子どもを出産したばかりの母親が、うつ状態になる「産後うつ病」は、報道などさまざまな機会で目にすることが増えました。一方、出産した子どもに対して、「かわいい」「守ってあげたい」などの情緒的な絆を感じられず悩む母親もいます。これを「ボンディング(bonding=絆の形成)障害」といい、子どもへの深刻な虐待につながるケースもあります。医師の尾西芳子さんに聞きました。

産後1週間以内の発症が多数

Q.ボンディング障害とは、どのような病気ですか。

西さん「養育者である親が、わが子への愛(いと)おしさや守ってあげたいという感情を抱くことができず、親子の情緒的な絆が欠如してしまう病気です。通常は、産後すぐにわが子への愛着を抱くのですが、15~40%の母親が母性感情の芽生えが遅れるとされています。多くの場合は、産後すぐから1週間の間にボンディング障害を発症します」

Q.子どもには、どのような影響がありますか。

西さん「特定の人との親密な人間関係が結べない『愛着障害』になる可能性があります。また、発達障害児童虐待につながる可能性もあるので、周囲の注意が必要です」

Q.母親が子どもにどのような行為を行うと、この障害だと疑われますか。

西さん「大きく3つの行動を取ったときに、ボンディング障害が疑われます。

(1)子どもを抱かない、授乳をしない、子どもが泣いても反応がないなど、子どもに無関心な様子を示したときです。

(2)出産前に妊娠を後悔する、おなかをたたく、『産みたくない』などと話す、産後は『かわいいと思えない』と発言するなどして、子どもの世話を拒否するときです。

(3)子どもの行動にイライラして怒鳴る、ののしるなど、ちょっとしたことで子どもに対する怒りを示すときです」

Q.どのような要因がありますか。

西さん「発症には、主に(1)環境の要因(2)母親の要因(3)子どもの要因の3つがあります。

(1)未熟児で新生児集中治療室(NICU)に入ったなど、産後すぐの母子分離や周囲のサポート不足、未婚の母、夫婦の不仲、パートナーの暴力などが挙げられます。

(2)産前や産後のうつ、望まない妊娠、死産の経験、自身の養育された環境、不安・強迫的な気質などが関係しています。

(3)早産児、障害がある、望まれない性別だったなどが要因とみられています」

Q.治療法はあるのですか。

西さん「うつなどの精神症状がある場合、精神科で治療を行います。そうしたことがない場合は、保健師や助産師の訪問、産後ケアセンターなどの地域支援を通じ、母親の負担軽減や母子関係の働きかけを早期に行うことで、ボンディング改善への効果が認められています」

Q.母親にこの障害が疑われると感じたとき、家族はどのような対応をすべきですか。

西さん「まずは、地域の保健所や子ども支援センターなどに相談するとよいでしょう。これらの機関が早期に関わることで、少しずつでもボンディング改善の効果があります。疑われる場合は早めに相談しましょう」

オトナンサー編集部

子どもを愛せない「ボンディング障害」とは?