産後の生活をどのように過ごしたらいいか、妊娠中からイメージするのはなかなか難しいものですが、出産がゴールではありません。スムーズな産後を過ごすために、妊娠中から産後の生活をイメージしながら先の見通しをつけておきましょう。



入院中:産後の生活の始まりから1週間まで

病産院で出産した場合を例にみていきましょう。 入院期間は病産院によって異なりますし、経膣分娩か帝王切開かといった出産の方法や、初産か経産かによっても変わりますが、平均すると4~7日程度です。 出産で疲れた身体をしっかりと休めながら体調を整えて、赤ちゃんのお世話に慣れていくための大切な期間となります。 経膣分娩後における出産後~退院までの一般的なスケジュールの一例を簡単に紹介します。



<出産当日>


・出産~帰室まで 通常、出産直後から2時間までは分娩室で休む。出血量や血圧、子宮の収縮や会陰切開部など全身状態のチェックを受けた後、状況によって歩行または車椅子で帰室します。経過に問題がなければ、食事をしたりトイレに行ったり休んだり自由に過ごします。 ・初回授乳 出産後、1時間以内に分娩台の上で初回授乳する施設も増えています。 ・赤ちゃんの診察 生後24時間は赤ちゃんにとって子宮外の環境に適応していくための重要な時間です。医師による診察や助産師による観察がまめに行われます。 ビタミンK2シロップの投与(入院中2回) ビタミンK欠乏による出血を防ぐために行います。 』




<産後1日目~>


『 ・母と赤ちゃんの全身チェック ・母はシャワー浴(洗髪もOK) ・沐浴 赤ちゃんの体温や呼吸など全身状態が子宮外の環境に慣れて安定するまでは、最近は沐浴せず身体を拭くのみで、退院近くになって沐浴を行う施設が多い ・授乳指導・沐浴指導・退院指導など各種指導 』




<退院近く>


『 ・母の血液検査・尿検査・体重や血圧測定 ・赤ちゃんの黄疸チェック・新生児マススクリーニング・聴力検査 ・医師による内診・退院診察 』




最近では、赤ちゃんとお母さんの経過が問題なければ、お産直後から母子同室でずっと一緒に過ごすことが多くなってきました。赤ちゃんの様子をそばでよくみながらお世話ができるので、早く育児に慣れるメリットがあります。また、母乳育児を希望する場合は、お産直後のなるべく早期に、赤ちゃんがおっぱいを欲しがったときに合わせて継続して授乳したほうがスムーズだということがわかってきました。 とはいえ初めてのお世話は、抱っこでさえどうやったらいいか、これでいいのかと不安になることも多いでしょう。わからないことがあれば、助産師や看護師に声をかけてどんどん訊きながら助けてもらいつつ、少しずつ慣れていくとよいでしょう。もちろん、睡眠不足や体調がよくないときなどは無理せず、一時的に赤ちゃんを預けて休むことを優先することも必要です。入院中の他のお母さんとも話したり、お世話の様子をみたりするのもお世話に慣れていくひとつの方法です。授乳室や食堂など、集まれるようなところがあれば積極的に行ってみましょう。特に、夜中の授乳では「他のママさん達も頑張ってるんだな」と心強く感じたりするものです。



産後1カ月までの産褥期は無理せず夫や家族に協力を

医学的には、妊娠~出産によって変化した身体が妊娠前の状態に戻るまでに、6~8週間かかるといわれます。この期間を産褥期(さんじょくき)と呼びます。この時期に完璧を求めて家事などで無理をすると、出産時の疲れを溜めたままになってしまって免疫力も低下し、かえって心と身体の回復が遅れる原因になります。産褥熱(さんじょくねつ:産道から子宮への細菌感染が原因で高熱が出る)や子宮復古不全(子宮が元の大きさに戻らず、悪露が長く続く)、産後うつや乳腺炎といった異常が起き、いわゆる産後の肥立ちが悪い状態が続くこともあるので注意が必要です。退院後も入院中に引き続き、身体を休めながら体調を整えつつ、少しずつ育児に慣れていきましょう。



家事など、夫や家族の理解・サポートが重要

産後の肥立ちを良くするためには、特に退院後~産後2週目までは、赤ちゃんのお世話に専念し、できる限り睡眠時間を確保することが大事です。家事や赤ちゃんの沐浴は夫や家族などに協力をしてもらい、自分はいつでも休めるよう布団は敷きっぱなしにしておきましょう。出産前から、退院後からすぐ使用できるように準備しておきましょう。赤ちゃんと自分が横になって休める場所を確保し、おむつ交換の一連の流れなどお世話の導線も考えて、育児グッズもセッティングしておきます。 家族にサポートしてもらうことが難しい場合には、産後に利用するサービスを、妊娠中のうちに探して手配しておくようにしましょう。掃除や洗濯、料理などの家事代行サービスでヘルパーさんを依頼したり、産後ケアサービスで助産師などのサポートを受ける相談をしたりしておきましょう。買い物は生協などの宅配サービスやネットスーパーを利用したりするのも、日常生活を楽に過ごすポイントのひとつです。



二人目、三人目の場合でも無理は禁物

2人目や3人目だと、上の子のお世話などでついつい動いてしまいがちですが、無理は禁物です。夫の協力と理解を求めることはもちろん、上の子の保育園や幼稚園の送迎をママ友にお願いしておくことや、自治体のファミリーサポートなどのサービスを利用することなども検討しておきましょう。 そのほか、産後の肥立ちを良くするためのポイントを紹介します。




〇入浴は控えてシャワー浴にする 会陰部や産道の傷口や子宮内の感染を防ぐために入浴はせず、シャワーで清潔にします。冬場で冷えるときには足湯がおすすめ。ストレスも和らぎ、リラックス効果も期待できます。基本的に、1ヶ月健診で問題なければ湯船に入ることができます。 〇栄養バランスのよい食事を3食摂る なるべくいろいろな食品を毎日バランスよく摂るよう意識しましょう。育児をしていると生活リズムが乱れて食事のタイミングを逃しがちですが、身体の回復や母乳のためにもしっかり3食摂ります。産後に貧血を指摘される人も多いので、鉄分やミネラル、母乳で不足しがちなカルシウム、エネルギー源としてのたんぱく質などは積極的に摂取したい栄養素です。 』




産後3週目からは体調をみながら、例えば自分の食器だけ片付ける、洗濯物をたたむなど、短時間で出来て身体に負担の少ない家事など行いつつ「床上げ」をしていきます。回復には個人差があるので無理せず、少しずつできることを増やしていきましょう。1ヶ月健診で問題なければ、普段の生活に戻していきます。 なお、産後の性生活を再開する目安としては、1ヶ月健診で問題がないこと、産後6~8週頃までに悪露や産道~会陰切開部の痛みがないことを確認してからにしましょう。



里帰り出産の場合の産後の過ごし方

育児に専念できるのは大きなメリット 実家などに里帰りする場合、家族の協力が得られやすく、子育てに専念できることは大きなメリットといえるでしょう。 親族の対応などは家族に協力を依頼 ただ、産後すぐに親戚などの出入りが多かったりすると、睡眠時間が確保しづらいこともあります。授乳のタイミングを逃して、あとから胸が張って痛みが出たりする乳房トラブルにつながる可能性も否定できません。あまり長時間の対応にならないよう、事前に家族に協力を依頼しておきましょう。

帝王切開の産後の過ごし方・注意点

後陣痛と傷口の痛みが残る 術後数日は、お腹の傷と後陣痛が相まって動くとつらいことはありますが、徐々によくなっていきます。個人差がありますが、おおよそ2週間ほどで痛みはだいぶ気にならなくなる人が多いようです。必要な場合には、退院前に抜糸します。退院後に傷から出血する、傷口がジュクジュクしている、腫れてくるといった症状がある場合には、出産施設に必ず相談し、受診してみてもらいましょう。 産後1ヶ月くらいまでは安静に 退院後、産後1ヶ月ほどは経膣分娩の人と同じように、睡眠不足に気をつけ、赤ちゃんのお世話を中心に、重いものを無理に持たないようにといったことに注意しながら過ごします。

高齢出産の産後の過ごし方・注意点

最近では、35歳以上で出産を経験するという高齢出産の人も増えてきました。医療処置が必要になるようなリスクを抱えた状態で、産後までを過ごすケースが多いといえます。高齢出産では、妊娠高血圧症候群や切迫流早産、また子宮筋腫などの合併症による帝王切開率が高くなっています。産後、帝王切開の傷や子宮回復の遅れといった不調やトラブルも抱えやすく、疲労も蓄積しやすいため症状が長引くケースもあります。



産後うつなど高齢出産の産後に起こりうる不調

産後のホルモンバランスの劇的な変化に伴って、全産婦の30~50%が、産後3~10日の間に「マタニティブルーズ」という軽い気分の浮き沈みを経験するといわれます。通常、2週間ほどで軽快しますが、中には精神的な気持ちの落ち込みといった症状が重症化し「産後うつ病」に移行することがあります。核家族化が進み、サポートを受けられない人が増えてきているため、誰もが産後うつになり得るリスクはあります。特に高齢出産であると、出産時の身体ダメージや疲労、睡眠不足からの回復の遅れが影響して、産後うつに移行しやすいといわれています。 高齢出産の人は、両親も高齢であることが多く、サポートが得にくいことが特徴です。また、多くは妊娠前まで仕事中心だったために地域や周りとのつながりが薄く、孤立した状態になりやすい傾向があります。そうした状況で育児に孤軍奮闘することになると、余計に不安が大きくなり、精神的にも悪循環に陥りやすいものです。



睡眠不足など自身の体調管理にも注意

産後は無理せず、パートナーをはじめいろいろな人のサポートが受けられるよう、妊娠中のうちに相談や手配をしておきましょう。産後の孤立状況を改善しようと、各自治体や病院、民間団体では、産後の家族に向けてサポートを行う「産後ケア事業」が拡がりをみせています。ぜひ産前からチェックしておきましょう。



2ヶ月を過ぎたら本格的な運動を開始

産後はまず出産による体力の回復に努めますが、少しずつ適度に身体を動かすことで血液循環が良くなり、むくみの改善や血栓予防につながります。 入院中から仰向けで足首の曲げ伸ばしや腹式呼吸などいわゆる産褥体操を取り入れるとよいでしょう。 退院時に主治医に確認の上、体調をみながら、腰を回すフラフープ運動や猫のポーズ、骨盤底筋を締めるケーゲル体操など軽いストレッチをおこないましょう。 本格的な運動は、少なくとも妊娠出産による身体の変化が妊娠前に戻るといわれる産後2ヶ月過ぎから、体調に合わせて行うようにします。



外出はいつからできる?体調と相談して焦らずに

基本的には体調を踏まえて、赤ちゃんもお母さんも1ヶ月健診までは、受診以外の外出は控えます。健診で病院を受診する際には、免疫力も低下していますから、人混みを避けてタクシーの利用や自家用車を家族に出してもらうほうがよいでしょう。 1ヶ月健診後も、いきなり人混みに行くことや長時間の外出は避け、近所を散歩するなど少しずつ慣らしていきましょう。 産後2ヶ月ほどまでは、お産で骨盤が大きく開いた状態が続きますから、下半身も不安定です。買い物などで重い荷物を持つとまだまだ負担になりますから、重いものはパパに頼む、ネットを利用するなど工夫しましょう。



執筆者:青井 梨花(あおい・りか) 助産師・看護師・タッチケアトレーナー。病院や地域の保健センターでの勤務を経て、株式会社 とらうべ 社員。妊娠・出産・育児相談や女性の身体の悩みに関する相談に親身に応じ、赤ちゃんタッチ講師も務める。一児の母。 監修者:株式会社 とらうべ 助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士などの医療職や専門家が在籍し、医師とも提携。医療や健康、妊娠・出産・育児や女性の身体についての記事執筆や、医療監修によって情報の信頼性を確認・検証するサービスを提供。

参考文献・参考URL> 医療情報科学研究所編:病気がみえるvol.10 産科:株式会社メディックメディア 平成29年10月 第3版第8刷



産後の過ごし方はどうすれば?入院中から退院後、外出できるようになるまで