クリスマスイブの豪華ディナー、ウインタースポーツホテルにお泊まり、オシャレスポットの白銀イルミネーション、そして、カウントダウンの音楽イベント…。12月下旬は、ラブラブな恋人が盛り上がるイベントが目白押しですが、キンキンに冷え切った心を人肌でアツアツに温めよう! そんなふうに男と女が体を重ねれば、ちょっと愛があふれすぎて、一定の確率で(子どもが)できてしまうのですが、年末にまいた種から芽が出て、花が咲くのは年始。そして「産む、産まない!」の修羅場を迎えるのは2月。

 あまたの恋人が生まれるバレンタインの季節なのに、該当者は切羽詰まって相談しに来るのですが、本来ならば、姿を現したモグラをたたくのではなく、モグラが姿を見せないように手を打ちたいところです。

 予期せぬ形で彼の子を身ごもったのは、今回の相談者・宮原麻衣さん(36歳、仮名)。彼は子の父親になる心の準備も、麻衣さんと結婚するお金の準備も、そして2人で子どもを育てる環境の準備も整っていなかったので「本当に俺の子なのか」と逃げ回るばかり。入籍や同棲(どうせい)、両親へのあいさつをすべて拒否したのですが、まだ知り合って2カ月なのだから無理もありません。

 揚げ句の果てには、「できない体だってうそをついて、金をせびるなんて美人局(つつもたせ)と同じだ!」と言い、出産を諦めて中絶してほしいと言い出したのです。

 麻衣さんが「もし、子どもができたらどうするの」と尋ねると、彼は「そのときは結婚して一緒に暮らそう。幸せな家庭を築きたいな」と甘い言葉をささやいてきたそうです。世の中には100%安全な避妊方法は存在しないのだから、女性が体を許すとき、前もって確認するのは当然といえば当然。

 しかし、麻衣さんはそもそも彼に「コンドームをつけてほしい」と頼まなかったそう。なぜなら、婦人科の先生から「子どもができにくい体」と言われていたからです。歴代の彼氏とは避妊の有無にかかわらず、妊娠に至ったことはなかったので「今回も大丈夫」と軽んじていたのでしょう。

「これが相性なのでしょうか? うれしさ半分、驚き半分という感じでした」

 麻衣さんは当時の心境を振り返りますが、彼と知り合って2カ月、体の関係を持って1カ月、性交渉は今回で3回目のことなので完全に予想外でした。

出産に反対、結婚や養育費も拒否した彼

「だますつもりはなかったんです! 結果的にそうなっただけで…」

 麻衣さんは必死に弁解しますが、彼からすれば恨み節の一つや二つも言いたいでしょう。もし、麻衣さんが「どうせできないから」と余計なことを言わなければ、前もって避妊具をつけたり、ピルを飲むよう頼んだりしたかもしれません。彼が目先の快楽より妊娠の危険を恐れるような慎重なタイプなら、なおさらです。麻衣さんの言葉を信じて避妊具の装着もピルの準備もしなかったのだから、妊娠の責任は麻衣さんにあると糾弾されても仕方ないでしょう。

「もう、うそつきに振り回されるのはゴメンだ! もう、お前とは別れるから二度と連絡してくるなよ!!」

「どうせ、産む勇気も一人で育てる覚悟もないだろ?! 俺は(出産に)反対だからな!」

「お前のせいでこうなったんだろ?! (中絶にかかる費用は)全部そっちで何とかしろよな!」

 彼は今回の件をきっかけに裏の顔をのぞかせ、本性を現し、ありったけの暴言を麻衣さんにぶつけてきたのです。しかし、大事なのは最初の段階で「子どもができたら結婚」という約束を交わしていたことです。結婚の条件は、あくまで妊娠の有無であって不妊症の有無ではないのだから「結婚の約束」は有効でしょう。百歩譲って彼が「健康な子どもを産んでほしいから不妊症の女と結婚するつもりはない」と思っていたとしても、麻衣さんは子を身ごもったのだから、これは結婚しない理由になりえないはず。

 しかし、彼は一緒に暮らし、婚姻届を出し、「夫婦」として子どもを育てていくことを拒んだだけでなく、麻衣さんが反対を押し切って出産に踏み切り、1人で育てていく場合の「養育費の支払い」にも応じようとしなかったのです。

「逃げられたくない一心で、不妊症でもないのに『できない体だ』ってうそをついたんだろ?」

 彼は麻衣さんのことを「結婚のためなら何でもする卑劣な女」だと誤解していたのです。そして、子どもの出産に反対して費用の負担を拒否し、麻衣さんとの関係を断絶しようとしたのですが、結局のところ、妊娠しようがしまいが彼は麻衣さんと結婚するつもりがなかったのは明らかです。将来のことを考えなくていい「どうでもいい女」として扱われ、性欲のはけ口として使われ、揚げ句の果てに「(子どもが)できたらおろせばいい」と、言いなりのおもちゃとして遊ばれた結果がこれです。このように考えると、最初にだましたのは麻衣さんではなく彼の方でしょう。

責任を取らせるための3つのポイント

 さすがに、麻衣さんも誰の協力も得られないまま妊娠10カ月目になり、経済的・体力的、そして、精神的な負担を背負い込むことは難しかったようです。

 結局のところ、出産を諦めざるをえなかったのですが、「だまされた!」と被害妄想に取りつかれた彼の目を覚まし、ありのままの現実に目を向けさせ、しかるべき責任を取らせるにはどうしたらよいでしょうか。麻衣さんが彼に支払ってほしいのは、以下の3つ(計25万5000円)です。

(1)中絶の手術費用:20万円
(2)水子の供養費用:4万円(地蔵尊像の建立とお布施)
(3)術後の検診費用:1万5000円5000円×3回)

子どもができたら結婚してくれる」という魂胆で「できない体だから(コンドームを)つけなくても大丈夫」とうそをつくような女にハメられた…。そんなふうに被害者面をし、誰がどれだけ傷つけたのかを自覚せず、産もうがおろそうが逃げ切りたい一心の彼を捕まえるポイントは、親子関係の客観的な証明方法、出産中絶の選択権の所在と金銭負担のシミュレーション、デキ婚拒否の代償と命の価値の検討、の3つです。順番に見ていきましょう。

「彼が『俺の子じゃない』と言い出して困っています! どうしたらいいでしょうか」

 まず、1つ目のポイントは親子関係の客観的な証明方法です。麻衣さんは困惑した表情で訴えかけますが、彼は麻衣さんが会う男会う男を「できない体だから(コンドームを)つけなくても大丈夫」と誘っているので、子の父親が誰なのか分からないだろうと言わんばかり。麻衣さんの尊厳を汚い言葉で踏みにじったのです。

 しかし、今回の場合、彼は「人工妊娠中絶に対する同意書」に自分の住所、名前、また、麻衣さんとの続柄として「彼氏」と記入していたのが不幸中の幸いでした。胎児は麻衣さんの子ですが、同時に彼の子でもあるのだから胎児をおろすには双方の同意が必要です(母体保護法第14条1項1号)。万が一、彼が「俺の子じゃない」と言い張るのなら、彼は「赤の他人の子を堕すること」を同意書の中で承諾したことを意味しますが、このような屁理屈が通用するでしょうか。

「やはり、自分が父親だと自覚しているからこそ同意書に署名したのではないでしょうか」

 私は麻衣さんにアドバイスしたのですが、麻衣さんは早速、病院で同意書のコピーをもらい、写真を撮り、彼のLINEへ「これでも親子じゃないって言えるの」というメッセージと同意書の写真を送り付けたのです。さすがの彼も答えに窮したのか「親子関係」については何も言ってこなかったのですが、今度は「子どもを諦める」という苦渋の決断をした麻衣さんの気持ちを逆なでする一言を浴びせてきたのです。

「おろしたくなければ、産めばいいだろ! どうなっても知らないぞ!!」

※「下」に続く

露木行政書士事務所代表 露木幸彦

父親になる準備もない彼の子を身ごもった女性は…(写真はイメージ)