大松SCの吉田コーチは“目の覚めるゴール”に驚き「ヘディングはあまり得意じゃない」
UAE1部アル・アインの元日本代表DF塩谷司は、現地時間22日に行なわれたFIFAクラブワールドカップ決勝のレアル・マドリード戦(スペイン)でフル出場。1-4と欧州王者に力の差を見せつけられたなか、一矢報いるヘディングゴールを決めて意地を見せた。かつて指導した恩師も、「自分の教え子がレアルから得点する日がくるとは」と活躍を喜んだ。
左サイドバック(SB)で先発した塩谷の前に、“銀河系軍団”のレアルが立ちはだかった。前半14分にクロアチア代表MFルカ・モドリッチが技ありの左足シュートでアル・アインのゴールをこじ開けられると、後半にセットプレーから2失点。試合時間も残り10分程度で3点のビハインドを突き付けられたが、逆に塩谷はリスクを覚悟で攻撃のギアを上げた。積極的に縦パスを狙い、自らもアタッキングサードに侵入。そして、後半41分に歴史的瞬間が訪れる。
元鹿島アントラーズFWカイオの右サイドからのFKにペナルティーアーク付近から飛び込むと、頭でそらしたボールはふわりとした軌道を描いてゴール左隅へ。ロシア・ワールドカップ(W杯)で最優秀GKに輝いたベルギー代表GKティボー・クルトワの牙城を崩す、追撃のヘディング弾となった。
塩谷が小学生時代に在籍した徳島の大松サッカー少年団(大松SC)で当時コーチを務め、現在はU-12チームを指導する吉田太治氏も、このゴールには「驚いた」という。
「レアル優勢で徐々にアル・アインが動けなくなっていくなか、目が覚めるようなゴールを決めてくれた。しかも相手はレアル。自分の教え子が、世界のレアルから得点する日が来るとは当時は思ってもいませんでした。ヘディングは昔からあまり得意じゃないですが、こう当てたらこう飛ぶだろなとイメージだけはきちんとしていたと思います」
長所のフィジカルでは王者レアル相手に奮闘「決して負けてはいなかった」
開催国王者として決勝まで勝ち上がったアル・アインだが、選手たちにはかなり負担があったようだ。延長PKにもつれ込んだ2試合(1回戦ウェリントン戦、準決勝リーベル・プレート戦)を含む全4試合にフル出場した塩谷も「体はキツかった」と話していたという。
ボール支配率37%とレアルに押し込まれ、本来の攻撃的なスタイルを見せられないなかでも、元フランス代表FWカリム・ベンゼマやスペイン代表MFルーカス・バスケス、ウェールズ代表FWギャレス・ベイルらレアル攻撃陣との球際の攻防では引けを取らなかった。吉田氏は試合後の塩谷とのやりとりを明かす。
「正直、かなりヘコんでいました。『今まで積み上げてきたものが……』『次元が違う』と。前半はアル・アイン自体がボールを取れずに、司の攻撃的なスタイルが影を潜めていましたね。ただ、フィジカルに関して言えば、あのレアルにも決して負けていなかったと思います。司が最も自信を持っている部分ですし、実際に弾き飛ばされることはほとんどなかった。一瞬のスピードは桁違いだったようですが(苦笑)」
国士舘大からJ2の水戸ホーリーホック、J1サンフレッチェ広島とステップアップし、2014年には日本代表にまで上り詰めた塩谷。2017年からは日本を離れ、異国の地UAEで挑戦を続けてきた選択が間違っていなかったことを自らのプレーで証明したわけだが、恩師の吉田氏は次なるハードルに「日本代表復帰」を課す。
「できるだけ長くプロでやってほしいし、いつか日本に帰ってきてほしいという思いもありますが、一番の願いはやはり代表復帰です。本人が悔いなくやりきったうえで、もう一度代表の舞台に立って得点を入れてくれたら最高ですね」
塩谷は故郷に凱旋するたびに小学校を訪れ、触れ合いを大切にしてきた。日本代表戦士となり、2016年にはリオデジャネイロ五輪にオーバーエイジ枠で出場したことで子供たちに夢を与えてきたが、世界的な名門レアルからゴールを奪ったという勲章は、徳島の人々にとっても新たな誇りとなるに違いない。(Football ZONE web編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)
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