2005年に監督としてプロ野球千葉ロッテマリーンズを率いて日本シリーズを優勝したボビー・バレンタインさんが、本国であるアメリカに帰った後も日米親善を続けている。日本球界を去った後は米メジャーリーグの監督へ復帰。監督退任後は解説者などのキャリアを続けながら日本へのアンテナを常に張り続け、日米の親善やボランティア活動に取り組み続ける。

これらの活動が認められ、バレンタインさんは今春の叙勲で旭日小綬賞を受章。近年はニューヨーク近郊を中心に、日本関連のプロモーションに積極的に参加している。

11月8日に行われた東京都主催の東京プロモーションイベント「Eat Up Tokyo」ではパネリストとして出席し、日本の文化や食事、ツーリズムについて語った。そのバレンタインさんに、活動の源泉である日本に対する気持ちについて、お話をうかがった。


日本との出会いは野球が最初ではなかった
――日本で何年も活動されて今やすっかり日本通ですが、そもそもバレンタインさんと日本をつなぐきっかけはなんだったのでしょうか。

あまり言っていない話なんだけど、初めての日本との接点は野球じゃなくて高校生のときだったんだ。高校でやった劇で、僕は日本人の通訳役を任された。うん、僕が日本人の役だよ(笑)。今思えばそれが最初の日本との出会いだったな……。

その後、僕が初めて日本に行ったのは、1980年代。僕はメジャーリーグで初めてミズノ社のグローブを使った選手だったから、その縁で同社に招かれて来日したんだ。

――今から30年以上も前ですね! 当時はまだ日本の情報も今のようには広まっていませんし、アメリカでの日本食の認知度や人気も今ほどではないですよね。そのときには、すしなどの日本食も食べていましたか?

そのときに食べた日本食で記憶に残っているのは、すしだね。当時の自分にしては、箸をうまく使えたなと思っている。日本の人たちに囲まれて、初めてちゃんとした本物のすしを食べた。日本の人たちは礼儀正しいし、自分も失礼があってはならないと緊張しながらひとつひとつお寿司を食べていたら……口の中に違和感と衝撃を感じたんだ。

何かと思ったら、あの緑のプラスチックのギザギザのやつ(バラン)さ! あまりに緊張してバランも食べてたんだよね。そして、違和感とあわせて訪れた「衝撃」の正体は、バランにくっついていたワサビだった。

――鮮烈なすしのデビュー戦でしたね(笑)。すし嫌いにはなりませんでしたか?

大丈夫! すしは大好きだよ。アメリカ人からみた日本食のシンボルは、すしになっているし、僕もすしはよく食べる。でも周りにはもう一言加えているよ。「日本の肉を忘れるな!」と。重要だからもう一回言うけど「日本の肉を忘れてはいけない」。

日本のきめ細かなサシの入った肉で作るすき焼きは、口の中で肉が溶けて消える。最高だよ。あの素晴らしいすき焼きはもっとアメリカでも広まったらいいなと思っている。でも、アメリカでは生卵を食べる習慣がないから少し広がりにくいのかもしれないね。もっといろいろな場所で食べれるようになったらいいなと思うけれど。


日本滞在時に感じた震災の影響「できる限りサポートしたい」
――バレンタインさんが従事する日米の親善活動について教えてください。東日本大震災の後には、バレンタインさんはアメリカの少年野球グループを引率して岩手県大船渡市に行かれていましたね。

地震など日本の自然災害は、自分の心のどこかにいつもあるんだ。1回目に千葉ロッテマリーンズの監督を務めたのが1995年で、同じ年には阪神大震災が起きた。その爪痕をすごく感じていた。2011年に東日本大震災が起きたときには、まずニューヨークでファンドレイジング(寄付金の調達)に率先して取り組んだ。その後は、2014年に大船渡市へアメリカの少年野球チームを連れていき、被災地の子どもたちに野球指導で交流をした。

震災という想像もつかない経験が起きた地で、それを乗り越えようとしている人たちの姿に感動しているし、少しでも自分のできる力でそのサポートをしたかった。その後も、今度は被災地の子どもたちをアメリカに招待して、アメリカでも日米の野球交流を行ったよ。

――他にも日本企業や日本の行政が主催する日本関連のイベントにもニューヨークで参加されています。

ニューヨークでも日本に対する注目は高まっている。今回の「Eat Up Tokyo」みたいな日本のプロモーション活動にも貢献したいと思っているよ。今日行われたパネルディスカッションでは食事についてもいろいろ話したけれども、一つ付け加えるとすれば、日本の食事の素晴らしいところは日本食だけではないんだよね。イタリアンフレンチ、日本で食べる日本食以外の料理も本当においしいものばかりだ。あ、僕は祖先がイタリア系だから、イタリアンに関しては少しうるさいけど(笑)。その僕から見ても本当にレベルが高い。

これはお世辞ではなく、日本ではまずい食事に出合うことがまずない。僕自身も、もっと日本の食事を知りたいと思っているし、今後は都市部だけでなく田舎の、ローカルな食事をさらに食べたいよ。


日本は第二の母国、東京五輪の野球には注目
――バレンタインさんの行動力と日本への気持ちには頭が下がります。バレンタインさんにとっての日本とは何ですか?

それには、はっきりした答えがあるよ。日本は僕にとっての第二の母国。日本は僕にとって心の底から落ち着く場所であり、大事な友人だ。僕の人生にとってなくてはならないものの一つになっている。


――今後もこうした活動を続けていかれる予定ですか?

もちろん今後も日米の絆を深めることに貢献していきたい。まず思いつくのは東京五輪だよね。しかも今回のオリンピックには野球が戻ってきたから嬉しい! 確固としたアイディアはまだないのだけれども、2020年に向けて僕も何かできることを考えたいと思っているよ。
(迷探偵ハナン)