入試に向けてラストスパートを迎え、学習塾が熱気を帯びるこの時期。関東の大手塾講師2人が、過酷な労働環境により労災認定されたことが相次いで報じられた。

11月27日神奈川県の大手学習塾「ステップ」で教室長も務めていた塾講師(40代)は、40連勤の末に適応障害を発症し、労災認定されていた。また、12月7日には、進学塾「栄光」で働いていた男性(当時49)が長時間労働が原因で亡くなったとして、労災認定されていたことも明らかになった。

学習塾業界でなにが起きているのか。都市部を中心に展開する大手学習塾で働いていた元塾講師の小野さん(仮名・32歳)が、弁護士ドットコムの取材に応じた。小野さんも長時間労働でうつ病を発症し、今年7月、横須賀労基署に労災認定された。塾講師のおかれた過酷な労働環境について、話を聞いた。

●最大80連勤、睡眠時間は3時間以下

小野さんは2010年に正社員として採用され、神奈川県内の教室で働いていた。勤務時間は13時から22時となっていたが、実際は10時前後に出社することを推奨され、帰宅は24時をまわることが日常化していたという。小野さんによると、営業や講義の準備などの仕事におわれ、徹夜や1時間睡眠の日がほとんどで、3時間寝られればよい方だった。

教室の生徒数は多いときで、約150人。この人数を正社員2人、学生アルバイト5、6人、パート事務1人でまわしていた。しかも、正社員はどちらかが休んでも補充はない。たとえ1人が入院しても、異動になったとしても、長いこと補充はこなかった。

小野さんは2015年の9月から12月までの80日間、1人で教室を回さざるを得なくなり、休みなく勤務していたという。

仕事の内容は、塾講師として週18から20コマの講義を担当。講義の準備、保護者や生徒の対応にも時間を割かなければいけない。このほか、教室の清掃、費用を払わない保護者への督促も仕事だった。

さらに夜間や早朝には、近隣の住宅へ塾案内のポスティングをするなどの営業も社員に課されていた。営業成績が悪ければ、社長などが集まる会議で糾弾されることになる。

●「生徒のため」名目のサービス残業

「(労働契約上は)火曜日と日曜日・祝日が休みのはずでした。実際は模擬試験などのイベントが多く、休みの日も急に呼び出されることがほとんどで、基本的に休みはありませんでした」(小野さん)

さらに正社員は、休日や24時以降に働くときは「タイムカードをきるな」といわれていたという。そこで、休日はタイムカードをきらず、夜間は24時前に1度タイムカードをきってから、明け方まで仕事をつづけていたそうだ。

「保護者の同意があれば、23時まで生徒の対応をしていました。生徒対応を熱心にすればするほど、ほかの仕事ができなくなり、結果として深夜労働になるジレンマがありました」と小野さんは話す。

●「やめたいけど、やめられない」

小野さんは37度台の微熱や眠れない日々がつづくようになり、2017年11月に精神科を受診。うつ病と診断された。医師には「あきらかに過労が原因、労災がおりるはず。休んだほうがいい」といわれたそうだ。

ところが、小野さんが診断書を会社に持参すると、上司に「(時間外の勤務は)趣味でやっていたことだろう」といわれたという。また、「授業だけはやるように」といわれ、1週間休まず働いた。「休職という選択肢はなく、これ以上はむりだと思いました」(小野さん)

小野さんは2017年12月に退職を希望し、2018年1月に退職した。「正社員、バイトを問わずにやめていく人はたくさんいました」と小野さんは話す。

置き手紙を残して突然いなくなったり、なにも言わずにいなくなる社員も少なくなかったという。また、「本当はやめたくても、次がないと思ってやめられない人もいます」とした。

11月には、会見が開かれたケースだけでも、2人の塾講師が労災認定されたことがわかった。「能力がある若い講師が使い捨てでいなくなる。学習塾業界のいまの状況をかえるべき」と小野さんは強く訴えた。

(弁護士ドットコムニュース)

学習塾「80日間、休みゼロ」 元講師「生徒のため」で疲弊、無念の退職