アニメ『BANANA FISH』（→公式サイト）。
「第22話 死の床に横たわりて」が今日12月6日(木)25:05より、フジテレビ”ノイタミナ”ほかで放送。Amazon Prime Videoで毎話フジテレビ放送開始１時間後より配信予定。
効果的な拷問
ジェシカ「あなたどうしてそんなに冷静でいられるの？私立ち直るのに半年かかったのよ……」
アッシュ「そんなにかかってたら俺はとっくに死んでる」
この作品で最も悲惨な暴力行為として描かれているのが、レイプだ。
マックスの妻であるジェシカは、８話で男たちに襲われた。アニメでは言っていないが、原作ではレイプされたと告白している。女性向けの男性ポルノを売って生計を立てるくらいタフであっけらかんとした彼女だが、登場しなかった半年の間、心を壊していたことがここで判明する。
アッシュは幼少期に地元で襲われ、以降ずっと性的な虐待を成人たちから受けている。
８歳で始めて人を殺したのも、それが原因だ。相手を訴えても、もみ消されるどころか、子供のアッシュが悪かったとまで言われる始末。
その後も、ポルノムービーを撮られ、男娼として生きていかざるを得なくなってしまった。
アニメ２１話では、これらの性的虐待が大きなトラウマになっていることが強調され、フラッシュバックの様子も描かれた。
銃にもナイフにも立ち向かうアッシュだが、レイプには怯える。
フォックス「君に単純な暴力が通用しないことは、よく分かっているよ。君がムッシュから逃れようとするのは、かつて彼の愛玩物だったからだ。彼の元に戻れば支配されてしまうのが、分かっているんだろう？」
アッシュは１８話で、ディノが性的にズタボロにすると脅しても、エイジを守るためならと歯向かってきていた。
しかし実際は、フォックスの言うように、アッシュの性的な暴力への恐怖感は尋常じゃなく強い。
立ち向かえるか否かではなく、幼い時の暴力がすっかり刷り込まれて拒絶している。
フォックス「君は足がすくみ、動けなくなってしまう。その呪縛から未だ逃れられない」
原作で兵士の１人が言う「拷問にレイプが効果的なのは死なない割にダメージがでかいことさ」というセリフが印象的。
男たちは性的に満足したいから襲うのではなく、相手を屈服させるために、暴力として意図的に犯している。
今回のフォックスと兵士はもとより、３話の刑務所の囚人たちが彼を襲ったのも、力関係のマウントを取る意味がありそうだ。
暴行を受けた後、仲間のケインが彼に触れた時のビクッと怯える。彼の受けた乱暴を感じさせてゾクリとする。
その後、エイジが彼を静かに抱きしめる。平和ボケな部分があるエイジでも、察したのだろう。
エイジには触れられても大丈夫だったアッシュ。いかに心を許しているかが見られるやりとりだ。
性が幸せなものとは限らない、不条理に奪われる性が存在する、と描いているのが「BANANA FISH」という作品。作中でアッシュは、一度も性的に幸福が満たされていない。
アニメでも原作同様、性的な虐待問題を「暴力」として、曲げることも隠すことも無くがっちりと描き続けてきた部分に、スタッフの意思が見られる。
人種間問題
中国人ギャングのラオの発言はインパクトがあった。
ラオ「カッコつけんな。白人にあごで使われてるくせに」
黒人ギャングのケインに向けてのセリフだ。当然黒人たちは逆上してしまう。
今集結しているのは、黒人グループ（ケインたち）、中国人グループ（シンやラオたち）、そしてアッシュのグループだ。
アッシュは白人。とはいえ彼のグループは白人だけではなく、人種問わず束ねている。アッシュがかわいがっていて、最初に殺された黒人の少年スキップは、年齢人種を問わないメンバーの代表的存在だ。
ケインもシンも、さほど人種の違いにはこだわっていない。ただ昔からある血のしがらみが、ここで見えてしまう。
中でも一番きつい立場にいるのがシンだ。
彼はチャイニーズギャングのボス。アッシュの能力がずば抜けていることを高く評価し、彼こそがダウンタウンを仕切るリーダーであるべきだ、とカリスマ性を見出している。
ところが中国人の間では「アッシュはショーターを殺した」と囁かれ続けている。仲間を殺した相手は、敵だ。
シンは、ショーターを殺さざるを得なかった理由を知っている。
中国人としての民族意識と、アッシュへの自分の感情で、板挟み。幼い少年には荷が重すぎる。
当事者にしかわからないのが、民族の、そしてグループの問題だ。
今回のラスト、エイジを撃った中国人ギャングが、怒り狂ったアッシュに射殺される。
一度撃ち殺した後に、死体を撃ち続けるほどだ（ここまでのオーバーキルは、ショーターを弄んだ科学者を殺した時以来）。
いくら襲ったのが中国人側だとしても、アッシュが殺したのは事実。さらに民族間問題はこじれていく。
ものすごいトラブルメーカーになっているように見える、中国人グループのラオ。
ただ、彼は利己的なわけではなく、シンのことが本当に大好きで、彼のために行動している、というのだけは今後押さえておきたいところ。
（たまごまご）
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