就職活動(itakayuki/iStock/Getty Images Plus/写真はイメージです)

大卒の就職活動に企業での「インターン」が組み込まれるのは、今や一般的になった。短期の業務体験的なものから、アルバイトのように長期にわたるものまで、さまざまな会社がインターン制度を導入している。

しかし、中には学生を酷使し搾取するような悪質な「ブラックインターン」が存在するようだ。残業の証拠を自動で残せるスマホアプリ「残業証拠レコーダー」を提供する日本リーガルネットワークに寄せられた、ブラックすぎるインターン体験談を紹介しよう。

 

■内定者インターンとして週6出勤

ゆいさんは、業界シェアNo.1のITベンチャーによる「新規事業を担う新卒募集」に応募。採用が決まった。

「大手の内定も蹴り、夢いっぱいで総合職の内定を受諾しました。大学4年になると会社から『インターンとして働いて今からキャリアを積まないか? もちろん来られる時だけで大丈夫!』と誘われ、いざ行くと1ヶ月もしないうちに週6の出勤。

 

しかもインターンは8時間未満の勤務は4,000円/日、8時間以上の勤務は8,000円/日しか払われない。大学がある日は7時間のシフトを組まれ、大学がない日は毎日12時間働いた。

 

それも、『営業の経験を積んだら新規事業の企画を』と言われ内定を受諾したのに、慢性的に人手が足りない開発部署に放り込まれ、誰からも教えられずに独学でプログラミングを続ける日々」

 

■週7で「始発帰り」したものの…

明らかに「話が違う」と思われそうな会社だが、ついに入社してしまったゆいさん。その後も厳しい日々が続いた。

「気づけば大学を卒業して正社員として入社。半年いればベテラン、といわれている会社で1年も働いていたので、入社後すぐにチームを任されることに。誰も何も教えてくれない週7で始発帰りの日々。もちろん残業代など払われない。

 

チームメンバーは全員年上なので指示にも従わず、上司には毎日2時間会議室に押し込まれて罵声を浴びせられ続ける。

 

それでも尊敬できる先輩を見つけ、何とか二人でがんばって大きなプロジェクトを成し遂げたが、会社への報告書からは僕らの名前が消され、上司の手柄となっていた」

 

異常な残業、そして過度のストレスはゆいさんの心と体を蝕んでいった。

「そこから心が壊れ始め、上手く寝られずアルコール中毒に。朝は起きれば涙が止まらず、玄関を開けようとすると嘔吐。電車で失神して気づけば病院に。精神科からは重度の抑うつと診断された。

 

幸いすぐに休職が決定し、1ヵ月後に退職。現在も後遺症があり、朝はうなされて動けないが、現職では裁量労働制を特別に適応していただき、何とかITコンサルとして働けています」

■弁護士の見解は

早野述久弁護士

内定者インターンを引き受けたばかりに人生に大きな傷を残すことになった今回のケース。法的な問題は、どこにあるのだろうか。鎧橋綜合法律事務所の早野述久弁護士に聞いてみた。

早野弁護士:いまや、多くの会社で、採用活動の一環としてインターンの受け入れをしていますが、一部には問題のあるケースも存在しているようです。

 

ゆいさんのケースでも、職場体験というインターンの趣旨を逸脱した違法性が高いインターンの実態が伺われます。また、入社後の長時間労働の事実も問題と感じます。

 

■インターンを逸脱した違法労働の実態

厚労省はインターンについて通達を出しているという。

早野弁護士:違法なインターンの形態の一つとして、インターンの学生が「労働者」に該当する実態があるにも関わらず、会社側が労働法規制を遵守しないといったものがあります。

 

インターンの学生が、労基法上「労働者」に該当する場合とは、「使用される者(「使用」性)で、賃金を支払われる者(「賃金」性)」に該当する場合です(労基法9条)。

 

この点について、厚生労働省の通達は、「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられる」としています。

■最低賃金を大幅に下回る

ポイントは「インターンが労働者にあたるかどうか」と、早野弁護士は指摘する。

早野弁護士:ゆいさんの場合は、会社側が作成したシフトに基づく勤務を命じられていること、「慢性的に人手が足りない開発部署に放り込まれ」て正社員と同様の労務に従事させられていること等から、労基法上の「労働者」に該当する可能性が高いでしょう。

 

そして、「労働者」に該当する場合、労基法、労働契約法、最低賃金法などの労働法規制に保護されることになります。

 

ゆいさんの場合では、8時間未満の勤務は4,000円/日、8時間以上の勤務は8,000円/日の賃金の支払で、かつ、勤務時間は7時間または12時間とのことですので、時給換算で571円~666円となるため、最低賃金を下回る賃金しか支払われていなかったということになります。(※例えば、平成30年12月現在の東京都最低時給は時給985円です)

 

また、1日8時間以上又は週40時間以上労働した場合には、残業代も支払わなければなりません。ゆいさんは、これらの最低賃金との差額や残業代を会社に請求することができたということになります。

 

■長時間労働とストレスによる深刻な健康被害

また、正社員として入社して以降の勤務環境にも大きな問題を指摘する。

早野弁護士:週7日始発帰りといった激務が、ゆいさんの健康に深刻な影響を与えた点は、容易に想像できるものです。また、上司に毎日2時間拘束され罵声を浴びせられるなど、蓄積されたストレスも少なくはなかったことでしょう。

 

長時間労働に関しては、一般に「過労死ライン」と呼ばれるものがあります。過労死ラインは、厚生労働省の通達「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日基発1063号)を根拠とするもので、長時間労働における健康リスクを測る基準として広く認められています。

 

この基準によると、疾患等の発症前の1か月間の残業時間が100時間を超過するか、発症前の2か月平均・3か月平均・4か月平均・5か月平均・6か月平均のいずれかで、1か月間の残業時間が80時間を超えると、健康上のリスクが高まるとされています。

 

■過労死ラインを超過か

常軌を逸した残業時間は、過労死につながる恐れもあった。

早野弁護士:ゆいさんの場合には、週7日始発帰りとのことから、ゆうに月100時間を超える残業を行っていたものと推察され、過労死ラインの基準に該当する可能性が高いでしょう。

 

また、精神障害の労災認定に関する厚生労働省の通達「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日基発1226第1号)においては、精神障害を発症した労働者の発症前1か月間の残業時間がおおむね160時間以上を超えること、発症前2か月間の残業時間が、1か月あたりおおむね120時間以上であり、業務内容からその程度の残業が必要だったこと、又は発症前3か月間の残業時間が、1か月あたりおおむね100時間以上であり、業務内容からその程度の残業が必要だったことのいずれかが認められる場合には、業務による強い心理的負荷があったと基本的に認められることになっています。

 

ゆいさんは、これらの基準に該当する長時間労働によって、心身を害したということですので、業務上の疾病として労災補償の対象となりますし、また、会社に対して安全配慮義務違反等による責任を追及できた可能性が高いでしょう。

 

なお、日本リーガルネットワークは、今月31日まで、新たに「ブラック企業エピソード」を募集している。

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(取材・文/しらべぇ編集部・タカハシマコト 取材協力/日本リーガルネットワーク

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