テレビや本でお馴染みの作曲家、青島広志。彼の軽妙でユーモア溢れる解説と、シアター オーケストラ トーキョーとの息の合った演奏で、毎回、人気のコンサート『世界まるごとクラシック』が今年11年目を迎えた。今年は、『世界まるごとクラシック2018~この先10年よろしくお願いします』と題され、東京公演が11月23日(祝)、東京国際フォーラムホールAで行われた。クラシック音楽の醍醐味を余すことなく堪能できるように選ばれた、バラエティーに富む名曲の数々を気軽に楽しめる。来年2月には、大阪と名古屋での公演を控えている。

楽しいトークと名曲の調べ

さわやかな秋晴れに恵まれた会場には、開演前から多くの観客が詰めかけていた。小さな子ども連れの家族から年配の方まで、世代、性別を問わない幅広い層からの人気を集める。中には、10年前から通い続ける熱烈なリピーターもいると聞いた。

開演のベルが鳴り、シアター オーケストラ トーキョーの楽員、そして青島が颯爽と登場。舞台の両サイドに設置された大型スクリーンを通して、青島や演奏家の表情を見られるのも、このコンサートの魅力である。

指揮:青島広志

指揮:青島広志

コンサートの最初を飾ったのは、”ワルツ王“と称えられたオーストリアの作曲家、ヨハン・シュトラウス2世の代表作、ポルカ「雷鳴と稲妻」である。2拍子の軽快なリズムに、聴衆も笑顔で手拍子を送る。ウィーンの社交界がもつ気品と華やかさが漂いつつも、会場には一体感が生まれた。

二曲目は、マスカーニの歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』より「間奏曲」。嬉さと楽しさが溢れるポルカから一変した曲調に、空気が一変した。青島は、『カヴァレリア・ルスティカーナ』の元となった、シチリアの村で起こった実話などを、時の笑いを取りつつ楽しく解説した。「間奏曲」は、この歌劇の最も有名な曲で、美しく甘美なメロディが聞くものに感動を与える。清澄な出だしから、温かさとおおらかさを備えた中間部を経て、祈りにも似たラストへといたる曲が観客の心に響いた。

そして、待望のベートーヴェン交響曲第5番「運命」である。今回は、第一楽章と第四楽章が演奏された。第一楽章は、あまりに有名なジャジャジャジャーンという冒頭のテーマに始まり、その変奏が展開される。ベートーヴェンが人生の中で経験した貧困や別れ、病といった苦難が色濃く刻まれた一曲である。演奏中、スクリーンには、青島が描いたというベートーヴェンの厳しい表情のイラストが映写され、赤を基調とした照明によって舞台上に苦難が表現された。一方の第四楽章は、苦難を乗り越えた先にある”精神性“を力強く表現したもの。ベートーヴェンの精神が聴くものの心に迫る。続く、四曲目に披露されたのはベートーヴェンと同じくドイツが誇る作曲家、ワーグナーの歌劇『タンホイザー』より「大行進曲」であった。ここでは、舞台上のオーケストラとは少し離れた場所で“バンダ“が華麗なファンファーレを奏でるなど、立体感のある演奏が光っていた。

紀平凱成特別出演、オペラからバレエ、そして祝砲が鳴り響くフィナーレへ

休憩を終え、コンサート後半が始まった。最初にスペシャルゲストとして招かれた紀平凱成(きひら かいる)のソロ演奏。“17歳の異才ピアニスト“として注目を集める紀平の演奏は、このコンサートハイライトのひとつでもある。演奏されたのは、ウクライナの作曲家・ピアニスト、ニコライ・カプースチンの「変奏曲」と「冗談」。高度な演奏技巧が求められるヴィルトゥオーゾ(イタリア語で音楽の名手の意)的作品だが、それをさらりと弾きこなす紀平に観客は驚かされた。ジャズとクラッシックの語法が融合され、装飾が凝らされた楽想をもつ両曲に、「カプースチンは大好きな作曲家」と語るピュアな感性をもつ紀平の演奏が冴えた。繊細さと大胆さを兼ね備えた好演に対して温かい拍手が巻き起こった。

紀平凱成

紀平凱成

紀平の演奏後は、文豪スタンダールが絶賛し、ワーグナーに崇拝されたイタリアの作曲家ロッシーニが作り上げた『セビリアの理髪師』の序曲。スクリーンに各ソリストの豊かな表情が映し出されつつ、ロッシーニらしい粋な名曲が、軽やかで躍動感あふれる演奏で好演された。

次いで、ドビュッシーの『小組曲』から「小舟にて」と「バレエ」、ルロイ・アンダーソンの『舞踏会の美女』、チャイコフスキーバレエくるみ割り人形』から「花のワルツ」が演奏された。「小舟にて」と「バレエ」は今年がドビュッシー没後100年であることから取り上げられた作品で、青島は両作品を印象派の絵画との関係を交えて解説した。フルートが紡ぐ、繊細で魅惑的な旋律に観客は身を委ねていた。今回、唯一のアメリカ作品となった『舞踏会の美女』は、美女が舞踏会で踊っている姿をイメージして作られた米国シンフォニックポップスを代表する一曲。また、『くるみ割り人形』から「花のワルツ」は、熊川哲也率いるKバレエカンパニーの専属オーケストラであるシアター オーケストラ トーキョーにとっては十八番中の十八番である。愉しく優雅な舞踏会の空気が、会場に華やかな風となって運ばれた。

指揮:青島広志

指揮:青島広志

気がつけば、コンサートも最後の一曲を残すのみ。青島がプログラムの最後に選んだのは、チャイコフスキーの大序曲「1812年」である。モスクワを占領したナポレオン軍に抗うロシア軍の戦いと勝利を描いたスペクタクル音楽で、スクリーンには、青島が描いた情景のイラストが映し出された。勝利の鐘、そして祝砲が鳴り響くクライマックス。豪華絢爛で、迫力ある演奏に会場の熱気も最高潮に達した。

鳴り止まぬ拍手に応えたアンコールでは、ヨハン=シュトラウス「ラデツキー行進曲」が演奏された。青島自ら客席へ降り、観客と共に手を叩き、会場を盛り上げた。演奏家と観客がまさに一体になった瞬間であった。

終演後、多くの観客が青島のサインを求めて長い列を作った。中でも、公演を満喫したたくさんの子ども達、一人ひとりと笑顔で会話する青島の姿が印象に残った。『世界まるごとクラシック』は、2019年2月に、大阪(フェスティバルホール)と名古屋名古屋国際会議場 センチュリーホール)の2都市を巡る。クラシック音楽の醍醐味を味わい尽くす、ちょっと「欲張り」で気軽なコンサートに、足を運んでいただきたい。

取材・文=大野 はな恵 撮影=岡崎 雄昌