食品産業センター・村上秀徳理事長

食品産業センター・村上秀徳理事長

食品産業センターの村上秀徳理事長は、2018年を振り返り、災害への対応と国際交渉の進展に言及した。昨年は、大阪府北部地震北海道胆振東部地震、7月豪雨、台風と多くの災害に見舞われた。また、国際的にはTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)が発効、日EU・EPA(経済連携協定)の今年の発効が確実で食品産業の競争が厳しくなる中、様々な課題を乗り越えていかなければならないと指摘する。

――2018年について

2018年は数多くの災害に見舞われた。その中で、食品産業は、安定供給と生産の回復に努めた1年であったと思う。今後は常に災害が起きうると考えて対応する必要がある。

経済全体は、世界的にもある程度順調に進んできており、日本の景気も回復している。一方で、成長率はマイナスとなっている。国際的には、米中を中心とする貿易摩擦の問題があり、中国の経済成長にも影響が出てくる。また、アメリカ経済やほかの経済への影響を懸念する動きがある。日本にとっては、TPP11が12月30日に発行する。日EUEPAは、2月1日には発行すると見られている。日米貿易協議(TAG)もあり、1月以降交渉が始まる。特に、日EUEPAの発効は、食品産業にかなり影響のある内容となっている。競争は厳しくなっていく。

――国際交渉の影響について

TPP11が発効し、日EUEPAは発効が確実な情勢となっている。米国とのTAG(日米物品貿易協定)については、1月中旬に交渉が可能となる。TAGについては、日米首脳会談の後の声明で、農林水産物については、TPP合意内容を超えないと先方が配慮するとしている。総合的なTPP関連政策大綱には、菓子パスタの対策として、マークアップの削減と特定農産加工業者経営改善臨時措置法の支援業種として追加するとされている。後者について、食品産業センターから2019年度の税制改正要望を提出した。

――働き方改革について

働き方改革というが、そのコインの反対側は生産性の向上ということ。それぞれの事情に応じて多様な働き方をし、1人ひとりの人生を楽しく、生きがいのあるものにし、かつ生産性を上げていこうという取組みだと理解している。その法的な枠組みとして、『働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律』が成立し、労働関係のいくつかの法律が改正された。長時間労働の是正、時間外労働の上限規制、雇用形態に関わらない待遇の同一の扱い、高度プロフェッショナル制度、これらに対応していくことも、各企業に求められている。農水省では、3月に食品産業の働き方早わかりハンドブックを発表した。食品産業センターとしては、会員企業や団体に利用の促進を周知徹底しているところだ。

働き方改革は、生産性向上にもつなげる必要のある問題だ。食品産業センターでは、『食品産業における取引慣行実態調査』を毎年行って、関係機関、流通団体などへ要請を行ってきている。様々な取引慣行は、傾向的には改善してきているが、引き続きいろんな問題があるということは、調査結果として出てきている。これらの問題を含め、食品産業全体としての働き方、生産性向上について、メーカーだけで対応するということではなく、フードチェーン、サプライチェーン全体としてステークホルダーが協力していく姿勢が必要になる。共通認識を持ち、解決策を探るため、『関係団体フードサプライチェーン意見交換会』を立ち上げる試みに取り組んでいる。

――輸出について


食品産業が全体として、海外に目を向け、輸出投資、海外の事業展開というのが大きな課題となっている。それをお手伝いする一つの例として、『栄養改善事業推進プラットフォーム(NJPPP)』がある。官民の連携の場として、2016年9月に設立された。食品産業センターとJICA(国際協力機構)が運営委員会の共同議長を務め、食品産業センターに事務局を設置している。途上国及び新興国の栄養改善をビジネスとして展開していくことについて、官民で連携して支援し、ビジネスモデルを提示していく。63企業・団体が会員となっている。現在いくつかのプロジェクトを動かしつつある。

インドネシアプロジェクトでは、工場経営者と共同で工場労働者に栄養バランスの取れた職場食を導入する取組みを推進している。また、現地アカデミアと協力して、バランスの取れた給食の提供に加え、栄養教育、衛生教育の食育を行う取組みも進めている。カンボジアでは、栄養強化米を取り入れて、栄養状態の改善ができないかということで、栄養に関する基礎データをもとに、強化する栄養素と量を決定してパイロット実証試験を開始した。

ベトナムでは、青森県の弘前COI(センター・オブ・イノベーションプログラム)が推進してきた啓発型健診と食事、栄養改善プログラムをベトナムハイフォン市に導入し、検証を行う。

また、UHC(ユニバーサルヘルスカバレッジ)で、安倍首相が2020年に東京で栄養サミットを行うと宣言した。食品産業センターはNJPPPの事務局として、会員企業と栄養改善に関する事業活動を活発化していきたいと思っている。

――食品衛生規制の見直しについて

食品衛生規制の見直しは、表示の問題と合わせ、個々の企業にとってそれぞれ対応していかなければならない非常に大きな問題だ。6月に食品衛生法の改正が行われた。改正に至るまでの間、『食品衛生法改正懇談会』に食品産業センターから花澤達夫前専務理事が参加し、具体的な法改正の中身の議論に参加した。また、法律の骨子案にはパブコメがあり、食品産業センターから意見を述べた。現在は、具体化するための中身の検討が議論されている。

――表示について

食品表示は、情報の提供として非常に重要な分野。遺伝子組み換えの問題は、消費者庁が設置した『遺伝子組換え表示制度に関する検討会』に、武石徹企画調査部長が委員として参加し、食品事業者の実行可能性という視点で検討会に意見書や資料を提供するなど、会員企業の声を参考に取り組んできた。大きな変更としては、遺伝子組換えでないという任意表示は、5%未満の混入率の、分別管理されたものは可能だったが、検出限界ということで実質ゼロとなった。遺伝子組換えでないという表示は、含まれていないものに限定された。

食品表示の全体像について、2015年の食品表示法施行以降毎年改正が行われており、食品事業者に非常に大きな負担となっている。2018年4月には、消費者庁長官に対し、食品表示見直しのルール化を申し入れた。消費者委員会での指摘や、『加工食品の原料原産地表示制度に係る答申書』の付帯意見で検討を求められ、2018年8月30日の第45回消費者委員会食品表示部会で食品表示の全体像に関する議論が始まった。2019年5月をめどに、遺伝子組換え常時制度と並行して議論が進められる。潜在的に非常に大きな議論だと思っている。

――プラスチック資源循環について

環境省中央環境審議会循環型社会部会の下に『プラスチック資源循環戦略小委員会』が設置され、循環戦略の検討が始まった。2018年11月に具体的な数値がいれられた戦略案が示されパブコメが行われた。2030年までにワンウェイのプラスチック容器包装などを25%排出抑制する、プラスチック製容器包装の6割をリサイクルまたはリユースする、バイオマスプラスチックを約200万t導入するなど。

――消費税増税について

消費税引上げについては、駆け込み需要や反動減の需要変動を平準化することに万全を期するとされたが、価格表示の問題については、『外税方式』とすべきで、総額表示を義務付けることの無いよう要請を行った。『外税方式』の高級化については、流通業者も関心が高い事柄だったため、初めての試みとして2018年10月31日に製配販の27団体連名で関係省庁大臣に要請活動を行った。

2018年11月28日には政府から価格設定のガイドラインが提示され、『外税表示』を認めている消費税転嫁対策特別措置法の総額表示義務の特例は特に変更しないと明らかにされた。現在の特例が2020年までであり、そこに向けて努力していきたい。

――外国人材の受け入れについて

外国人材の受け入れの問題は、臨時国会で関係の法律が成立した。在留資格『特定技能1号』『特定技能2号』について新しい在留資格基準が設けられたが、政府は急ピッチで具体化の検討が行われている。食品産業センターとしては、2018年7月の段階から、政府に食品産業全体として、労働力不足が著しく、他の分野に比べ欠員率が著しいと伝えてきた。来年の4月以降実施するということで、食品産業センターとしては、各業種団体と協力して実施体制の整備などについて取り組んでいきたい。

〈食品産業新聞 2019年1月1日付より〉
食品産業センター・村上秀徳理事長