(花園 祐:中国在住ジャーナリスト)

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 筆者の住む上海市内の住宅団地(中国語で「小区」といいます)では、数カ月前よりゴミの分別収集が行われるようになりました。

 中国では経済成長に伴って深刻になってきたゴミ問題に対応するため、2017年3月に国務院が「生活ごみ分別制度実施計画」を発表し、2018年から全国主要46都市でゴミの分別収集を試験的に実施しています。中国のその試みは、ゴミ処理施設の建設で高い競争力を持つ日系重機メーカーの受注増加にもつながっています。

 そこで今回は、上海市で行われているゴミの分別収集状況と、最近の中国のゴミ事情について紹介したいと思います。

ゴミを4種類に分別

 これまでの中国のゴミ収集は、住宅前のポリバケツの中に捨てられたゴミを廃品収集業者が勝手に収集するというシステムでした。ゴミの分別は行われません。また、住民はゴミを何時に捨てても大丈夫でした。

 しかし、2018年から中国の全国46都市でゴミの分別収集が始まります。住民はゴミを「生ゴミ」、包装紙をはじめとする「一般ゴミ」、金属やプラスチックなどの「資源ゴミ」、電池や一部家電などの「有害ゴミ」の4種類に分けて捨てなければならなくなりました(下の写真)。

 ゴミが出たらまず家庭で分別し、ゴミ収集所に持っていき、4つの色に色分けされたポリバケツの中へ捨てます。生ゴミと一般ゴミは基本的に毎日1回収集されます。資源ゴミと有害ゴミは、一定量が集まったところで業者へ連絡すると収集してくれるという仕組みです。

指導員が見張ってルールを徹底

 ゴミを捨てる時間も指定されるようになりました。筆者の住む小区では、ゴミを捨てていい時間は7~10時と17~20時の2回です。それぞれの時間帯には常にボランティアの指導員がゴミ収集所に立って、分別内容の確認、指導を行っています。もっともこの指導員は本当は「ボランティア」ではなく、共産党員である住人が党組織の指令を受けてやっているのではないかと推察されます。

 活動自体は比較的しっかり行われています。指導員がゴミ袋の中身を確認して、どのゴミがどの種類に当てはまるのかなどを教えている姿が毎朝見られます。

 またゴミ捨ての際、きちんと分別ルールに従っていると、指導員からエコポイント(「緑色積分」といいます)をもらうことができます。貯めると日用品などと交換できるポイントで、自治体ごとに管理運営されています。なお、筆者の住む地区では交換品の中にゴミ袋も入っていました。

分別開始によって何が変わったか?

 ゴミの分別が始まって何が変わったのでしょうか。

 筆者が第1に感じた点としては、ゴミの散乱が減りました。以前はゴミ収集場所にあるポリバケツに住人たちが勝手気ままにゴミを投げ捨て、それを廃品収集業者たちが漁り、結果的にゴミが周囲に散乱するという光景がよく見られました。それが分別収集が始まって以降、ゴミを漁りに来る業者が減りました。やはり、指導員が立つようになった効果が大きいのでしょう。ポリバケツも、満杯になる前に指導員がすぐ新しいポリバケツを用意するので、ゴミの散乱はあまり見なくなりました。

 第2に、ゴミ収集車の作業時間が短くなりました。筆者の住んでいる部屋はゴミ収集場所に近いため、ゴミ収集車が来るとエンジン音ですぐに分かります。以前と比べると、エンジン音を聞く時間が確実に短くなっています。ゴミ収集車が、来てもすぐに作業を終えていなくなるからだと思われます。

 また、収集時に窓を開けていると漂ってくるゴミの臭いも、以前より弱くなった気がします。おそらく分別によってゴミの量が減った、もしくは収集がはかどるようになったからではないかと見ています。

 このほか、分別収集が始まった当初は、ゴミ捨て場の前で指導員と住人がルールを巡って朝早くからよく言い争いをしていました。その大きな声でよく起こされたものですが、開始から数カ月経った今は言い争いの声は聞こえなくなりました。おそらく住人の間でもルールが浸透してきたのでしょう。

政府の評価はアモイ市が全国トップ

 実は筆者は心の中で、中国人にゴミの分別をやらせるなんて人類の有人火星着陸よりも難しいミッションではないかと思っていました。ところが、前述の通り徐々にですが住民の間にゴミ分別は浸透し、成果を上げてきています。

 ただし、これはあくまで住民が裕福な上海市での出来事です。ほかの中国の都市でも同じ状況かは不明です。そこでネットで調べたところ、役人に競争意識を持たせる目的か、中国政府が試行対象の46都市のゴミ分別状況を採点して順位付けし、公表していました。

 この順位表によると、2018年第2四半期においてはアモイ(厦门)市が全国トップで、上海市は5位につけています。上位は、やはり中国国内でも裕福な都市が名前を連ねています。とはいえ、上海よりゴミ分別で評価の高い都市が他に4市存在する模様です。

中国のゴミ排出量は日本の10倍以上

 では、そもそもなぜ中国はゴミの分別収集に乗り出したのでしょうか。理由はいたってシンプルで、近年になってゴミの量が膨大になったため、収集効率を向上させることが必要になったのです。

 現在の中国のゴミ排出量はどの程度なのか。今のところきちんとした政府統計は出されていませんが、清華大学の環境学教授の調べでは年間4憶トン超という推計値が出ています。

 また、環境関連の情報発信を行っている「大話新能源」というネットユーザーが各ゴミ関連公開データから総量を詳細に分析しています。この人物の試算によると、中国人1人当たりの平均ゴミ排出量は1.16kg/日、中国全土の合計ゴミ排出量は年間5.8億トンという数字が出ています。

 日本の環境省の発表によると、2016年における日本の1人当たり平均ゴミ排出量は0.925kg/日、日本全国の合計ゴミ排出量は年間4317万トンです。つまり、現時点で中国の1人当たり排出量はすでに日本を上回っています。合計排出量に至っては人口差も加わって10倍超の数値に達していることとなります。

日系重機メーカーに吹く追い風

 中国では、増え続けるゴミの収集だけでなく、その後の焼却施設の整備も急務となっています。その影響を受けてか、近年、発電機能を備えたゴミ焼却施設を建設する際に、日系重機メーカーの受注が相次いでいます。中国におけるゴミ分別の普及が日系メーカーにとって追い風となっているのです。

 上の表の通り、2018年だけでも日立造船が2件、川崎重工業に至っては6件も連続受注に成功しました。またJFEエンジニアリングも、2015年に中国自動車メーカービッグ3の一角である、東風汽車のグループ会社とゴミ焼却施設事業で合弁会社を設立するなど、中国での営業を強化しています。

 中国メディアの反応を見ていても、焼却施設の建設技術や実績があることは言うまでもなく、日本はゴミの分別において世界で最も進んだ国であり、ゴミ問題においては見習うべき点が多いとよく紹介されています。

 日本がよく誇る環境技術は「実際には言うほど大したものでない」というケースが多いのですが、ゴミ焼却関連プラントに関しては、文句なしに技術力が高いと太鼓判を押すことができます。筆者は、もっと世界にアピールすべきだとかねてより評価していました。それだけに同じ発電施設なら日本は原発の輸出よりも、環境改善を旗印にもっとゴミ焼却施設を官民挙げて売り込むべきではないでしょうか。

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