(花園 佑:中国在住ジャーナリスト)

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 日本の書店で中国関連書籍を探すと相変わらず「中国バブル崩壊寸前」「20xx年、中国はクラッシュする」といった類の本が並んでいるのを目にします。ネットで検索すると、こういった中国崩壊論書籍は10年以上前から存在し、大体いつも同じような筆者によって毎年何冊も発行され続けているようです。

 しかし少なくとも現在、中国で住宅バブルが崩壊したり経済や社会が大混乱に陥りそうな状況は見られません。中国崩壊論の書籍で予測されたとおりにはなっていないということです。

 では、どうして中国崩壊論は実現しなかったのか? 2018年最後となる今回の記事では、これまで日本で指摘され続けてきたチャイナリスクについて分析、再検証してみたいと思います。

住宅バブルは沈静化している

 チャイナリスクとして日本人が最も注目するのは、なんといっても住宅価格の高騰、つまり住宅バブルでしょう。日本人にとって不動産価格の暴落、不良債権化はバブル崩壊を象徴する出来事でした。それだけに、当該リスクに対する関心は、他国の事情といえども一際強いものが感じられます。

 ただし筆者の印象では、ここ2~3年くらい、中国の住宅バブルが日本のメディアに取り上げられることはめっきり少なくなっている気がします。実はそれもそのはずで、中国の住宅価格は現在も上昇が続いているものの、そのペースはこのところ落ち着いており、はっきり言えば沈静化しつつあります。

 下のグラフは不動産情報サービスサイト「安居宅」がまとめた、2009年と2018年における上海市の平米当たり平均住宅価格の前月比変動率データです(2009年1月はデータなし)。

 2009年は毎月ハイペースで平均価格が上昇し、12月に至っては5.03%上昇という急騰ぶりを示していました。ところが、今年2018年は春節(旧正月)を挟んだ1~4月に乱高下が見られますが、それ以降は全体として堅調であり、7月以降は緩やかな下落が続いています。

 中国国家統計局が発表した全国70都市商品住宅販売価格変動状況を見ても、直近の10月データでは海南省海口市(前月比0.6%上昇、前年同月比22.4%上昇)、陝西省西安市(前月比1.3%上昇、前年同月比20.7%上昇)のように急騰している地方都市も一部見られるものの、北京や上海といった主要都市は全体として堅調で、深セン(前月比0.5%下落、前年同月比0.4%下落)のように下落した都市も出ています。

効果を発揮した価格抑制策

 伸び幅が縮小しているとはいえ、価格上昇は今でも続いているのだから「バブルが続いている」という反論もあるかもしれません。しかし、住宅に限らず中国の物価はどれも上昇しており、賃金も同様に上昇しています。

 また過去のデータを見ると、価格上昇幅は時期によって上下するなど、一貫して上昇ペースにあるわけではありません。住宅バブルリスク自体は消失してはいませんが、その危険性は以前と比べ確実に低下してきていると言えるでしょう。

 では、なぜ中国で住宅バブルは落ち着いてきたのか。

 その最大の理由は、中国政府の価格抑制策が効果を発揮しているからです。

 これまで中国政府は住宅バブルへの対策として、2軒以上の住宅購入を規制したり、低所得者向け公営住宅を整備するなどして対策に務めてきました。一方で住宅価格が下落に転じるや環境対策住宅への購入補助を出すなど、不動産市場のバランスを取り、価格の安定化に取り組んできました。

 筆者が見ている限り、リーマンショック後の2010年前後が、不動産バブル崩壊の危険性が最も高かったように思えます。しかし危険性はその後、徐々に縮小していきます。最近の政府の政策には以前と比べて余裕すらも感じられ、不動産バブルの深刻さは大きく低下していると言ってよいでしょう。

少子高齢化で中国崩壊?

 中国が抱えると言われる次の大きなリスクは少子高齢化です。

 世界最大の人口を抱える中国では長年、人口抑制を目的に、夫婦が出産する子供の数を一人までとする「一人っ子政策」が続けられてきました。少子高齢化への懸念からこの政策は2016年に廃止されましたが、これまでの政策による影響で、中国はこれから急激な少子高齢化を迎えるという観測が出ています。

 人民網の報道によると、2017年末に上海市の60歳以上人口は上海戸籍総人口の33.2%に達しています。日系メディアの報道を見ていると、チャイナリスクとしてどうもこの数字が独り歩きしているようです。「上海では3人に1人が老人」→「少子高齢化が急速に進んでいる」→「だから中国は崩壊する」というストーリーもよく見られます。

 しかし、そうした主張には欠陥があります。上記の人口割合は上海戸籍保持者の中の話であり、他地域の戸籍を持つ外部流入人口を含めた割合ではありません。

 そして何より、上記のストーリーの通りなら、中国より先に日本が崩壊します。というのも、2017年10月現在における全国日本人人口に占める60歳以上の割合は34.3%を占め(政府人口推計平成28年版より計算)、上海市の水準を現時点で上回っています。日本人は中国の少子高齢化を心配する前に、もっと自国のリスクにこそ目を向けるべきでしょう。

 なお、中国全土の60歳以上の割合は2017年末時点で17.3%です。少子高齢化の影響が出るとしても、早くて20年くらいは先の話になります。また、中国としてはこの間に少子化対策を実行する時間的猶予もあります。

(余談ですが、日本政府が高齢者の仕切りを「65歳以上」としたり、無駄にスペースが多くて編集しにくいExcelデータしか出さないのは、国際比較をさせづらくさせるための陰謀ではないかと勘繰っています。)

リスクとチャンスは紙一重

 このほかの主なチャイナリスクとしては、GDP成長率がかつての2桁から1桁に落ち込むなど経済成長が鈍化しているという点が挙げられます。

 とはいえ、現在の6%台という成長率は、世界第2位の経済規模としては高い成長率と言えるでしょう。逆に、現在の経済規模で2桁成長が続いている方が、バブル懸念としてはリスクが高いのではないでしょうか。

 次に人件費高騰によって中国企業はコスト上の優位を失うという指摘があります。

 確かに人件費は高騰していますが、現在、中国の製造業はスマートフォンをはじめとする高付加価値製品への転換を果たしています。以前は、輸出において人件費の影響が強い低付加価値製品に依存していましたが、今は状況が異なっています。中国のアパレル企業などが人件費の安い東南アジアへ製造拠点を移すケースも増えています。

 それ以上に、賃金の上昇により中国国内の消費市場は拡大を続けており、以前ほど輸出や国外投資に頼る必要がなくなってきている点も見逃すべきではありません。

 以上、いくつかのチャイナリスクについて筆者の見解をまとめました。人民元の為替問題をはじめ、現在の中国にリスクが全く存在しないわけではありません。しかし日本では、一部の「分かりやすい」チャイナリスクがすぐ崩壊論と結び付けられ、過大に取り上げられ過ぎている気がしてなりません。

 リスクとチャンスは紙一重です。中国市場でのチャンスを逃さないためにも、過大にも過少にも評価すべきではないというのが筆者の見方です。

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