大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第46回「西南戦争12月11日(日)放送 演出:盆小原誠

西郷どん 完結編 (NHK大河ドラマ・ガイド) NHK出版


いよいよあと1回(これをいれて2回)を残すばかりとなった「西郷どん」。
ついに最大の出来事・西南戦争である。
西郷(鈴木亮平)が、桐野(大野拓朗)以下、薩摩の血気あふれる仲間を引き連れて東京に向かう。西郷は話し合いをするつもりだったが、大久保(瑛太)は天子様に“西郷討伐の勅”を頼む。
大久保が苦渋の心情でそれをやってるのは45話で描かれていた。こういうエピソードはドラマティックだ。

先日、「あさイチ」に鈴木亮平がゲストで出たとき、瑛太がコメントをしていて、西郷と袂を分かつシーンで、自分はクールにやっても良かったが、鈴木の芝居に引っ張られて涙を流してしまったというようなことを話していた。
振り返って「西郷どん」の良かった点を挙げると、こういう俳優同士の生々しさを出した脚本であったところがある。初期の渡辺謙島津斉彬役)をはじめとして、俳優のやりどころがある脚本で、やる人はやる、やれない人はやれないと差が出てくる。俳優にあたたかくもあり冷たくもある脚本だと感じる。


東京に向かう西郷。途中、熊本で夜襲を仕掛られる。国家に弓引く賊軍とされてしまったため、戦わない限り、熊本を出ることができない。こうして西南戦争に。
みなは西郷を東京にいかせるために、彼を守るために、戦う。
田原坂での激戦。
警視抜刀隊は、かつて薩摩の同志たちであり、かつての仲間、兄弟が、殺し合う。
西郷家も、東京に錦戸くん(従道役)がいる。思いはいかばかりか。
田原坂の戦いには、川路(泉澤祐希)もいて、崖の上から見下ろす彼を桐野(大野拓朗)は睨みつける。

雨の中、血と汗と泥にまみれた戦闘シーンには力が入っていたが、それをさらりと凌駕するのが西田敏行のナレーションだ。
淡々として見えて、なんともいえない哀感が漂うナレーション。「もしもピアノが弾けたなら」を思い出してしまった。ああ、ずっと聞いていたい。

46話では、もう最後とばかり、俳優たちの人間力によって力任せに話を盛り上げていく。
西田の重厚なナレーションの次は、我らが島津久光青木崇高)である。
天子様の勅使に「シサツ」は視察か刺殺かとぼけた調子で質問する。改心するのは政府ではないかとまで言う。
このレビューで青木の芝居を何度も何度も賞賛してきた。
46話でも「時勢に取り残された薩摩の芋侍」と自分の運命を受け入れた久光が、あれだけコンプレックスに思っていた活躍できない自分を受け入れ、ついには飄々とした開き直りによって自由な生を手に入れた瞬間が描かれる。青木が頑張って、ひとり浮き気味に見えるトーンで、道化に徹してきたからこそ、これでいいのだという強さが出た。肝の座ったかっこいい俳優。彼と結婚した優香まで高く評価したくなる。

お次は大山役の北村有起哉。地元の役人(鹿児島県令)に収まっていた彼も捕まってしまうが、「おいが政府じゃ」と頑とした大久保に対して、最後まで幼馴染として接し、それでいいのかと突きつけ続ける。西郷が大久保に言えない分、彼が揺さぶりをかけていく。北村有起哉はものすごく巧くて目立つのに、ちゃんと瑛太や鈴木を目立たせているから、すごい。いると助かる名優である。


木戸孝允玉山鉄二)は登場したときはなかなか派手だったが、ゲンドウポーズなどでちょいちょい印象づけつつ、さほど活躍しないまま死んでしまった。合掌。

桐野役の大野拓朗は、やたらギラギラと、やたらキメキメにしている。たくさんいる若手俳優のなかで自分を証明するために必死な感じがちょうどこの役に合っている。

薩摩では、西郷家に敵軍から保護すると言いに来るが、糸(黒木華)が凛と断り、追い返す。
それを石橋蓮司(川口雪篷役)が「戦に夫をおくりだした妻たちの心意気じゃ!」「西郷家のおなごはおそろしか」と賞賛。石橋が語ると単なる説明台詞に終わらない、一気にとてもいい話に見えてくる。
黒木のたくましさ、石橋のなんかいろいろわかった感が生かされた場面。

西郷一行は追い詰められて、菊次郎(今井悠貴)は片足を失ってしまう。東京行きを諦めた西郷は、飼っていた犬をとき放ち、若者たちには未来を託す。

それから、心配のあまり追いかけて来た糸とふたりきりの時間を過ごす。
「旦那さあが西郷隆盛じゃなかったらどんなに良かったか 吉之助さあがただのお人だったらどんなに良かったか」
妻の悲しみを存分に演じる黒木華。顔を落としたとこに涙がすっと流れる動きと間合いが絶妙。

みんなが熱演していく中、粛々とやることをやる西郷。
いよいよ最終回。西郷としてこの一年生きた鈴木亮平はたくさんの人たちの思いを背負ってどんなフィニッシュを決めるか。
(木俣冬)