予測不能の時代だからこそ
よそ者、若者、ばか者が時代を切り拓く

今、我々が生きているのはまさに予測不能の時代だ。その代表例ともいえるのが中間選挙を終え、ますます意気盛んのトランプ大統領だ。政治の経験はなく、不動産王であり大金持ち。3度の破産、税金は過去十数年も払わない、なぜなら自分は賢いからと豪語し、人種差別発言も普通にするビジネスマンが、世界一の軍事大国の大統領に上り詰めてからまる2年。大統領選から就任後の現在に到るまで、彼の言動はまるきり予測がつかない。何を言い出すかわからないし、どんな政策を打ち出してくるのかも予測困難だ。

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1980年代にヒットした映画に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がある。マイケル・J・フォックス演じる高校生の主人公が、知人のマッドサイエンティストが発明したタイムマシンで様々なトラブルに巻き込まれるというのが大枠の物語だ。そのなかで、主人公の敵役がタイムマシンを悪用して「2015年の未来で大統領になっている」という場面が出て来る。言動が滅茶苦茶な典型的ないじめっ子が大統領になるという、悪夢を描いているのだが、実はこの「ビフ・タネン」という登場人物は、当時、若き不動産王として様々な暴言で話題となっていたドナルド・トランプをモデルとしていたのだという。「こんなのが大統領になったら、たまらない世界だ」と認識されていた人物が、本当に大統領になってしまう現実。こんな予測不能の時代を指す言葉が「VUCA」だ。

「VUCA」とはなにか?

VUCAとは、「Volatility(変動)」「Uncertainty(不確実)」「Complexity(複雑)」「Ambiguity(曖昧)」の頭文字を取ったものだ。もともとは、アメリカ軍旧ソ連との冷戦が終結した後の複雑化した国際情勢を表現するために用いたのが始まりだとされている。それが2010年代に入って、ビジネスや経営、経済の世界で使われるようになった。2016年初頭に開催された世界経済フォーラム(通称ダボス会議)でも、「VUCAワールド」という言葉が盛んに叫ばれていたという。そんな世界経済スケールの話が自分たちの仕事にどれだけ影響するのかと疑問を感じるかもしれない。しかし、これは確実に影響する。

予想外のことが数年単位で起こるのもVUCAの時代の特徴だ。2000年代半ば、日本中の家電量販店で「亀山ブランド」の液晶テレビが人気を博していた。シャープが初期に1000億円、後の増強で1500億円以上を投資した亀山工場及び亀山第2工場で一貫生産された液晶テレビだ。だが、その栄華はわずか数年で終わった。

2007年の世界経済危機、2008年のリーマン・ショックがあったとはいえ、数千億円の投資をした工場としては、あまりに呆気なかった。かつてブラウン管が誕生し、それがカラー化され、液晶に取って代わられたのは数十年単位のタイムスケールでの変化だった。しかし、VUCAの時代には、それ以上の変化がわずか数年で当たり前に起こるのだ。三洋電機シャープ、東芝などに代表されるジャパンブランドの失墜を誰が予想できただろう。

いま就職活動をしている学生及び転職を考えている人たちは、どの業界、どの企業がこれから伸びるのか、何を持って判断すればいいのだろうか。ここではっきり言えるのは、VUCA時代に適応できない企業は滅びるということだ。そして、それは企業だけではない。VUCA時代に適応できないビジネスパーソンは滅びる。

先のダボス会議では、先進15カ国で今後5年間に失業者が510万人になると予測している。これは景気の低迷だけではなく、AI(人工知能)やロボットに仕事を奪われるということも含んでいる。同時に、新たな職種や雇用も産まれると予測されているが、それはいままでの職種とは異なる。つまり、いま適応できないと仕事がなくなるということだ。

金をもらっている以上、プロであることを意識すべき
日本で一般的に使われだしている単語に「プロ経営者」というのがある。私も40代の若い世代のプロ経営者、として紹介されることがあるが、私はこの「プロ経営者」という単語にものすごい違和感を覚えるし、好きになれない呼称だ。そもそもお金をもらっている時点でプロでないといけない。アマチュア経営者なんていないだろう。

日本でいうところのプロ経営者というのは欧米では当たり前に存在し、かなり若いときから様々な業界において短期で結果を出すべく、いろんな経験を積む。ある意味徹底的に訓練をされるのだ。その結果、圧力鍋の中のような環境で常に結果を出すことを徹底的にトレーニングされる。

結果、そのような人材が若いときから経営者として養成されているということは、欧米では常識だ。だから経営者は皆プロなのだ。お金をもらっている以上プロであるという認識を持たねばいけないと考える。

ちなみに経営者に限らず、普通の社員だって金をもらっている以上プロであることを意識すべきだ。異業種にばかり行く私の経歴を見て、「まったく経験がない業界への転職は怖くないのか。リスクを感じないのか」と質問されることがよくある。私の答えは「怖くないし、リスクだと思ったこともない」だ。むしろ、変化しない方が怖いし、新しい挑戦をし続けない選択肢こそがリスクだと思っている。

変化が激しく、予想が困難なVUCAの時代、変化を拒むことは危険だと言える。環境が変化しているのに、そこに適応できない生物は淘汰され、最終的には滅びる。

伊藤嘉明(いとうよしあき/X-TANK CEO。世界のヘッドハンターが動向を注視するプロ経営者。ジャパンディスプレイのCMOも兼任。著書『どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力』(東洋経済新報社/1620円)など。

※『デジモノステーション』2019年1月号より抜粋。

text伊藤嘉明
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掲載:M-ON! Press