、初めて分かった課題も多数ありました。そして、この課題解決にデジタル技術がいかに有効であるかを実感し、なおかつバリューチェーン全体に及ぶ変革の必要性を感じ取りました。また、ものづくりにおけるエンジニアリングチェーンでは、ケミカル分野での変革の糸口も見えてきました。つまりブリヂストンのビジネストランスフォーメーションは、デジタルとケミカルの両輪で前進をしています。

データサイエンティストを中軸に
組織で新たな挑戦へ

 ソリューションプロバイダへの変革を進める中で、バリューチェーン全体でデータを収集・共有・活用するようになった結果、データドリブンによる高品質かつ効率的なタイヤ生産が可能になりました。現在では、データに基づいてお客様に最適なタイヤを導き出し、これをさらなるデジタル活用で効率的に開発・生産していくというスマートファクトリー構想の実現に向けた取り組みを進めています。そして、同じく現在進行中なのがデータサイエンティストの育成と、彼らを中軸に置いたマルチスキルチームという組織の拡充です。

 世界各地の現場、拠点、バリューチェーンで、一貫したデータドリブンによるビジネストランスフォーメーションを進めていくためには、明確な専門性を持って役割を果たせる人材と彼らが一体になって動けるチームが必要だということです。データサイエンティストは、獲得した多様なデータから価値を創造。デザインシンキング・ファシリテイターはインサイトをもたらすワークショップ等を牽引。ソリューション・アーキテクトは提供するソリューション全体の構築。ソフトウエア・デベロッパーはアジャイルにアイデアを具現化……というように、マルチなスキルの持ち主でチームを編成し、ビジネストランスフォーメーションをより一層加速するべく動き始めたところです。ブリヂストンは今後もどんどん変革を実行し、新たな時代に相応しい差別化を実施していきます。

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