個人差はあるものの、肉体的な衰えが見えてくると、その場にいるだけで重く不機嫌な空気感をまとい始めていることを自覚しなければなりません。こういう慢性的な不機嫌は、本人の気持ちを蝕むだけでなく、職場や社会全体の生産性を下げ、トラブルやハラスメントの火種になるのです。

 これは、いまの中高年が主に人格形成をしたのが、昭和だということも大きく関係しています。昭和の時代というのは、男が野放図に威張ってワイルドが認められていた、パワハラもセクハラも言葉すらなかった時代です。

 では、そんなリア王症候群を自覚した上で、症状を軽くしていくにはどうしたらいいのでしょうか。

 まずは、努めて笑顔で上機嫌で軽やかに過ごすこと。そのお手本は、タレントの高田純次さんです。高田さんは、まず他人に対して不機嫌に振る舞わない。ジョークが言えて、軽やかに周りを明るく笑わせ、そして余裕があるように見える。目指すべきは、あの上機嫌さです。

「愛されるオジサンになる6カ条」

 リア王症候群を克服して、嫌われない、愛されるおじさんになる方法について考えてみましょう。

【1】セクハラ、パワハラおやじにならないために

 今年起こったさまざまな事件を受けて、セクハラ、パワハラについての講習会が各所で開かれています。そこで冒頭に言われるのは「相手がセクハラだと感じたらセクハラです」ということ。それではどんなことでもセクハラになっちゃうじゃないかという意見もあるでしょうが、ここはまず、セクハラになるようなことを一切言わない、しないことしか対策はありません。

 セクハラを勉強するなら、昭和の映画を観るといいと思います。いまならこれはアウトというセリフがいっぱい出てきます。ハナ肇とクレージーキャッツ植木等が活躍した頃のサラリーマン映画『ニッポン無責任時代』などの無責任シリーズや森繁久彌主演の『社長シリーズ』なんか、すごくいいですね。昭和の映画を、このセリフはアウトだなとか言いながら観ると、いい反面教師になる。そして、危険でアウトな言葉を安全な言葉に言い換える練習をするといいでしょう。そういうアウトな言葉をどう言い換えたらいいのか、ボキャブラリーを増やして、言葉の言い換え力をつけるのです。つまり『語彙力』を鍛えるのです。

 そしてそのコツは一言で言えば、常に前向き変換することです。部下を指導するときに、不機嫌な感じで、「それはないなあ」とか言っても、萎縮するだけで良くなることはない。欠点を指摘するよりも、良いところを「これはいいね、ここを伸ばしてみて」と、ポジティブに変換して言うことが大事なんです。

 全米オープンで優勝した大坂なおみサーシャコーチは、そのお手本です。大坂はネガティブに落ち込みがちですが、コーチはいつも機嫌が良く、「大丈夫だよ」とか「君はもうできてるじゃないか」とか言って励ましてますよね。

【2】上機嫌になる身体をつくろう

リア王」にならないためには、明るい気持ちで人と接する、そのための身体も大事です。

 身体の内側から笑顔をつくるためには、まず軽く3~4回ジャンプをして、肩を揺すって身体をほぐすといい。跳ぶたびに息をフッフッと吐くのがポイント。そうして身体を柔らかくすると、気分も柔らかくなります。さらに、そのときに温かい飲み物を飲むといい。

【3】説教をしない、若い人を評価する

 若い人を評価するのが苦手な中高年が多いのですが、それはなぜかと言えば、若い人に嫉妬心があるからです。雄(おす)としての魅力が衰えてきたことを、無意識に自覚して、若い人をついライバル視して接してしまうのです。そこから解放される練習メニューとしては、テレビなどに出てくる若手のタレントを覚えて、褒める練習をしてみるといい。おじさんになると、つい「あんなの、どこがいいの」なんてネガティブに言いがち。すると若い人をバカにしているように見えるし、嫉妬心がまる見えで、ほんとにみっともない。そして、人を褒めるときには、「いいねえ、やるなあ」とか言いながら軽く拍手をして身体で褒めるというのもいいでしょう。

【4】ケチるな、気前のいいおじさんになる

 おじさんたちが、好かれるようになるためには、やっぱり気前の良さでカバーするしかありません。たとえば若い人たちがカラオケに行くという場面で、じゃあ皆で行ってこいよと1万円をポンと出すとか。余裕がなければ5千円でもいいでしょう。最初だけ参加して、じゃあ、と5千円を置いてサッと帰っていくというわきまえ方も必要です。

【5】自慢話は自虐ネタを入れて15秒以内で手短に

 日本人は謙虚さを美徳としているので、一般に自慢話は嫌われますが、自慢話をしてはいけないということではありません。

 私はむしろ自己アピール力、自画自賛力をつけたほうがいいとも思っています。自分はこういう人間だという自己アピールとしての自慢話は必要です。

 お笑い芸人などが上手いのは、自慢話のなかに自虐ネタを入れて自分を笑う。するとプラスマイナスゼロになる効果がある。

 まずは相手を選んで、15秒以内で終えること。実はみんな自慢話が嫌なのではなくて、話が長いのが嫌なのです。15秒なら、相手も負担に感じないから、嫌われることはない。上手に自慢話をして、相手の自慢話も引き出していく、そんな話し方ができれば完璧です。

【6】愛されるおじさんファッション

 オシャレについては、もともとのセンスも必要だし、勉強しても時間がかかるもの。まずはとりあえずのブランドを決めて、そのブランドで統一することです。海外の高級ブランドでなくても、そこそこの間違いがないブランドでそろえておけば、おじさんらしい安定感が出ます。

齋藤孝(さいとう・たかし):1960(昭和35)年、静岡県生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現職。2001年『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス)で新潮学芸賞受賞。同年『声に出して読みたい日本語』(草思社・毎日出版文化賞特別賞)がシリーズ260万部のベストセラーになり、日本語ブームに火をつけた。その後テレビのコメンテーターをはじめクイズ番組などに多数出演。著書の累計出版部数は1000万部を超え、近著に『大人の語彙力』『50歳からの孤独入門』などがある。

アサ芸プラス