看護師maroke/iStock/Getty Images Plus/写真はイメージです)

人の命を預かる病院。24時間体制での交替勤務が求められ、激務であろうことは誰しも想像がつくだろう。とはいえ、その勤務環境のブラックぶりは、いかほどのものなのだろうか。

残業の証拠を自動で残せるスマホアプリ「残業証拠レコーダー」を提供する日本リーガルネットワークに寄せられた、ブラック病院エピソードを紹介しよう。

 

■介護士不在で幅広い業務

げぴまるさんは、新卒の看護師として、とある病院に勤務していた。

「私が働いていた病院は全国的にも名の知れた病院でした。しかしその実態はサービス残業過多の労働者の犠牲によって成り立っているものだったのです。

 

まず人手不足が顕著のため、働く人はみな残業を強いられます。前残業1時間、後残業3時間など普通でした」

 

患者さんの世話を手伝ってくれる介護士がいなかったため、看護師の仕事が幅広かったという。

「食事介助や清潔介助、入退院の説明、パソコン処理、研修、患者さんの移送、家族への説明、家族と医師の橋渡し、手術前後の処置、内服管理など全てを看護師が担います。

 

とくに食事介助は17時30分が終了時間なのに17時00分から3人の患者さんの食事介助を行うのです。1人食べ終わるのも時間がかかるのに3人いる時点で、残業決定です。

 

手伝ってもらえる余裕があれば良いのですが、他の業務で皆が出払っている場合は一人でこなします。待っている患者さんからは当然お叱りを受けます。でも人がいないから、無理なのです」

 

■「忙しいのはできないから」

構造的に残業が増えがちな職場ではあったが、その残業はすべてサービス残業というブラックぶりだ。

「毎日前残業含めて3~4時間働いても、全てサービス残業となるのです。そして極めつけは上の人間の人間性のなさです。年に一度、看護部長が講演をします。そこでの発言を今でも覚えています。

 

『忙しい、はできない看護師が言うことです』

 

忙しいのはこの病院が人を雇おうとしない、人が働きやすいと思える環境を作らないためどんどん人が辞めていくためなのです。それを看護師のトップが『忙しいと思うのはできない看護師だから』などと言うのです。

 

こんな環境なら皆辞めていきます。だって看護師の気持ちを一番わかってくれるはずの、看護師のトップが、人手不足という問題から目を背けているのですから」

■病院は「黒字」をアピールするが

スタッフに過度な負担を強いることによって、病院は黒字経営を誇っていた。

人手不足で最小限の人数で回しているため、黒字回復していることに対して『これは私たちのしてきたことが間違っていなかったということです』と話します。人を減らして、入院患者を増やし、業務量を増やすのですから黒字回復はするでしょう。

 

こんな風にしか考えられない病院に期待するのは無理ではないでしょうか。人道を唄うこの病院で、働く人には人道が適応されないのです。こんな病院やめてよかった。どこに勤めても少なくともこよりはマシと思えるからです」

 

■弁護士の見解は

早野述久弁護士

人の命を預かるだけに、厳しさは想像できたとしても、身につまされる医療現場のブラック労働ぶり。法的には、どんな問題があるのだろうか。鎧橋綜合法律事務所の早野述久弁護士に聞いてみた。

早野弁護士: わたしたちが、日ごろ、安心して医療サービスを享受できるのは、医療現場を支える看護師さんの努力のおかげと言っても過言ではありません。

 

しかしながら、現実的には、過酷な労働環境によって、看護師さん自身が健康を損なうケースがあることをしばしば耳にします。げぴまるさんのお話は、こうした実情を如実に語っているものといえるでしょう。

■長時間労働による健康上のリスク

早野弁護士: げぴまるさんのお話によると、毎日3~4時間ものサービス残業が生じていたようですが、ここには長時間労働により健康を損なうリスクが高まる問題が潜みます。

 

健康を損なうもとしては、身体疾患(脳梗塞や心臓麻痺など)の例や、ストレスによる精神疾患うつ病統合失調症など)の例が挙げられます。 このようなリスクを測る基準として、一般に「過労死ライン」と呼ばれるものがあります。

 

この基準によると、月の残業時間の平均が80時間を超過する状態が2~6か月継続すると、リスクが高まるとされています(厚生労働省策定「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について」(平成13年12月12日基発1063号))。

 

げぴまるさんの場合は、毎日3~4時間の残業とのお話から、月に66~88時間の残業をしていたものと予想され、健康を害するリスクが相当程度高まっていたのではないかと推測されます。

 

病院は、従業員である看護師に対して安全配慮義務を負っていることから(労働契約法5条、労働安全衛生法3条1項)、げぴまるさんの業務量を調整する等して、過重労働とならないように配慮すべきであったと言えます。

 

■残業代の未払いについて

早野弁護士: げぴまるさんによると、この病院では残業はすべて「サービス残業」とのことです。基本給に固定残業代が組み込まれているなどの事情がない限り、残業代が未払いとなっている可能性が高いでしょう。

 

残業代は過去2年分まで遡って請求することができますので、退職してから2年経過していない場合は、今からでも請求可能です。

 

また、日本看護協会によると、一部の医療機関では36協定(労基法36条)を看護師と結んでいない場合もあるとのことですので、げぴまるさんの病院でも36協定が締結されていない可能性があります。この場合は、従業員に残業させること自体が違法となります(労基法32条1項)。

 

なお、日本リーガルネットワークは、今月31日まで、新たに「ブラック企業エピソード」を募集している。

・合わせて読みたい→「肺炎でも食中毒でも出勤しろ」 ブラック企業が強要する恐るべき「洗脳」の実態とは

(取材・文/しらべぇ編集部・タカハシマコト 取材協力/日本リーガルネットワーク

どれだけ働いてもすべてサービス残業 ブラック病院に苦しむ看護師の悲鳴