米国株式市場展望(前編)

2018年が混乱の中で幕を閉じ、2019年がスタートしました。今回は2019年展望の前編として、注目度の高いテクノロジー分野と大型IPOのポイントをまとめてみました。

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クラウド、AI、eコマースに注目

GAFAをはじめとするテクノロジー株主導で米株式市場が調整局面に入ったことで、今年の相場を占う上でもハイテク株の動向に高い関心が集まっています。

ただ、株価は急落しているものの、ウォール街のテクノロジーに対する信頼は厚いようで、株価の下落は投資のチャンスと前向きに捉えられているようです。

12月14日付のバロンズでは、最近の株価下落は長期的な成長が期待できる銘柄の買い場を提供していると指摘。中でも、「クラウドコンピューティング」、「人工知能(AI)」、「デジタルコマース」を様々な分野に大きな変化をもたらす3大テクノロジーとして2019年の投資機会を分析しています。

参考:How to Play Tech’s Top 3 Themes for 2019(BARRON'S, 12/14/2018

クラウド分野ではAMDが躍進か

クラウドコンピューティングの勝者がアマゾンアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)とマイクロソフトのアジュールであることは議論の余地のないところでしょう。加えて、インテルもクラウド向けサーバー半導体の主要メーカーとして恩恵を受けています。

ただし、2019年により大きな勝利を収める可能性があるのはインテルのライバルであるアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)になりそうです。

同社は11月、次世代の微細加工技術である7ナノメートル(nm)技術を使用したサーバー用CPUであるローム(Rome)を2019年に発売すると発表しています。インテルの次世代サーバーCPUは10nmの加工技術を使用しており、出荷時期は2020年初めとなっていますので、AMDインテルよりも高性能な製品をより早く出荷する見通しとなっています。

加工技術の微細化は半導体の高速化と省エネルギー化を可能にします。証券会社カウエンのアナリストは、「来年は消費電力当たりの性能でAMDが初めてインテルよりも優位に立つことになる」との見方を示しています。

AMDのシェアは現在1%以下に過ぎませんが、同社のリサ・スー最高経営責任者(CEO)は、Romeによって25%以上のシェアを目指すと述べるなど、鼻息も荒くなっているようです。

また、インテルは今年1月初め、同社の半導体であるスペクターとメルトダウンに脆弱性があることを認め、この問題に対処する修正プログラムを提供しています。インテルセキュリティ上の脆弱性が懸念されていることもAMDには追い風となりそうです。

AIでは自動運転関連銘柄に注目

AIの応用で最も注目されているのが自動運転車です。JPモルガンのアナリストは13日付のリポートで、アルファベット子会社で自動運転技術を開発するウェイモがアルファベットの次のビッグビジネスになると指摘しています。

RBCキャピタル・マーケッツの推定では、自動運転タクシーの市場は2050年までに3兆8000億ドル(約420兆円)に達する見通しです。また、インテルのボブ・スワン暫定CEOは完全な自動運転車が5年から10年以内に実用化すると述べています。

eコマースではペイパルとグラブハブに注目

eコマースではペイパルとグラブハブが注目されています。

米調査会社モフェットネイサンソンのアナリストは13日のリポートで、ペイパルフェイスブック(FB)が電子商取引分野の提携の拡大を今後数カ月以内に発表すると予測しています。

リポートによると、新たな合意によってフェイスブックのインスタグラム(写真共有サービス)とワッツアップ(メッセージ・アプリ)はそれぞれペイパル4000万~6000万人のユーザーを送客し、フェイスブックの電子商取引サイトであるマーケットプレイスはペイパルの取扱高を年間15億ドル増加させると推定しています。

一方、資産運用会社グッゲンハイムのアナリスト、マシュー・ディフリスコ氏はグラブハブをオンライン・フードデリバリーの分野のリーダーであると言及しています。

その上で、サードパーティー型のオンラインフードデリバリー市場における同社のシェアはほぼ50%と、最も近い競争相手の2倍以上であると試算。同氏はグラブハブが今後数年にわたり年間25%の増益を達成できると予想しています。

2019年は大型IPOに波、ウーバーとリフトが試金石に

来年は、ライドシェアのリフトとウーバー、宿泊プラットフォームのエアビーアンドビー、社内コミュニケーションツールスラック、画像共有のピンタレスト、シェアオフィスウィーワークといった有名企業の新規株式公開(IPO)が予想されています。

来年のIPOの調達金額は、2014年の850億ドル以来最大の600億ドル以上と予想されており、投資家心理が冷え込んでいることもあって、市場活性化のカンフル剤として大型ユニコーン企業の上場に期待が集まっています。

とはいえ、公開前の高いバリュエーションが、少なくとも短期的には失望につながる恐れがあります。

IPO関連情報を提供するIPOScoop.comによると、米国内でIPOを実施した直近の100社のうち、65社の株価が公募価格を下回っています。2018年のIPOについては、公募価格からのリターンはマイナス2.3%となっています。また、IPO銘柄の上場投資信託(ETF)を運用するルネサンス・キャピタルによると、初日終値からのリターンはマイナス16.9%となっています。

また、ここ数カ月の株式市場ではハイテク銘柄が顕著に下落したことから、非公開企業のバリュエーションに圧力がかかっており、上場が見送られるケースがあるかもしれません。

そんな中、来年初めには市場を占う大型IPO案件としてリフトとウーバーの上場が予定されています。

インスティテューショナル・ベンチャー・パートナーズのゼネラルパートナーを務めるサンディー・ミラー氏は、「市場が好意的に反応すれば、より小さなユニコーンもこれに続く可能性がある」と述べています。ユニコーンとされる企業は全世界に約300社あり、1兆ドルの価値を持っていると推定されています。

IPO調査会社マンハッタン・ベンチャー・パートナーズは、リフトの公正市場価値を190億ドル、ウーバーを520億ドルとしています。想定内の価格で両社が上場を乗り切れるのかどうか、19年を占う試金石の一つとなりそうです。

報道によると、スラックは投資銀行のゴールドマンサックス(GS)を来年のIPOの主幹事会社に起用しており、ピンタレストは早ければ4月のIPOに向けて、1月に幹事会社を検討すると考えられています。

ユニコーン投資、上場後数カ月は待つべき?

ユニコーンが上場する場合、投資家はその事業に関する基本情報を、通常IPOの数週間前に提出される申請書類で確認し、上場している他社と比較することができます。ただし、ユニコーンの資本やガバナンスの構造は、株主に優しいとは限りません。

ユニコーンには平均8種類の株式クラスがあり、ブリティッシュコロンビア大学のウィル・ゴーナル教授とスタンフォード大学のイリヤ・ストレブラエフ教授の研究によると、その一部は普通株主よりも有利な条件の転換優先株式であることが多いとしています。

ユニコーンはそれらの優先株式によって評価額が過大になっている場合があり、「普通株式はあらゆる保護を欠いており、56%過大評価されている」と同研究は指摘しています。

ファーストハンド・テクノロジーオポチュニティーズ・ファンドのマネジャーケビンランディス氏は「単純な話で、本当に注目されているIPOであれば、バリュエーションもかなり高くなる。公開市場で購入しようとすれば払い過ぎになる。6カ月待つのが入り口として妥当だ」とアドバイスを送っています。

フロリダ大学でIPOを研究するジェイ・リッター教授は、「一つのフェイスブックにつき、誰も聞いたことのない失敗企業が100社存在する」との見方を示しています。

2019年は大型IPOの波が予想されていますが、デビュー直後のユニコーンへの投資は意外とリスクが高いことがうかがえますので、投資には慎重さが求められそうです。

参考:Why Investors Should be Wary as the Unicorns Finally Seek IPOs(BARRON'S, 12/ 21/2018