1912年、イギリスからアメリカを目指しながらも氷山に衝突し沈没したタイタニック号の悲劇は、レオナルド・ディカプリオ主演の映画『タイタニック』などで知っている人も多いだろう。

だが、そのタイタニック号に搭載予定だった自動演奏楽器が奇跡的に現存していること、しかもそれが日本にあることは知らない人が多いのでは?

自動演奏楽器とは、機械で自動的に曲を演奏する楽器のことで、オルゴールもそのひとつ。なかには太鼓やシンバルのような打楽器まで付いたオーケストラ規模の演奏ができるものもある。1800年代後半から1900年代初頭にかけて、ヨーロッパで王侯貴族やブルジョアたちが迫力の演奏を楽しむために作られたのがその最盛期。その後、アメリカにも技術が伝わり、レストランなどに設置されて、客がコインを入れて1曲ずつ楽しむスタイルが人気を呼んだ。オーディオ機器のなかった時代、これらは人々が気軽に音楽を楽しむための手段だったのだ。

山梨県「河口湖 オルゴールの森美術館」には、そんな古き良き時代オルゴールや各種自動演奏楽器が勢ぞろい。そのひとつに、タイタニック号に搭載予定だった自動演奏楽器もある。

ドイツのウェルテ社が製作した「フィルハーモニック・オーケストリオン ―タイタニック・モデル―」。高さ3.1メートル、幅2.3メートル、奥行き1.2メートルという巨大サイズで、その演奏は約80名編成のオーケストラにも匹敵するのだという。

もともとはタイタニック号の一等客室サロンに設置するために特注されたものの、搭載が出航に間に合わず、奇跡的に難を逃れることに。現在は富士山を間近に望む同館のメインホールに飾られ、1日数回のコンサートでその音色を訪れた人に披露している。

オルゴールというと小さな箱型のものが多いが、同館のメインホールに並ぶ歴史的な自動演奏楽器たちはサイズも音色も迫力もまったく違う。趣と温かみのある音色は胸に響き、聴いているだけで当時の華やかな社交場の様子が目に浮かんでくるようだ。
金管楽器の音がキャビネットを通すことでより柔らかくなるんですよ」
とは担当者の弁。さらに冗談っぽく、
「日本人がオルゴールの金属の音を好むのは、仏壇の御鈴に通じるところがあるからかもしれませんね」
と続けたが、なるほど、たしかに一理あるかも。

館内にはこのほかにも、世界最大規模の自動ダンスオルガン「モティエ」、音楽を奏でる機械人形「オートマタ」など、見ごたえのある展示がズラリ。ここに来れば、オルゴールに対するイメージがガラリと変わる人も多いはずだ。

一部のアンティークオルゴールは購入もでき、気になる価格は100万円前後。なかには売約済みの札もあり、聞けばカフェなどの経営者が購入しているとか。もちろん、ミュージアムショップでは数千円のかわいらしいオルゴールも販売しているのでご安心を。

ちなみに敷地内にあるレストランではタイタニック号に積まれていたワイン「トラベーナー・ウルツガルテン・カビネット」も飲める。フルーティでやや甘いリースリングというブドウ品種を使ったドイツワインだ。また、ちょうど今の時期は夕方から冬季限定のライトアップも楽しめ、雪化粧の富士山を撮れる絶景フォトスポットとしても人気だ。

広々とした庭園には美しいローズガーデンなどもあり、もはや単なる美術館というより、テーマパークといった感じの「河口湖 オルゴールの森美術館」。オルゴールにはあまり興味がなくて……という人にもぜひ足を運んでほしい隠れた名スポットだ。
(古屋江美子)

メインホールに並ぶ自動演奏楽器の名器たち。タイタニック・モデルも堂々とした佇まい