2018年も残りわずか、間もなく新しい年が訪れます。正月を迎える準備にあたり、欠かすことのできないのが「鏡餅」。丸い餅を2つ重ねた上に橙(ダイダイ)を置く、日本の伝統的な正月飾りですが、ネット上では「どうして餅を飾るんだろう」「橙を置く意味って」などの声があり、そのルーツや意味について正しく説明できる人は少ないようです。使用する餅についても「四角い餅はダメ?」「食べる時に割ったら縁起が悪い気がする」など、さまざまな声が上がっています。

 和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

鏡餅はお迎えした年神様の依り代

Q.そもそも、鏡餅とは何でしょうか。

齊木さん「元旦には『年神様(としがみさま)』という新年の神様が、一年の幸福をもたらすために各家庭にやって来るとされています。お迎えした年神様の依り代(よりしろ)が、鏡餅です。年神様は、新しい年の幸福や恵みとともに、私たちに魂(=生きる力)を分けてくださると考えられてきました。その魂の象徴が鏡餅とされています」

Q.なぜ、鏡餅と呼ばれるようになったのですか。

齊木さん「鏡餅という名前は、昔の鏡に由来します。昔の鏡は丸い形をした『銅鏡』ですが、そもそも鏡は天照大神(あまてらすおおみかみ)から授かった三種の神器の一つであり、伊勢神宮をはじめ、ご神体としているところもたくさんあります。鏡餅は年神様の依り代ですから、ご神体としての鏡をお餅で表したことで鏡餅と呼ばれるようになりました。

一年の幸せを願う『晴れの日』に、神前にささげた餅を皆で分け合って食べることで、神様からの祝福を受けようという信仰・文化の名残なのです」

Q.餅の上に橙を置くのはなぜですか。ミカンなど他の果物で代用してもよいのでしょうか。

齊木さん「鏡餅には、それぞれ正月にふさわしい意味があり、橙もその一つです。橙は『代々』とも書き、1本の木に何代もの実がなることから長寿の家族に見立て、『家族の繁栄』『代々家が続く』ことを表しています。そのため、ミカンなどの代用は避け、橙を使用することでさらなる効果があると思われます」

Q.鏡餅はなぜ、丸い餅を2つ重ねるのですか。四角い餅を使ったり、数を変えたりしてもよいのでしょうか。

齊木さん「鏡餅の丸い形は、昔の丸い鏡を模した『魂』の象徴です。2つの大小の餅は陰(月)と陽(太陽)を表しており、この2つを重ねることは『福徳が重なる』という意味や『円満に年を重ねる』という思いが込められています。形や数を変えずに、古来の考え方に思いをはせてみるのはいかがでしょうか」

Q.鏡餅の正式な飾り方とは、どのようなものでしょうか。

齊木さん「地域や家庭によって異なる場合もありますが、一般的な飾り方は、三方(三方の側面に穴のある四角い台)にお供え用の白い奉書紙を敷き、紙垂(しで)、裏白(うらじろ)、譲り葉の上に大小2つの餅を重ね、昆布・橙などを飾ります。

飾り方は地方や家によってもさまざまで、串柿、勝栗、五万米(ごまめ)、黒豆、するめ、伊勢海老などの縁起物を盛るところもあります。石川県で多くみられるのは、2段の片方を紅く着色した、縁起がよいとされる紅白のもの。また、餅の代わりに砂糖で作ったもの、細長く伸ばしたものを渦巻き状に丸めてとぐろを巻いた白蛇に見立てたものなど地域によってさまざまです。それぞれ、『縁起がよい』と考えられるものを供えるのが特徴です」

Q.鏡餅を飾る場所はどこがよいのでしょうか。

齊木さん「鏡餅は年神様の依り代です。家の中で最も格の高い、床の間に置くことが理想的です。床の間がない場合は、リビングのように家族が集まる場所に飾ります。テレビの上のような騒がしい場所や見下すような低い場所ではなく、リビングボードの上などにきちんとお供えします。

また、神様は鏡餅をお供えした場所に依りついてくださります。鏡餅は複数、お供えしても構いません。台所、書斎、子ども部屋など、年神様に来ていただきたい大事な場所にお供えしましょう」

Q.鏡餅を飾る期間について教えてください。

齊木さん「12月28日までに飾るか、遅くとも30日に飾りつけます。29日は『苦』を連想させ、31日は『一夜飾り』で失礼になるので避けましょう。そして、1月11日の『鏡開き』でお供えしていた鏡餅を下げます」

Q.鏡餅は食べてもよいのですか。また、食べずに処分しても問題ないのでしょうか。

齊木さん「鏡餅は『供えたものを食べる』ことに意義があるので、雑煮やおしるこなどにして必ず食べることが大切です。年神様がいらっしゃる松の内(1月1日~7日。関西など15日までとする地方もある)が明けた1月11日鏡開きをして、お供えしていた鏡餅を下ろして食べます。

鏡餅を飾って処分をしては、単なるお供えものに過ぎません。鏡餅には年神様の御霊(みたま)が宿っており、鏡餅を開くことで年神様をお送りし、正月に一区切りをつけるのです。さらに、年神様の力が宿った鏡餅を頂くことでその力を授けてもらい、一年の一家一族の無病息災を願います。開いて食べてこそ鏡餅の本来の意味があります。

万が一、カビなどでどうしても食べられない場合は、1月15日(小正月)に神社などで行われる『どんど焼き』(正月飾り書き初めなどを燃やす行事)に持っていきます。どんど焼きで燃やしてもらい、天へお返しするのがよいとされています」

Q.鏡餅の正式な食べ方や、食べる際の注意点はありますか。

齊木さん「餅の開き方に注意しましょう。武家では、“切る”という言葉は切腹を連想させるため避けていたことに由来して、包丁を使わずに手や木槌などで割って開き(切ることを忌んで“開く”と表現)、食べていました。元々は主従や家族の親密を図る行事だったようです。特に正式な食べ方はありませんが、正月を過ぎた餅は固く乾燥していますので、主に雑煮や汁粉、焼き餅などにして食すとよいでしょう」

オトナンサー編集部

鏡餅のルーツや意味とは?