12月17日、今年最後で第6回目となるレフェリーブリーフィングが開催された。6週間ぶりの開催となったが、この間にJ1、J2、J3の各リーグルヴァン杯で試合後に意見交換の対象になったプレー340シーンあり、判定が間違いだったことは92シーン、率にして32%だったことが判明した。

サッカーは、一度下った判定は、例えそれがミスジャッジでも覆ることはない。とはいえ、結果に重大な影響を及ぼしたミスジャッジが2件あったことが報告された。

▽まずは明治安田生命J1リーグの第34節、名古屋グランパス湘南ベルマーレ戦である。結果は2-2のドローに終わり、勝点を分け合うことで名古屋と湘南は勝点41で並び、同勝点のジュビロ磐田が得失点差でプレーオフに回った。

名古屋は0-2のビハインドからジョーのPK2発で同点に追いついた。まず66分にジョーが倒されたように見えて主審は「後ろの選手が押し倒した」と判断してPKを取った。しかしVTRで確認したところ、「背後の選手は強く押していない。クロスボールも高く、選手はコントロールできない」(上川インストラクター)として、両クラブには「反則ではない」と伝えたことを明かした。

▽このゴールにより名古屋は反撃に出て、75分にジョーのPKから同点に追いついたが、1点目が消えていたら名古屋が同点に追いついていたのかどうか、疑問の残るところである。もしも1-2で試合が終了したら、名古屋プレーオフに回ったことになる。結果的に磐田はプレーオフを制してJ1残留を果たしたが、これはきわめてデリケートな判定だったと言えるだろう。

▽そしてもう1件は、世界的にも話題になったJ1第33節の清水エスパルスヴィッセル神戸戦におけるAT(アディショナルタイム)18分の椿事である。すでにネット当で上川氏は状況説明をしているが、改めて当時の状況を再現しよう。

▽試合は神戸が3-2とリードして後半アディショナルタイム4分に突入した。この場合、アディショナルタイムは「4分から4分59秒まで」(上川氏)というのが通例だと言う。ところが残り10秒足らずで空中戦の激突により清水の選手が倒れた。

▽主審は「ボールにプレーしたので反則ではない」と判断してプレーオンとしたが、その後プレーを中断して治療に当たらせた。治療時間は4分20秒だったが、その時間を主審はATに加算し、選手と副審にもその旨を伝えたところ、第1副審以外は納得してしまった。疑義を呈した第1副審の声はスルーされてしまった。

▽本来なら清水の選手の治療後、プレー再開となった「AT4分50秒くらいで終わらせる試合」(上川氏)を、さらに空中戦でポドルスキーのファウルにより中断して治療に3分近く要し、これも主審はATに追加。さらに神戸FWウェリントンの騒動でトータルして11分30秒ほど試合は止まった。

▽その結果、「ランニングタイムとして98分くらいで試合終了とすべきだった」(上川氏)試合が19分も長引いたというわけだ。

▽小川審判委員長は「正当に終わっていれば、神戸が3-2で勝ち、警告も負傷もなかった。このレベルにあるレフェリーは正しくやらないといけない。本来なら終わっている試合を終わらせられなかった。こうしたことは起こしてはいけない」と苦言を呈した。

▽結果的に清水戦のドローによりJ1残留を決めた格好の神戸だが、禍根を残したことは間違いない。それを主審のミスジャッジであることを認めた審判委員会のレフェリーブリーフィングでもあった。

▽過去にこうした例は一度もないと上川、小川の両氏が話したように希有な例でもある。それを包み隠さず公表する審判委員会の姿勢を今回も評価したいと思うので、紹介させていただいた次第である。


【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
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