Point
■コーヒーなどをこぼしたときに縁取りされたシミができる「コーヒーリング現象」を抑制する方法が明らかになった
■「コーヒーリング現象」の抑制は高解像度のインクジェットプリンターや無害なフードプリンターの開発につながる可能性
■研究が進めば生命誕生の過程のひとつである液体の濃縮過程も明らかとなる可能性

 

白シャツにコーヒーをこぼし、しっかりと「縁取り」されてしまったシミにがっかりしたことはありませんか?

このコーヒーリング現象」の縁取りをなくす方法が明らかになりました。この研究結果は海洋研究開発機構の下林研究員らにより、12月11日に雑誌「Scientific Reports」に発表されています。

Suppression of the coffee-ring effect by sugar-assisted depinning of contact line
https://www.nature.com/articles/s41598-018-35998-w

砂糖が「中心から外側へ向かう水の流れ」を抑制

コーヒーをこぼすとその滴の外側から蒸発していくため、下図のように中心から外側へ向かう水の流れができます。これによってコーヒー粒子が外側に集まり、乾燥したときにコーヒーリングができるのです。

Credit: Scientific Reports

この「コーヒーリング現象」について、コーヒーに砂糖を加えると縁取りがなくなり均一なシミになることがわかりました。

Credit: Scientific Reports

「コーヒーリング現象」による縁取りは、インクジェットプリンターで印刷されたインクが乾燥するときなどにもみられ、プリンター解像度が下がる原因にもなっています。

そこで砂糖によるコーヒーリング抑制のメカニズムを明らかにするため、高性能な顕微鏡でコーヒーが乾燥する様子を観察しました。その結果、コーヒーの滴の縁で糖が析出していることが判明。そして、乾燥していく滴の内部の流れを画像解析したところ、析出した糖により外縁への流れが抑制されていることがわかりました。つまり、この流れの抑制が「コーヒーリング現象」を抑制しているものの正体だったのです。

これまでもコーヒーリング抑制のメカニズムは研究されており、印刷インクに界面活性剤を加えるなどの工夫が考えられてきました。界面活性剤は洗剤などに使われており、液体の表面張力を変えることで滴内の流れを乱すことができます。

印刷技術から生命の起源まで…幅広い展開が予想

しかし、今回わかったコーヒーリング抑制のメカニズムは従来のものとは違い、簡単・安価・無害に印刷技術を向上できると考えられます。また無害なインクに無害な添加物を加えることで「コーヒーリング現象」を抑制できると考えられるため、フードプリンターや医療用プリンターへの応用も期待されています。

さらに、フードプリンター解像度が上がればバースデーケーキの上に子どもの写真がプリントできたり、医療用プリンターが高性能になればお母さんのお腹のエコー写真でかわいい赤ちゃんの顔が見られるようになったりするかもしれません。窓ガラスにつく雨跡や、鏡についた水滴もコーヒーリング現象が原因なので、窓ガラスや鏡の掃除が楽になるということも考えられます。

応用はこれだけではありません。実は生命の起源にも、「コーヒーリング現象」が関わっている可能性があります。生命の起源については、体を作る有機物が集まり、「液滴」になってから生命を得たという説が有力です。この時、生物の構成成分の濃縮と乾燥が必要であり、ここに「コーヒーリング現象」が関与する可能性があるのです。

 

「コーヒーリング現象」のメカニズムのように「液滴」の乾燥過程が明らかになれば、生命の起源に近づくことも考えられます。コーヒーから生命の起源まで…ものすごい振り幅ですが、意外と何でもないアイテムに深淵なる法則が隠れているのかもしれませんね。

 

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referenced: jamstec, nature / written by かどや / edited by Nazology staff

 

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