妊娠初期につわりを経験する妊婦さんは多くいます。吐き気などで大変だった人も安定期に入ると、だんだんと食事がとれるようになってきます。これに伴い、体重管理や出産に向けた体力づくりを目的に散歩やウォーキングを行う人も増え始めます。一方で、歩きすぎが良くないという話も耳にします。果たしてこれは本当でしょうか。そこで、妊娠中はどのくらい歩いてよいものなのか、また妊娠中にウォーキングする上での注意点について解説します。自分にとっての適切な運動を知り、安産を目指しましょう。



散歩やウォーキングはいつごろまでできる?

そもそも妊娠中は運動をしてよいのでしょうか。妊娠中は転びやすい運動やケガをしやすい運動、うつ伏せになるような運動は避けたほうがよいといわれています。一方で好ましいとされている運動もあります。それは全身を使う有酸素運動です。ウォーキングや水泳、マタニティヨガは適度に有酸素運動を行うことで、早産のリスクを上げることなく体力をつける効果が期待できます。とくにウォーキングは遠くに出かけずとも、一人でも近所で手軽に始められるため、おすすめの運動といえます。夜は足元が暗いので、朝や昼の明るい時間帯にしましょう。 ただし、自然流産の確率が高い時期は避けたほうが安心ですから、妊娠12週以降に行うとよいでしょう。妊娠のどの時期であっても、ウォーキングなどをしたい場合は、まずは妊婦健診の際に医師に相談してください。 では、ウォーキングは臨月に入っても行ってよいのでしょうか。臨月とは妊娠36週~39週目までを指します。この時期に限ったことではありませんが、お母さんの体調や体力、おなかの赤ちゃんの体重増加なども人によって違います。基本的にウォーキングをすること自体は問題がありませんが、自分が行ってよいのかどうかは、産婦人科の先生に相談しましょう。



歩く時間と距離の目安 妊娠中の運動強度は、妊娠していないときの70%が望ましいとされています。ウォーキング時も70%程度を守るようにし、「きつい」と感じない程度のペースや距離を心がけましょう。実際に歩ける距離については、妊娠前の体力なども関係しているので一概にはいえませんが、時間としては60分以内にしましょう。 妊娠中は普段よりも息切れがしやすかったり疲れやすくなったりするので、無理は禁物です。家事をしているだけでも体力は使います。長時間の運動は避け、こまめに休憩をとるようにしましょう。1回に長距離を速いペースで歩くのではなく、無理のないペースで週に2~3回やるとよいでしょう。毎日行う必要はありません。



歩き方のポイント 妊娠中は身体が大きくなった子宮を支えようとするため、姿勢が崩れて背中や腰に負担がかかりやすくなります。 ですから、歩く際は背筋を伸ばしてお腹は軽く引っ込めるイメージを持ち、重心はやや前方に置くように意識するとよいでしょう。また、階段を昇り降りする必要がある場合は必ず手すりにつかまり、背筋をまっすぐ伸ばすようにします。ゆっくりと昇り降りし、足がしっかり地面に着地していることも確認してください。



歩きすぎによる流産や早産のリスク

妊娠中に適度なペースで歩くことには、妊娠中の健康増進やストレスの発散などのメリットがあります。 しかし、激しい運動をすると子宮が収縮しやすくなります。また、歩きすぎて疲れがたまると、お腹も張りやすくなって、早産や流産のリスクを高めますのでやめましょう。とくに過去に流産や早産を経験している人は注意が必要です。 また、こうした既往がない場合でも、立ちくらみや頭痛、呼吸困難、胸の痛み、太ももの痛み、お腹の張りや圧迫感、腰痛、出血、胎動の減少や消失、羊水が流れ出る感覚などがある場合にはウォーキングは中止し、休んでください。それでも症状が続く場合はかかりつけの病院を受診しましょう。 旅行や遠出はリスクが高いので、慎重になる必要があります。必ず医師に相談してからにしましょう。



ウォーキング中に、お腹が痛む場合は?

妊娠中は、妊娠していないときに比べてお腹が痛くなることが増えます。腹痛の原因の一つとして、便秘が挙げられます。妊娠中は、子宮が大きくなることで腸が圧迫され便秘になりやすくなります。そんな中でウォーキングをすると、腸が刺激されて腹痛を感じることがあります。すぐに良くなる場合やトイレに行って改善する場合は、とくに心配はいらないでしょう。 また、妊娠初期には赤ちゃんの成長に伴って子宮も大きくなり、その周辺のじん帯も引っ張られます。これによって、生理痛のような痛みを訴える人もいます。ほかに症状がなければ大丈夫でしょう。 妊娠中期以降になるとお腹が張る回数も増えるため、これを痛みと感じる人もいます。ウォーキング中にお腹が張ったときは、まずは休憩しましょう。休んでよくなれば、問題ありません。しかし、安静にしていても痛みが続いたり、腹痛以外に出血や破水などもみられたりする場合は、病院で診察を受けましょう。



歩きすぎで足がむくんだり、筋肉痛になったりした場合の対処法

妊娠中は体重が増加することはもちろん、妊娠前とは身体の重心も異なります。ですから、自分では長く歩いたつもりでなくても、終わってみると筋肉痛になっているということがあるかもしれません。 また、妊娠中は胎児に血液を送り届けるために血液の量が増加し、その影響でむくみやすい状態になっています。加えて妊娠後期になると、大きくなったお腹が太ももを圧迫し、リンパの流れが滞ってさらにむくみやすくなります。その状態で歩きすぎて疲れがたまると、血液の流れがさらに悪くなり、むくみの症状を感じることがあります。 筋肉痛があったり足がむくんだりする場合は、足を温めたり、横になって足元にクッションを置いて足を高くあげるようにしてみましょう。これによって血流が良くなり、筋肉痛やむくみの改善が期待できます。また、水分を多く摂ったり、塩分が多いものは控えたりするなど食べ物や飲み物を工夫するのも一つの方法です。 ウォーキングは本来、妊娠中のむくみ予防に役立つ運動です。それが逆効果にならないように、歩く距離や時間はしっかり管理しましょう。



散歩やウォーキングの際の注意点 妊娠中に散歩やウォーキングなどをはじめとする適度な運動をすることは、妊婦の健康増進を図ったり体重の増えすぎを予防したりするなどの点から、望ましいことといえます。しかし、これはあくまでも妊娠経過が順調なことが前提となります。次のような場合は運動をしてはいけないといわれています。




『 ・重大な心疾患や呼吸器の疾患がある ・過去に早産の経験がある ・切迫流産や切迫早産を経験している ・子宮頸管無力症(子宮口が開いてしまう)や子宮頸管長短縮(子宮頸管の長さが短い)と診断されている ・破水している ・継続して性器出血がある ・前置胎盤、低置胎盤など胎盤の異常が指摘されている ・妊娠高血圧症候群である 』




このほか多胎妊娠をしている場合や何らかの持病がある人は、運動を控えるように指示されるかもしれません。自分で判断するのは危険ですから、ウォーキングなどの運動をする場合はまずは医師に確認するようにしてください。 そして、妊娠中の自分に合った距離や時間を把握し、それを守ることも大切です。また、家から近くのスーパーまでの買い物でも「結構歩いたな」と感じるようなときは、帰りの移動手段を変更するなどして身体への負担がかからないようにしましょう。電車や車、バスなどを利用して公共交通機関を利用するときは、我慢せずに席を譲ってもらってくださいね。 とくに仕事をしている人は、産休に入った途端に開放的な気持ちになり、油断をしていつもより活動してしまうかもしれません。気分転換は大切ですが、無理をすると自宅での絶対安静や入院、点滴や薬の処方などが必要になることもあります。無事にお産を迎えるためにも、一番大切なことは身体の声に耳を傾け、体調の変化に気を配ることです。不安になりすぎることなく、油断しすぎることなく、赤ちゃんの誕生を楽しみに予定日までゆったりとした気分で生活してくださいね。



執筆者:南部 洋子(なんぶ・ようこ) 助産師・看護師・タッチケアトレーナー。株式会社 とらうべ 社長。国立大学病院産婦人科での勤務を経て、とらうべ 社設立。医療職が企業人として女性の一生に寄り添うことを旨とし、30年にわたって各種サービスを展開中。 監修者:株式会社 とらうべ 助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士などの医療職や専門家が在籍し、医師とも提携。医療や健康、妊娠・出産・育児や女性の身体についての記事執筆や、医療監修によって情報の信頼性を確認・検証するサービスを提供。

参考文献 茨城県立医療大学紀要 第20巻 妊娠中の歩行運動が妊娠・分娩・産褥期に及ぼす効果 産婦人科部会 妊婦スポーツの安全管理基準 日本産科婦人科学会 日本産婦人科医会 産婦人科診療ガイドライン 産科編2017 松戸市 赤ちゃんができたら~妊娠編~



妊婦の歩きすぎはNG?ウォーキングの頻度や切迫流産のリスクは?