敵地3連戦のJ1参入プレーオフ、専用スタジアムで示した存在感

 東京ヴェルディサポーターの応援の迫力に驚いた。通常のリーグを戦う味の素スタジアムの収容は、J2では群を抜く4万8999人。ところが今年のホーム平均観客動員数はJ2で13位の5936人に止まっており、同リーグで戦う2009年以降は5000~6000人台で推移してきた。さらに同スタジアムの記者席が、正面から見て右寄りに設計されていることもあり、遠い方のゴール裏に陣取る東京Vの応援がホームでも劣勢に感じられることも少なくなかった。

 だがJ1参入プレーオフが行われたNACK5スタジアム大宮ニッパツ三ツ沢球技場、ヤマハスタジアムは、いずれもサッカー専用のコンパクトなスタジアム。J2で6位の東京Vにとってはアウェー3連戦となったが、逆にサポーターの存在感は増した印象だった。

 そしてこの熱気に後押しされ、東京Vは予想以上にJ1に肉薄した。大宮戦では序盤から主導権を握り、退場者を出しながら決勝ゴールを奪い取った。さらに横浜FC戦でも何度かピンチを凌ぎ、後半アディショナルタイム6分に決勝ゴールを挙げた。故障者が連鎖し厳しい状況下でアウェー戦を連勝したわけで、奇跡的な快進撃にベンチでは涙を浮かべるスタッフもいた。

 実際にスペインからやって来たミゲルアンヘル・ロティーナ監督の2年間の仕事ぶりは水際立っていた。着任前年の2016シーズンの東京Vの成績は18位で、内訳は43得点61失点だったが、昨年は64得点49失点とほぼ逆転させて5位で昇格プレーオフに進んだ。今年は56得点41失点で順位を一つ落としたが、開幕前に安西幸輝(鹿島アントラーズ)、安在和樹(サガン鳥栖)、高木善朗(アルビレックス新潟)、さらにシーズン途中にも畠中槙之輔(横浜F・マリノス)と立て続けに主力が移籍していった事情を考えれば、十分に称賛に値する。

発展途上のJリーグで練習非公開を貫けるのか

 だが残念ながら、こうしたロティーナ監督の指導ぶりは、まったく外部には公開されなかった。実は大学を指導していた知人も見学を熱望していたのだが、現場スタッフの意向で叶わなかった。もちろん欧州の現状では、それが当然の姿勢なのだろう。観客動員は約束され、だからこそスタッフは情報漏れを防ぎ、選手を管理下に置き試合に集中させようとする。

 しかしそれに比べれば、Jリーグは依然として発展途上だ。プレーオフを終えて磐田の名波浩監督が語ったように、少なくともまだ「見せることがプロの価値」という意識は重要で、ファンを開拓していく努力が要る。まして選手育成には長けても集客が伸び悩む東京Vの立ち位置を考えれば、本来ならもっとファンとの距離を縮め、また層を広げていく施策は欠かせない。それは奇しくも、かつて同じように川崎をホームタウンとしたフロンターレの成功が物語っている。

 ロティーナ招聘が決定的と報じられるセレッソ大阪だが、その選択はおそらくピッチ上だけを考えれば正解だろう。だが女性ファンの占める比率の高いクラブで、練習非公開を貫けるのか。またそれが得策なのかは、重要な検討課題になるかもしれない。(加部 究 / Kiwamu Kabe)

東京Vを率いるロティーナ監督【写真:Getty Images】