妊娠中は、むくみに悩まされることが珍しくありません。妊娠するとなぜむくみやすくなるのでしょうか。そのまま放っておいてもよいものなのでしょうか。原因や対処法について解説します。



妊娠中にむくみやすいのはなぜ?

■むくみが起きる原因

妊娠の有無にかかわらず、女性は男性よりもむくみやすい体質の人が多いものです。中でも下肢のむくみに悩みを持つ人は多いようです。これには女性が男性に比べて筋力が少ないことが関係しています。ふくらはぎには、足の血液を心臓に戻すためのポンプ機能があります。筋力が少ないと、この機能も弱く、血液が心臓に戻りにくくなって足に溜まりやすくなります。その結果、むくみの症状が出ることがあります。また、長時間の立ち仕事やデスクワークなどの生活習慣による負担、運動不足、冷え性などもむくみに関係しています。

■妊娠との関係

このような要因に加えて、妊娠中は次のような理由からいつも以上にむくみやすくなります。


【理由①】水分量の多い血液の増加 妊娠後は、お腹の赤ちゃんの発育に必要な水分や栄養を送るため、ママの血液は妊娠前に比べて約1.3~1.5倍も量が増えます。妊娠中はママの体重が増えますが、これは赤ちゃんや羊水の重さだけでなく、血液が増えることも関係しています。 ただ、血液に含まれるすべての成分が同じ割合で増加するわけではありません。赤血球などに比べて、血液中の血漿成分などの水分のほうがより増えることがわかっています。つまり、妊娠中は妊娠前よりも水分量が多い血液状態となっているのです。その結果、血液中の水分が血管の外の皮下組織ににじみ出しやすくなり、むくみ(浮腫)が起こりやすくなります。 【理由②】ホルモンバランスの変化 妊娠中はホルモンバランスが変化します。この影響を受けてむくみの原因となるナトリウムが体内に溜まりやすくなっています。 【理由③】お腹が大きくなることによる血管の圧迫 とくに妊娠後期になると、赤ちゃんの成長に伴って子宮も大きくなります。すると、太ももの付け根に負荷がかかり、下半身の血液を心臓に送る下大静脈という太い血管が圧迫されやすくなります。その結果、血液の循環が悪くなって下半身に血液が溜まりやすくなります。これも妊娠時にむくみやすくなる理由です。 』




妊娠によるホルモンバランスの変化と体型の変化などが重なることから、出産後に下肢静脈瘤(脚の静脈を流れる血液が心臓に戻らずに溜まってしまう病気)を発症する人もいます。



むくみが起こるのはいつからいつまで?

血液量の増加は、赤ちゃんが入っている袋である「胎嚢(たいのう)」が確認される、妊娠5~6週には始まります。妊娠週数が進んで、妊娠後期にあたる妊娠36週頃には血液の増加量が最大になります。そのため一般的には、臨月が近づく妊娠後期になるほど、むくみやすくなるといえるでしょう。



むくみを放置するのは危険?

妊娠中にむくみやすくなるのは、妊娠特有の生理的な変化によるものです。でも、中には病気が原因でむくむこともあります。 そのひとつが「妊娠高血圧腎症」。かつては「妊娠中毒症」と呼ばれていた、妊娠高血圧症候群のひとつです。妊娠20週~産後12週までのあいだに高血圧と蛋白尿がみられたり、腎臓やその他の臓器の障害、血液が固まりにくい症状などがみられたりする病気です。重症化すると、けいれんや全身の臓器の障害、肺水腫や脳卒中を引き起こすこともあります。また、出産の時期ではないのに胎盤がはがれる「常位胎盤早期剥離」が起きて妊娠が継続できなくなったり、胎児の発育の遅れや死産の原因になったりもします。 また「深部静脈血栓症」も、むくみを症状とする病気のひとつです。これは、足などの静脈に血栓ができて血行不良になる病気で、できた血栓が血液とともに流れて肺の血管に詰まってしまうと、死に至ることさえあります。



むくみが出やすい部位

妊娠中の生理的なむくみ、とくに妊娠後期のむくみは、下大静脈が子宮に圧迫されることが関係していることもあり、症状が出るのは主に両脚や足首です。ただ、手などにむくみの症状が出ることもあります。 これに対して、むくみが全身にみられるような場合は、妊娠高血圧腎症が関係している可能性もあるので、注意が必要です。 生理的なむくみと危険なむくみの見極め方のひとつとして、左側を下にして横になったときの状態をチェックするという方法があります。左側を横にすると下大静脈への圧迫が軽減されるため、この姿勢でむくみが解消される場合は病的なむくみのリスクは低いと考えられます。また、痛みを伴うほどの強いむくみや、急激な体重増加が伴うむくみかどうかもチェックポイントのひとつです。 むくみの出方や痛みなどの症状の有無によっては、妊婦さんやお腹の赤ちゃんに悪影響が出ることもあります。妊婦健診でもむくみの状態を確認しますが(すねのあたりの皮膚を押して反応を見る)、普段からむくみの症状がある場合は、先生に直接そのことを伝えるようにしましょう。



手足にしびれや痛みが出るのはなぜ?

原因 妊娠中は、むくみに加えて手足のしびれや痛みを感じる人もいます。これは、むくみによって手足の神経が圧迫されることが原因と考えられます。とくに手に起こる症状は「手根管症候群」とも呼ばれます。



対処法 手足にしびれの症状が出たときは、手足を振ったり、指を曲げるなどして軽く動かしたり、マッサージをしたりしてみましょう。血行が促進されて症状が和らぎます。気になるときは医師や助産師に相談してみましょう。



むくみ解消におすすめの食事

◆むくみ解消におすすめの食べ物 むくみ予防や解消のために食生活を見直すことは大切です。まずは日々の塩分摂取量を意識して、減塩を心がけてください。ナトリウムを含む塩分の過剰摂取は、むくみを悪化させたり、妊娠高血圧症候群の誘因になったりもします。塩分濃度の高いしょう油や味噌の多い食事よりも、出汁や素材の味を生かした食事を心がけ、外食は控えるようにしましょう。 また、むくみの症状が出ているときには、りんごやバナナなどの果物、海藻類などカリウムを多く含む食材を摂るとよいでしょう。カリウムには、余分なナトリウムを排出する働きがあります。



◆むくみ解消におすすめの飲み物 こまめに水分を摂るようにしましょう。ただし、カフェインを含む飲み物は利尿作用がある上に、血管を収縮させる作用があります。血管が収縮すると赤ちゃんにとって必要な栄養素が充分に吸収されず、発育に悪影響を及ぼします。コーヒーの場合は一日2杯までを目安としましょう。また、身体の冷えにつながるため、冷たい飲み物よりも温かい飲み物を摂るようにしましょう。ハーブティーリラックス効果が高いことで人気ですが、妊娠中は飲んでよいものと控えたほうがよいものがあります。必ず確認してから飲むようにしてください。



妊娠中に限ったことではありませんが、栄養バランスの良い食事が何より大切です。とくに妊娠中は鉄分や葉酸、カルシウムを積極的に摂りましょう。また、n-3 系脂肪酸(EPAやDHAなど)が多く含まれる青身魚も、感染症や水銀量に注意しながら取り入れるとよいでしょう。



普段からできるむくみの予防法

簡単にできるむくみ対策を紹介します。



【対策①】アイテム(クッションソックス)の活用 横になったときにクッションなどを足元に置き、足を高くして寝てみましょう。下半身の血液が心臓に戻りやすくなって、むくみの予防につながります。また、むくみ解消グッズとして知られる着圧ソックスを活用するのも方法のひとつです。



【対策②】運動 ウォーキングや散歩、水泳などの有酸素運動を適度に行うと、全身の血流が良くなり、むくみの予防や解消につながります。また、妊婦体操やストレッチなどもよいでしょう。 ただし、このような運動は、妊娠の経過が良好で母子の状態が安定していることが前提となります。つわりが軽かったり安定期に入っていたりしても、自分が運動を行えるかどうかは医師に確認するようにしてください。 妊娠中期以降はお腹の張りを感じやすくなりますので無理はせず、体調が悪いときや、運動の途中で疲れやお腹の張りを感じた場合は、必ず休むようにしましょう。



【対策③】マッサージ リンパマッサージもむくみの予防効果が期待できます。足先から膝に向かって、リンパ液の流れを良くするように両手でマッサージしましょう。デスクワークや立ち仕事などの人は、休憩のときなどにやってみるのもよいですね。ただし、足には「三陰交」(内くるぶしから指四本分上のあたり)などのツボがあります。三陰交は子宮を刺激するといわれているツボで、妊娠期に自己判断で強く圧迫することはやめたほうがよい場所です。リンパマッサージをするときもあまり力を入れすぎないようにしましょう。



【対策④】締めつけの少ない服装 衣服は、身体の締めつけの強いものは避けましょう。ゆったりしたサイズを選んだり、マタニティウェアを着用したりするようにしてください。かかとの高い靴も妊娠中は履かないようにします。また、結婚指輪がきついと感じる場合は外しましょう。



【対策⑤】冷え対策 入浴時は湯船につかり、シャワーで済ませる場合も、足首の部分まで入るくらいのお湯で足湯をするなどしましょう。血行を良くして冷えないように気をつけることも、むくみの予防につながります。また、最近では冷房の影響などで、夏でも冷えることがありますから要注意です。季節に関係なく靴下を着用したり膝掛けやレッグウォーマーを用意したりするなど、工夫しましょう。



妊娠中はむくみに悩まされる人が多いですが、毎日のケアで症状を軽くすることができます。今回ご紹介した方法は、日常生活に気軽に取り入れられるものばかりなので、ぜひ試してみてください。 ただし、妊娠中のむくみは病気のサインとして出ていることもあります。病気を原因とするむくみは、お母さんだけでなくお腹の赤ちゃんにも影響を与えます。過度に心配する必要はありませんが、症状が軽くならないときや他に気になる症状があるときには、必ず病院を受診しましょう。小さなことでも、主治医や助産師に相談すると安心です。



執筆者:青井 梨花(あおい・りか) 助産師・看護師・タッチケアトレーナー。病院や地域の保健センターでの勤務を経て、株式会社 とらうべ 社員。妊娠・出産・育児相談や女性の身体の悩みに関する相談に親身に応じ、赤ちゃんタッチ講師も務める。一児の母。 監修者:株式会社 とらうべ 助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士などの医療職や専門家が在籍し、医師とも提携。医療や健康、妊娠・出産・育児や女性の身体についての記事執筆や、医療監修によって情報の信頼性を確認・検証するサービスを提供。
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