「性別関係なく、人間同士でいられる相手がいるとしたら、貴重じゃないですか。……うん。壊すには惜しい」

こんなこと言ってたのに! やっぱりあんなことになっちゃうのね……。野木亜紀子脚本の水曜ドラマ『『獣になれない私たち』。5人のダメな男女が交錯しながら恋愛や仕事に四苦八苦する“ラブかもしれないストーリー”もついに今夜最終回。

冒頭の言葉は、恒星(松田龍平)が晶(新垣結衣)との関係について語ったもの。晶も恒星について「一緒にいて楽だよ。いろんなこと話せて、頑張らなくていい」と話していた。なるほど、“ラブかもしれないストーリー”の着地点はここなのか、と思っていたのだが……。

時間がちっとも進まないドラマ
先週放送の第9話は、第8話で晶と恒星が夜明けまでゲームをした翌朝から始まる。このドラマ、ほとんど時間を飛ばさない。このあたりはなかなか物事が前に進まないリアルさを意図したものだろう。びゅんびゅんと時間がすっ飛ぶ1話完結ものを見慣れた視聴者に、あえてこういうスタイルを提示している。

朝、一緒にコーヒーを飲みに行くふたりの雰囲気がとても良い。喫茶店に入るとき、背中に手をまわすのは晶のほう。恒星の口についたジャムを見て笑う。まるで夫婦みたいだ。このカフェは雑司が谷のキアズマ珈琲。

「電車のホームはもう怖くない?」と問いかける恒星に、「また怖くなったら、そう言ってもいい?」と応える晶。あのときは誰にも辛さを打ち明けることができなかった。今はそういう相手がいる。晶も心の奥底にある言葉を言えるようになった。

「恒星さんも言ってね、聞くから」

いい関係だなぁ、と思う。その前提にはふたりで夜明かししたのに指一本触れ合わなかった事実がある。

女たちの友情と男女の友情
晶と同じ会社で働くようになった朱里(黒木華)だが、京谷(田中圭)のマンションで京谷の母、千春(田中美佐子)が鉢合わせ! 京谷、母親に何も言ってなかったんかい。

ついに「5tap」で晶と朱里と千春が一堂に会する。言葉では説明されなかったが、京谷との別れも伝えたはずだ。「育て方間違えちゃったかしら」と頭を抱える千春に、「私もちゃんと自分の気持ちを言えてなかった」と反省する晶。京谷と付き合っている頃、彼女は思ったことを何も言えなかった。そこへ朱里が口を開く。

「京谷さんの育て方、間違えたとか、それは……。それだと、私を助けたのも、私が今生きてるのも、間違いになっちゃうので、それは……」

自暴自棄のままネットの海に沈み、他人を恨んだり妬んだりすることしかしていなかった朱里が、ものすごく控えめに自分の存在を肯定した瞬間だった。

「朱里さんが生きてて良かった。本当に、生きてて良かった」という晶の言葉をきっかけに3人で涙を流し、すっかり仲良くなる。ダメな男を介して、女3人の友情と連帯が生まれたようだ。

一方、離れたところでそれを不思議そうに眺める京谷は、あくまでも晶とは飲み友達だと言う恒星と男女の友情について語り合う。

「男女の友情って俺、信じてなくて」
「俺も」
「ん?」

そこから冒頭に記した恒星の言葉につながっていく。一方、晶も朱里と男女の関係について語り合っていた。

「相手を都合よく使わず、自分を見失わなずにいるにはどうすればいいんだろ」
「恋愛って、自分を見失うものなんじゃないの?」
「だったら恋愛はいらないや。相手にすがって、嫌われないように振る舞って、自分のことが消えていって、相手のこともわからなくなる。そんなの嫌だ。繰り返したくない」

恋愛がなくても生きていけるんじゃないかと晶は考えはじめている。女友達と一緒に泊まったり、会社の同僚と仕事の喜びを分かち合ったり、女同士でハグしたり、飲み友達と夜通しゲームをして朝ごはんを食べたり、本当に辛いときは話を聞いてくれたり。

「そういうひとつひとつを大事にしていったら、生きていけるんじゃないかな? ひとりじゃない

視聴者を気持ちよくしてくれないドラマ
ゆったりとそれぞれが新しい生活を歩み始めたように見える「けもなれ」だったが、スタッフたちは視聴者を良い気持ちのままでいさせてはくれない。社長秘書になった朱里が九十九(山内圭哉)のパワハラの雨嵐を食らうのだ。朱里が意外にもネットゲームで培ったスキルでバリバリ仕事をこなしてしまう! ……なんて展開があれば視聴者もスカッとするのだろうが、そんなことはありえない。

そして致命的なミスを犯してしまう朱里。いや、致命的なほどではない。実際、社長がおわびに行って済んでいた。誰だってミスはある。だけど、九十九はそれを許さない。許すこともあるかもしれないが、許さない雰囲気が常にある。朱里はそのまま姿を消してしまった。

会社で部下たちに聞こえるように大声で朱里を罵る九十九に対して、ついに晶が反論する。九十九の大声に低い普通の声で対抗するのがこのドラマらしい。大声に大声で返すだけでは、単なる態度の悪さの争いになってしまうからだ。

「目の前で誰かが怒鳴られても誰も助けない。これが平和ですか。みんなにそうさせてるのは社長です。普通はしないミスをさせたのも社長です。こんな会社でどうやって働けっていうんですか!」

ここでみんなが一斉に立ち上がって辞表を叩きつけたり、九十九をやりこめればスカッとするのだが、そうはならない。

「ほな、やめたらええ。さっさとやめい。今すぐやめい!」

九十九に存在を全否定された晶は小声で謝って立ち去る。彼女には自分の言うことなら社長も聞いてくれるという自負があったのかもしれない。だが、それは脆くも崩れ去った。こんな目に遭ったら、少なくともおれだったら用意してあった辞表を出すな……。

一方、恒星も粉飾決算の手助けをするかどうかで頭を悩ませていた。「一度始めた悪事は続けるしかない」と言っていたものの、大企業での不正を告発しようとしたもの逆に追放された大熊(難波圭一)の姿を見て、何か感じるものがあったようだ。作成した書類を破り、不正を要求するクライアントに「勘弁してください」と訴えるが、圧力をかけられて押し切られてしまう。

恒星の事務所にやってくる晶。ふたりとも吠えようとしても吠え返されて、小さくなってしまう私たち。弱くて、ダメで、獣になれない私たち。ふたりはそのままキスして、身体を重ねる。

一番大切だった人間関係だったはずなのに、違う意味で関係を持ってしまった。じゃ、ここから男女の友情は成立するのか? 晶、恒星、朱里たちの未来はどうなるのか? 劇的にスカッとする展開はないだろうけど、新しい何かを見せてくれることに期待して最終回の放送を待ちたい。今夜10時から。
(大山くまお

「獣になれない私たち」
水曜22:00~22:54 日本テレビ系
キャスト:新垣結衣松田龍平田中圭黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
音楽:平野義久(ナチュラルナイン
主題歌:あいみょん「今夜このまま」
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治(ケイファクトリー)
制作著作:日本テレビ

イラスト/まつもとりえこ