クリスマスの足音が聞こえる時期になると、自然と思い出す舞台がある。それが『ア・ラ・カルト』だ。

1989年から毎年クリスマスの時期に青山円形劇場で上演されてきた作品で、20周年以降はメンバーの変遷や青山円形劇場の閉館などを経ながらも、冬の風物詩として多くの人に愛され続けている。初演から30年を迎えた今年は、12月14日(金)から26日(水)まで東京芸術劇場シアターイースト、28日(金)から29日(土)まで大坂・近鉄アート館で上演される。開幕に先立ち行われたゲネプロの様子をお伝えする。

移動レストラン『ア・ラ・カルト』舞台写真

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クリスマスの夜、一人でレストランを訪れた女性、団体で予約をしたのにメンバーが次々と欠席になり慌てふためく人々、初めてのデートと思しきカップル、何やら険悪なムードの老夫婦……。レストランを訪れる様々な客たちと店員が繰り広げるショートストーリーの数々に、生演奏の彩りを加えた華やかな舞台は、まるで単品料理アラカルトのような楽しさがある。

移動レストラン『ア・ラ・カルト』舞台写真

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老若男女問わず何役もこなす高泉淳子の変幻自在さは相も変わらず健在である。高泉が複数のキャラクターを見事に演じ分けているからこそ、この世の中には様々な人がいて、それぞれの人生がある、というこの作品の真髄が見る者に温かく伝わるのだろう。中でも、クセの強いサラリーマン・高橋は『ア・ラ・カルト』には欠かせないキャラクター。相変わらずな高橋に思わず笑ってしまうのと同時に、今年も彼の元気な姿を見られたことがうれしくなってしまう。

移動レストラン『ア・ラ・カルト』舞台写真

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この日の日替わりゲストはROLLY。この作品のゲストとしてすっかりおなじみの存在となっている彼らしく、高泉との息もぴったり。役者、ミュージシャンとしての実力はもちろん、高泉とROLLYがほぼアドリブと思われるトークを行うコーナーでは奇抜なキャラクターで登場して笑わせるなど、まさにエンターテイナーの魅力を存分に発揮している。

移動レストラン『ア・ラ・カルト』舞台写真

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中西俊博率いるバンドの生演奏と、高泉やROLLYの歌声が心地よいアクセントになっている。レストランの店員ほかを演じる山本光洋、中山祐一朗、釆澤靖起が、いずれも軽やかでありながら確かな演技力でこの作品を支えるのみならず、タンゴのリズムに合わせて踊ったり、コーラス隊としても登場するなど大活躍だ。役者も音楽家も共にこの作品を創り上げていることが伝わってきて、座組の一体感がそのまま作品の雰囲気にも繋がっている。

移動レストラン『ア・ラ・カルト』舞台写真

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三方向を客席が囲む配置になっている舞台は、どこか円形劇場を彷彿させる。30周年を迎え、様々な物事が移り行く中でそれに合わせて自らも変化をすると同時に、変えずに残して大事にしたいものもある、という姿勢の表れではないだろうかと思わせてくれる。

日替わりゲストはROLLYのほか、尾上菊之丞、篠井英介、春風亭昇太、高橋源一郎、舘形比呂一、レ・ロマネスクTOBIが出演する。ゲスト毎に雰囲気も全く違うステージになることが予想される。複数回見て、ゲストによってどう変わるのか比べてみるのも一興だ。

取材・文・撮影=久田絢子

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