未明の住宅に押し入ってきた2人組(80代と70代)に、住人(50代)が反撃したところ、3人とも逮捕されてしまったという事件が12月、長野市で起きた。

テレビ朝日系のANNニュースが12月2日に報じたところによると、この3人は顔見知りで、金銭トラブルがあったとみられる。

2人組は、午前3時に住宅に侵入。寝ていた住人をひもで縛り、「金を返せ」などと要求したという。

これに対し、住人は2人の頭を棒などで殴り、軽傷を負わせた。さらに、2人の移動手段とみられる軽自動車にガソリンをかけ、火をつけた疑いも持たれている。

寝込みを襲われ、ひもで縛られたとなると、本人にもそれなりの恐怖があったと推測される。それでも反撃は過剰防衛になってしまうのだろうか。坂野真一弁護士に聞いた。

●年齢差なども「過剰防衛」の判断材料に

――正当防衛ではないのでしょうか?

「確かに『急迫不正の侵害を受けた場合に、自己又は他人の権利を守るため、やむを得ずにした行為』は、正当防衛として罰せられません(刑法36条1項)。

これに対して、『防衛の程度を超えた行為』は過剰防衛となり、犯罪は成立し、情状により刑が減軽又は免除され得るにとどまります(同36条2項)」

――過剰防衛と判断される程度は?

「具体的には、(1)手段・結果に著しい不均衡がある場合、(2)他により軽微な侵害しか伴わず、しかも容易に取り得る防衛手段が存在した場合です。

例えば、他人が素手や棒で殴打してきたことに対して、凶器で反撃する行為は防衛の程度を超えたとされることが裁判例上も多いのですが、当事者(攻撃者・防衛者)の年齢・体力・人数等を勘案して具体的に判定されなければなりません。

さらに、攻撃してきた者が、防衛者に反撃された結果、攻撃を停止したり逃げ出したりした場合に追撃する行為は過剰防衛となります(最判昭和34.2.5)。もちろん、急迫不正の侵害に対する防衛のための行為でない場合は、過剰防衛にすらなりません」

●「軽自動車に火」は防衛か、報復か?

――今回の件は、報道内容からどのようなことが考えられるでしょうか?

「本件の場合、深夜に2人組が住宅に押し入って縛り上げてきたわけですから、急迫不正の侵害は認められると思います。

問題は、侵入者に対して棒で反撃をして軽傷を負わせたうえに、侵入者の軽自動車にガソリンをかけて火を放った住人の行為が、防衛行為として『やむを得ずにした行為』といえるかどうかでしょう」

――襲撃してきた2人はいずれも高齢者だったようです。

「詳細な事情が不明なので、当時の状況を推察しての考察となりますが、複数の侵入者が住人を縛り上げようとしてきた際に、手近にあった棒を振り回して反撃することそれ自体は、防衛行為として相当と考えることは可能でしょう。

しかし、棒がどの程度の殺傷能力を有するものであったかという凶器の性状、侵入者と住人の体力・年齢や現場の状況等によっては、防衛の程度を超えた行為と評価され過剰防衛となる可能性もあるでしょう。

また、仮に住人の反撃に相手がひるんで攻撃をやめ、逃走しようとしているにもかかわらず、さらに追撃を加えて棒で殴打した場合であれば、前述したとおり過剰防衛となる可能性が高いでしょう」

――軽自動車に火をつけたことはどう影響すると考えられますか?

「ガソリンをまいて火をつけているという状況から推察すれば、侵入者の攻撃に抵抗しながら、それだけの行為を行うことは通常考えにくいため、侵入者の攻撃が止んでいたか、そうでなくても相当の余裕が住人にあった状況と考えるべきでしょう。

また、当該行為自体が防衛の手段としてなされたとも考えにくく、むしろ報復としてなされたものではなかったかと思われます。

したがって、軽自動車に火をつける行為が権利防衛上の一つの合理的手段とは評価しにくいと考えるのが素直です。よって、正当防衛行為はもちろん過剰防衛も成立しない状況だったのではないかと考えます」

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
坂野 真一(さかの・しんいち)弁護士
ウィン綜合法律事務所 代表弁護士。京都大学法学部卒。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則」「判例法理・取締役の監視義務」(いずれも中央経済社)、「先生大変です!!」(EPIC社)、「弁護士13人が伝えたいこと~32例の失敗と成功」(日本加除出版)等。近時は相続案件、火災保険金未払事件にも注力。
事務所名:ウィン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.win-law.jp/

家に押し入った高齢者コンビ 撃退した住人も逮捕されたのはなぜ?