▽優勝争いから残留争いまで手に汗を握る接戦、熱戦が続いた2018シーズンの明治安田生命J1リーグ。超ワールドサッカー編集部は、J1全18クラブの通信簿(トピックやチームMVP、補強成功度、総合評価)をお届けする。第9弾は10位のヴィッセル神戸を総括!

◆シーズン振り返り

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▽開幕前に「アジア・ナンバーワンを狙う」、「バルセロナを目指す」という大きな野望が語られ、今夏バルセロナで活躍した元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタの獲得で世界的な注目を集めた中、最終順位はJ1参入プレーオフ出場圏内と勝ち点4差の10位という期待外れの結果となった。

▽昨シーズン途中から指揮を執った吉田孝行監督の下で継続路線でシーズンをスタートしたチームはエースのFWルーカス・ポドルスキを最大限に生かすべく[4-4-2]の布陣で序盤戦を戦うが、サイドハーフポドルスキの相棒を固定し切れず、バルセロナのようにボール、ゲームを支配するスタイルを構築できなかった。それでも、前半戦に関しては中断期間を挟んで3連勝を飾り、連敗も一度もなしと粘り強い戦いを見せていた印象だ。

▽そして、後半戦からはイニエスタら新戦力の到来と共にシステムをバルセロナ風の[4-3-3]や[4-3-2-1]に変更するが、第24節の横浜F・マリノス戦から第28節の鹿島アントラーズまで今季最長となる5連敗を経験。この連敗をキッカケに吉田監督を更迭し、パスサッカーの権化と評されるスペイン指揮官のファン・マヌエル・リージョ新監督を招へい。その初陣となったV・ファーレン長崎戦でようやく連敗をストップすると、残り5試合ではGK前川黛也の抜擢、DF伊野波雅彦の中盤起用など、来季を見据えた新スタイルへの転換を図った中、自力残留という最低限の結果を残して激動のシーズンを締めくくった。

◆チームMVP
MF三田啓貴(28)
明治安田生命J1リーグ32試合出場(先発30試合)/6得点
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▽今季新加入ながらMF藤田直之と共に各ポジションでメンバーを固定し切れなかったチームを主力として支え、チーム最多の6ゴールを記録した。背番号変更でイニエスタに気分よくプレーさせたピッチ外での貢献も評価したいところだ。今季ベガルタ仙台から加入した28歳のレフティは、チームが[4-4-2]、[4-3-3]、[4-3-2-1]と複数のシステムを併用した中、セントラルMFを主戦場に右サイドハーフや左ウイングバックと複数ポジションでプレー

▽豊富な運動量と正確なパス、オフ・ザ・ボールの動き出しを武器に守備では藤田と共に攻撃志向の強いチームを粘り強いプレーで支え、攻撃では前線の味方をシンプルに使いつつ、持ち味の積極的な飛び出しで厚みを加えた。とりわけ、イニエスタが加入した後半戦では抜群のキープ力とパスセンスを誇る元スペイン代表を起点に前線への絶妙な飛び出しで決定機に絡む場面が増えていた。来季に向けては元スペイン代表FWダビド・ビジャの加入により、今季後半から着用した背番号7から新背番号への変更が見込まれるが、大物2選手に対するピッチ外での絶妙なアシストと共にピッチ内でも今季1アシストから大幅なアシスト増にも期待したい。

◆補強成功度《C》※最低E~最高S
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▽今年5月に世界屈指の司令塔イニエスタの獲得で世界中を驚かせるなど移籍市場の話題を集めたものの、チーム全体の補強に関しては効果的とは言い難いものとなった。

▽開幕前の補強ではチームMVP級の活躍を見せた三田、高校サッカー界屈指のMFとして加入しその片鱗を見せつけたMF郷家友太(青森山田高校)、左サイドバックの主力として活躍したDFティーラトン・ブンマタン(ムアントン・ユナイテッド)の3選手が及第点の活躍を見せた一方、3年ぶりの復帰となったMFチョン・ウヨン(重慶力帆)は副将を任されながらもシーズン途中にアル・サッドに移籍し、得点力向上のために獲得したFWウェリントン(アビスパ福岡)はわずか5ゴールと期待外れの結果に終わった。

▽ただ、今夏の補強に関してはFW渡邉千真とのトレードで獲得したFW長沢駿(ガンバ大阪)こそ期待外れに終わったものの、ピッチ内外で違いを見せつけたイニエスタを始め、J2から引き抜いたDF大崎玲央(徳島ヴォルティス)、FW古橋亨梧(FC岐阜)はいずれも主力に定着し、J1残留に貢献している。

◆総合評価《D》※最低E~最高S
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▽シーズン開幕前に「アジア・ナンバーワン」、「バルセロナ化」を声高に叫んで臨んだシーズンだったが、昨季の9位(勝ち点44)とほぼ同じ10位(勝ち点45)という戦績、リージョ新監督が就任するまで新たなプレースタイルを構築できなかったことを考えると、消化不良の1年と表現せざるを得ない。

▽それでも、三木谷浩史オーナーの下でイニエスタ、リージョ監督という、「バルセロナ化」に向けた重要なピースを揃え、来季にはバルセロナイニエスタと共にプレーした元スペイン代表FWダビド・ビジャの加入が決定。さらに、今冬の移籍市場ではリージョ監督の目指すパスサッカーを実現するための大幅なメンバー変更も想定されており、クラブとしてのビジョンは明確だ。

▽その一方で、稀代の戦術家としての評価を確立しながらも目立った実績を残せていないスペイン指揮官の下でスタイルと結果を両立できるかは甚だ疑問だ。さらに、ポジショナルプレーに馴染みのない日本人選手たちが指揮官の難解な戦術、イニエスタビジャらが求めるプレー水準に追いつけなければ、今季同様に難しいシーズンを過ごす可能性もあるはずだ。
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