1人目育児にあれほどに苦労したのは、「人間も動物である」ことを忘れていたからだと3人の子を持つ今になって思います。「動物なんて失礼!」と思う方もいるかもしれません。しかし私たち大人も、理性や知性をもっていても本来は動物なのです。

今回は哲学ライターの筆者が、視点を変えて育児を楽にするコツとして、「人間も動物」という考え方についてご紹介します。

「分からない」ことが分からない1人目育児

3人の子どもがいる筆者ですが、1人目育児は分からないことばかり。特に「大人目線で考えていた」せいで、余計に苦しくなったように思います。

たとえば1人目が1歳のとき、「なぜ何でも物を投げるの?『危ないから投げないで』って何十回注意しても分かってくれないし…」と悩みました。大人なら、1回言えばすぐに分かりますから、なぜ分からないのかが分からなかったのです。

その後、1歳児は発達過程において「物を投げる」動作をすること、投げることで筋力も付くこと、1歳児の脳の発達具合ではそこまで理解できないことが分かりました。赤ちゃん目線や子ども目線で物事を考える視点が抜けており、「『子どもは分からない』ことが分からなかった」のです。

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人間だって、本来は動物

考えてみれば、私たち人間は本来「動物」です。「動物なんて」と捉える方もいると思いますが、人間もスタートは動物であり、ゆっくりと知性や理性を身に付けていきます。大人になって倫理観や理性がある点では人間ですが、根っこの部分は動物でしょう。

たとえば、分かりやすいのが恋愛です。「この人が好き」と思う気持ちは、言葉では表現できない本能の部分で感じることでしょう。食べ物を「美味しそう」と感じるのも、「この仕事がしたい」と思うのも、「この音楽が好き」と思うのも、本能で感じ取り、選択しています。

動物がスタートなのですから、生まれてすぐに理性や知性を習得できるわけではありません。それ相応の脳・身体・心の発達と、数多くの経験が必要で、大人も時間をかけて教える必要があり、年数がかかります。成人するまでに20年ですから、ゆっくりと発達していくのです。

具体的に何が楽になる?

親は子どもを、理性や知性を持つ人へと育てていく必要があります。その過程で「人間も動物である」と意識すると、具体的にどんな場面で気持ちが楽になるのでしょうか。

  • お茶やご飯をこぼすのは、乳幼児期は当たり前

  • 子どもの不思議行動(物を投げる、テレビ台に登る、水や泥が好きなど)も、成長の過程で感覚を鍛えるためと納得できる

  • 言葉が未発達だから、泣いたり怒ったりして感情表現や意思疎通をはかろうとし、ストレス発散もする

  • 筋肉をつけたり好奇心を満たすため、危ないことに手を出す

  • 0~1歳児は本能全開なので、基本的には言っても分からない

  • 2歳頃から少しずつ分かり始めるものの、幼児期は何十回と教えたり、実際に見せながら教える必要がある。イヤイヤ期もあり、スムーズにはいかない

  • 教えたことを「本当の意味で理解」するのは、発達と数多くの経験が必要。小学生でも分からないことはたくさんあるほど、時間がかかる

注意したいのは、「だからといって教えなくてもいい」ということではありません。多くの言語を聞かせるほど早く言葉が分かるようになりますし、動作や言葉で何となく理解する場合もあります。

大切なのは「小さな頃から教えるものの、すぐに理解するとは思わず、いつ分かるようになるか見守る」スタンスでいること。結局は目が離せなかったり、こぼしたものを片付けたり、泣き止ませたりと物理的には大変です。しかし「何で分からないの」と悶々とするよりも、気が楽になるしょう。

親も本能を大切にしてみる

親も本来は動物ですから、育児を良い機会と捉え、自分の本能を大切にすることもお勧めします。たとえば世間では多くの「こうすべき」という育児論がありますが、「それがこの子と私に合うかどうか」と本能レベルで考えてみましょう。

抱き癖が付くといわれても、抱っこしたいなら抱っこすればいいでしょう。1歳で断乳はちょっと違うと思うなら、2歳、3歳と授乳するのもありです。逆に無理して子どもと遊び続ける必要もないですし、子どもは無理する親の気持ちも見抜きますから、疲れたら休みましょう。

動物的でいることは時に危険をはらみます。しかし人間としての良心や倫理観が働き、危険に傾かない大人が大半でしょう。つい大人目線で育児をしそうになったら、人間も動物であることを思い出してみてくださいね。