(三矢 正浩:博報堂生活総合研究所・上席研究員)

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 私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化をみつめ、さまざまな研究活動を行っています。

 前回に引き続き、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。

2019年、生活者の見通しは?

 今年も残すところあと一週間足らず。毎年この時期はメディアなど方々から、今年一年の振り返りや来年に向けての見通しが語られだし、それがいっそう「今年ももう終わりか・・・」という実感を持たせてくれます。特に今回はいよいよ改元というタイミングでもあり、「平成最後の」という意味もこめた大きな視点での振り返りも目立ちます。

 私たち生活総研でもこの時期、来年への見通しとして「生活者にきいた“来年の生活気分”」を発表しています。景況感や生活の楽しさ、力を入れたい生活行動などが「翌年どうなりそうか?」「どうしていきたいか?」について、全国11都市の20~69歳男女3900人に答えてもらうこの調査。スタートした2015年から最新2018年の調査まで4時点ぶんの結果を、「生活者にきいた“2019年 生活気分”」として今回まとめています。

 さて新しい時代の幕開けでもある2019年。生活者はどんな年になりそう・していきたいと考えているのでしょう。調査結果から主なポイントをご紹介します。

2019年の景況感は、調査開始初の悪化に

 まずは2019年の世の中の景気予想から。

「来年の『世の中の景気』は今年と比べてどうなると思いますか?」と質問したところ、残念ながら芳しくない結果が返ってきました。

●2019年の「世の中景気」見通し
 「良くなる」 : 14.6%
 「変わらない」: 59.0%
 「悪くなる」 : 26.5%
 

 単年では分かりにくいですが、過去調査との比較で見ますと、これまで低下が続いていた「悪くなる」のスコアが今回初めて増加に転じています。「良くなる」が2018年と同スコアの14.6%のままということもあり、先行き見通しの悪化が際立ちます。

 上記回答の理由について、あわせて自由記述方式で聴取しています。「悪くなる」回答者の記述を集計してみると、圧倒的に目立つのが「消費増税」への言及。理由のうち4割に及びました。

「消費増税になり、1年目は必要最低限のもの以外はなかなか買おうとしない世帯が多いと思う」(24歳男性・宮城県
「増税前に消費は一時的に増えると思うが、10月以降一気に落ち込みそう」(32歳男性・広島県
「賃金は上がらないのに、消費税が上がり使わないといけないお金は多くなる」(49歳女性・大阪府
 

 国の財政健全化のための増税とはいえ、生活まわりの先行きを考えると、どうしても懸念する意識が働くようです。

 また特に女性からは、消費増税以外の要因での「物価上昇への懸念」も多く聞かれました。

「今年は異常気象などが続出して野菜などの物価が上がったので、今後もいろんなものの物価が上がり続けると思った」(26歳女性・東京都
「スーパーで商品がどんどん小さくなったり、価格が上がったりしている」(37歳女性・神奈川県
「食料品全般の値段がかなり上がっているので」(44歳女性・福岡県
「物価が値上がりしている、特にガソリン代がこの先どれくらい上がるか心配」(68歳女性・福岡県
 

 家計のやりくりを任される立場の方が多いからか、肌感覚での「値上がり」実感にもとづいた回答が目立ちました。自然災害が多発した2018年の「今年の漢字」には「災」が選ばれましたが、災害の二次的な影響として起こった生鮮品の値上がりも、生活の上では大きな出来事だったといえるのではないでしょうか。

2019年に始めたいこと、男は「お金」、女は「カラダ」づくり

 来年の世の中の景気予想は、このように少し厳しい様子ですが、では「どんな年にしていきたいのか」についてはどうでしょうか。

 来年「思い切って始めたいこと」があるか? あるとしたらどんなことか? 来年に向けての意欲をきいてみました。

●2019年に「思い切って始めたいこと」がある
 全体:30.8%
 男性:29.1%
 女性:32.6%
 

 新しく何かを始めようと思っている人は全体の3割。男女別では若干女性が多いようです。

 では皆さん、実際にどんなことを始めようと思っているのでしょうか。例示した24項目から複数回答で選んでもらったもののうち、上位10項目の結果は以下のようになりました。

 この結果で、特に興味深いのが男女のスコア差です。

 10ポイント近く差が開いている項目を見ると、以下のように分類できます。

男性>女性・・・「副業」「投資・資産運用」
男性<女性・・・「運動・体操・筋トレ」「貯蓄」「ダイエット・食事制限」
 

 ざっくり言うと2019年、男性は「お金を積極的に獲得する年」に、女性は「自分のカラダに磨きをかける年」にしていこうという、そんな傾向の違いがうかがえる結果となりました。

 美容やカラダまわりのメンテナンスへの関心は、これまでも女性が高い傾向ではありました。さらに今年特有の要因として、イケメン男子が指南する筋トレ番組の決めセリフ「筋肉は裏切らない」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたり、有名女優が「婚活より筋活!」と宣言して話題になったりと、来年に向けて女子筋トレ界隈(?)に追い風が吹いていることも影響していそうな結果です。

 また男性側をみると、こちらもこれまで財テク・投資まわりの関心は女性に比べて高い傾向がありましたが、これに加えて昨今、「副業解禁」の姿勢を示しはじめた企業が増えていることも、働く男性たちの気持ちを後押しする加点要素になっているように思われます。

「お金」と「カラダ」・・・。目指すものは違えども、じっとしているだけでは「悪くなる」見通しの2019年に自ら変化を起こし、「頼れるもの」「裏切らないもの」を積極的に獲得してやろう。そんなポジティブさが感じられる結果ではないでしょうか。

 来年に向け、皆さんの発想のヒントや、視野を広げるきっかけとなれば幸いです。

○「生活者にきいた“2019年 生活気分”」調査概要
調査地域:全国11都市
(首都40Km圏、名古屋40Km圏、阪神30Km圏、札幌20Km圏、仙台20Km圏、新潟30Km圏、金沢20Km圏、静岡20Km圏、広島20Km圏、高松30Km圏、福岡30Km圏)
調査対象:20歳~69歳の男女3900人(男性1938人、女性1962人)
調査時期:2018年10月4日10月9日
調査手法:インターネット調査

○「生活者にきいた“2019年 生活気分”」ニュースリリース
http://seikatsusoken.jp/report/12928/

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