デジタル分野で最近大きく注目されているのがイスラエルだ。人口約870万人、四国ほどの小さな面積の国に、デジタル分野を中心としたスタートアップ(ベンチャー企業)約2万5000社がひしめき、「第二のシリコンバレー」と呼ばれるほどだ。

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 なぜイスラエルが注目されるのか。イスラエルに行って現地で見聞きしたことをもとに、その要因を探った。

 CDO Club Globalは、組織の中でデジタル/データ戦略をリードするCDO(Chief Digital/Data Officer)を集めた世界で唯一の会員制コミュニティである。筆者の所属するCDO Club Japanはそのパートナー組織だが、イスラエルにもCDO Club Israelがある。今回、同団体が主催するイベント「CDO Club Israel Summit」にあわせて、2018年11月、筆者はイスラエルを訪れた。

日本と異なりスタートアップの割合が多い

 CDOサミットはCDO Clubが主催して世界各地で開催するイベントで、日本ではCDO Club Japanが「CDO Summit Tokyo」を開催している。

 今回イスラエルで開催されたCDOサミットを日本のCDOサミットと比べた最大の違いは、スタートアップからの参加者の割合がかなり多いことだった。

 イスラエルのCDOサミットの参加者は約500人。この中で実際にCDOの肩書きを持つ人は数人、企業で部長などを務める人が3分の1ほど。そして残りの出席者がスタートアップの創立者かそこで働く人たちだったのだ。さらに、講演者も多くがスタートアップからだった。

 一方東京でのCDOサミットはこれまでに4回開催しており、毎回の参加者は約200人。ただ、大手企業の部長クラス以上が多く、スタートアップからの参加者はほとんど見受けられない。両国のビジネス環境の違いが端的に表れていると言える。

 今回のCDOサミットでは筆者も講演を行い、日本が抱えている社会課題、国内企業のデジタルトランスフォーメーションの現状などを紹介した。また、イスラエルのスタートアップと日本企業との連携を促進するための「イスラエル日本イノベーションプラットフォーム」を設立することを表明した。

テレビ企業から航空会社CDOにヘッドハント

 イスラエル訪問にあわせ、イスラエルのCDOにインタビューする機会を得た。イスラエルの国営航空会社であるエル・アル・イスラエル航空(EL AL Israel Airlines)でChief Data Officerを務めるイド・ビガー氏である。同氏はBI(ビジネスインテリジェンス)&Data部門、データサイエンスチーム、分析ユニットで構成されているデータ部門を統括している。

 同氏は今年(2018年)8月にCDOを務めていたテレビ企業からヘッドハントされた。イスラエルでも欧米と同様、異なる業界からCDOがヘッドハントされることは珍しいことではないようだ。「豊富なビジネス経験とCDOに必要なテクノロジーのバックグラウンドがあれば、これまでとは全く異なる業界のCDOとして活躍できる」とビガー氏は語る。

「CDOとして働くためには、ITとBIの2つのバックグラウンドに秀でている必要がある。どちらかに偏っていては難しく、強いITやデータ管理のバックグラウンドと、豊富なビジネス経験を兼ね備えていることが大きなアドバンテージになる」(ビガー氏)。

 3カ月前に就任したビガー氏が最初にしたことは、社風や企業の課題を把握するために、積極的にさまざまなスタッフと話すことだったという。通路や駐車場、カフェテリアで会った社員に「どういう仕事しているの?」「何か困ったことある?」と笑顔で話しかけていた姿が大変印象的であった。

 ビガー氏は、イスラエルにスタートアップが多い理由についても聞かせてくれた。「イスラエルは紛争の解消に努め、日々トラブルの回避と戦っているという点で世界の中で最も秀でていると言ってもいい。他国が経験していないような、インテリジェンス機関や軍隊での経験やノウハウ、知識がベースになっていることも一つの理由。困難や問題を解消し、解決していくことに全力を注いでいきたいという思いが、新しいアイデアを生み出し、スタートアップにつながっているのかもしれない」という。「イスラエルにおいては失敗を恐れずに、たとえ失敗しても2回、3回と挑戦し続ければいい、というカルチャーがある」。

テルアビブにSOMPOがラボを設置

 イスラエルのテルアビブにはSOMPOホールディングスがSOMPO Digital Labという、提携先の発掘や情報収集の拠点となるラボを設置している。同社のデジタル戦略を担う執行役員CDOの楢﨑浩一氏によると「さまざまな意味で日本とイスラエルは最高の組み合わせ」という(関連記事「SOMPOが目指す「保険の先」、先導役が語る未来」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54402)。サロナという地区にビジネスの中心地として高層ビルが立ち並んでおり、このエリアの中でもひときわ高く、近代的で目を引くビルにオフィスを構えている。

 イスラエルのSOMPO Digital LabのCEOを務めるイノン・ドレヴ氏は、GE Digitalでスタートアップパートナーシッププログラムをリードしていたが、楢崎氏によってヘッドハントされた。新しいビジネスモデルの創出のため、1週間に10社ほどのスタートアップに会い、SOMPOの新規事業を生み出す源泉となるサービスの卵を探しているという。

 経済的にここまで成長し、新しいアイデアの源泉を求めて世界中から大手企業や投資家が集まっているイスラエル。人口が少なく資源に乏しい国が生き残るために生み出した、知識とイノベーションを強力な資源として世界に進出していく戦略を実感した。

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